ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
管理棟の奥へ向かう廊下は、いつもより長く感じた。
照明は点いているのに、光が薄い。まるで空間そのものが、少しだけ現実からズレているみたいだった。
足を止めた瞬間、通信が入る。
「万津君! ちょ、ちょっと待って! 今どこっすか!」
日菜さんの声は、明らかに落ち着きを欠いていた。
普段の軽さがない。焦りが、隠れていない。
「管理室の手前。今から入ろうとしてる」
「ストップ! 一旦止まってください!
……はぁ、間に合った」
息を整える音。
それから、早足の足音が廊下の向こうから近づいてくる。
角を曲がったところで、日菜さんが姿を現した。
タブレットを胸に抱え、髪も少し乱れている。
“急いで飛び出してきた”のが、一目で分かった。
「日菜さん……どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないっすよ。
さっき、私の端末にも来たんです。メール」
その言葉に、胸が嫌な音を立てた。
「……千尋、か?」
「そう。
差出人は“希望ヶ峰学園・中心意識管理”名義。
内容は丁寧で優しいのに、逆に怖いっす」
日菜さんはタブレットを操作して、俺に画面を向ける。
『異常が検知されました。
あなたのサポートが必要です。
万津君は、もう向かっているはずです』
短い文面。
でも、それだけで十分だった。
「……俺と、同時だったんだな」
「ほぼ同時刻っす。
しかも内容が“役割分担”前提。
最初から、私がナビゲーターになる想定で書かれてる」
日菜さんは唇を噛み、視線を管理室の扉へ向けた。
「これ、普通じゃない。
アルターエゴが自主的にSOSを出すケース、前例ないっす」
「じゃあ……」
「誰かが、あそこに手を出した可能性が高い。
しかも、千尋本人の意思とはズレた形で」
廊下の空気が、さらに冷えた気がした。
「……それでも、行くしかないよな」
俺がそう言うと、日菜さんは一瞬だけ迷う顔をして、すぐに小さく笑った。
「その顔、もう決めてるっすね。
まったく……無茶するエージェントだ」
そう言いながら、彼女はタブレットを操作し、俺のゼッツドライバーとリンクを取る。
「いいっすか。
私は現実側でナビします。
何が起きても、声だけは絶対に切らない」
「……ありがとう、日菜さん」
「礼は戻ってきてからっす」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
管理室の扉が、静かに開く。
中から漏れ出す光は、人工的なのに、どこか“呼んでいる”ように見えた。
「……じゃあ、行こう」
「はい。
――ここからは、仕事っす」
日菜さんの声が、はっきりと切り替わる。
その瞬間、俺は確信した。
これはただの異常じゃない。
誰かが、希望ヶ峰学園の“中心”を使って、何かを始めている。