ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
管理室の扉が閉じた瞬間、空気の質が変わった。
音が吸われる。反響しない。まるでこの部屋だけが、学園から切り離された“別の層”にあるみたいだった。
「……ここが、希望ヶ峰学園の中心管理室」
自分の声が、少しだけ遠く聞こえる。
正面には巨大な円形端末。壁一面に走る光のラインは、脈打つように明滅していて、機械というより生き物に近い。
「万津君、ここがアルターエゴの管理領域っす。
でも……ちょっと待って」
日菜さんの声が、いつもより低い。
通信越しでも分かる、その“引っかかり”。
「ログが……変。
この部屋、さっきまで誰かが使ってた形跡があるっす」
胸の奥が、ひやりと冷えた。
「誰か……って、俺たち以外に?」
「可能性は高いっす。
ケーブルの抜き差し、端末のアクセス履歴……消そうとして、消しきれてない」
円形端末に近づく。
確かに、表面のガラスに薄く残った指の跡。
それは俺のものでも、日菜さんのものでもない。
「……千尋が、俺を呼んだんじゃなかったのか」
そう呟いた瞬間、端末が自動的に起動した。
柔らかい光と共に、あの声が流れる。
「万津君。来てくれてありがとう」
不二咲千尋の声。
優しくて、落ち着いていて――それが逆に、不安を煽る。
「さっきまで……誰か、ここにいたのか?」
一瞬、沈黙。
それから、ほんのわずかなノイズを挟んで、アルターエゴは答えた。
「……正確には“干渉がありました”。
私の管理外からのアクセスです。意図は解析できていません」
管理外。
その言葉が、やけに重い。
「万津君。
このままでは、希望ヶ峰学園の意識領域が不安定化します。
そこでお願いがあります」
端末の中央に、新しい装置の映像が映し出される。
見覚えのある構造――希望更生プログラム。
「この装置を使用して、意識領域へ来てください。
あなたの同調値が、現在もっとも安全です」
安全、という言葉を、素直に信じられない自分がいる。
だが、ここで引き返す理由もなかった。
「……罠の可能性は?」
俺の問いに、日菜さんが即座に応じる。
「否定できないっす。
でも、放置したら星のソムニウム世界、もっと歪む。
それに……この干渉、教団側の匂いがする」
胸の奥で、嫌な予感が確信に変わる。
誰かが、俺たちより先に、
この“中心”に手を伸ばしている。
「……行くしかない、か」
希望更生プログラムの装置に近づくと、床のラインが淡く光り、俺の足元へと収束していく。
「万津君。
私は、ここからナビゲートを続けます」
千尋の声は、どこまでも優しい。
だからこそ、その裏に潜む“何か”が、余計に見えなくなる。
「日菜さん、頼む」
「了解っす。
――戻ってきてくださいよ、絶対」
装置が起動する。
光が視界を覆い、世界の輪郭が溶け始める。
最後に見えたのは、
端末の奥、ログの隙間に残った“誰か”のアクセス痕。
それが誰なのか。
何を求めているのか。
答えはまだ、意識の向こう側だ。