ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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背中合わせ Part7

 意識領域の入口を抜けた瞬間、光が波紋のように重なり、視界全体が一瞬だけ白く震えた。

 そして澄んだ海の青が、どこまでも広がる世界に変わった。真正面には青い空と白い砂浜、それだけなら平穏な南の島のようだった――だが、空気は微妙に違和感を帯びていた。

 

 波の音が、どこか電子的なリズムを刻んでいる。

 足元を見ると、砂粒の一つひとつが微細な光の点として揺れている。まるで砂の一粒一粒が情報でできているような感覚だった。

 

 「……ここが、意識領域の中核……なのか?」

 

 思わず呟いた瞬間、波間の光が重なり合って一つの人影を描いた。

 

 「えっと、君は」

 

 肩までの薄いピンクの髪、眠たげな瞳、そしていつもの猫耳パーカー。ただし、そこには微妙な“ゆらぎ”があった。姿が一瞬だけ歪んだり、笑顔が一瞬だけ遅れて表示されるような、不安定な雰囲気が漂っている。

 

 七海は俺を見て、いつもの穏やかな声で言った。

 

「こんにちは……万津君。私は、七海千秋。まぁ、ここでの案内人かな?

 ここが意識領域の中核、ジャバウォック島だと思うよ……たぶん」

 

 言葉は柔らかいが、語尾にわずかな躊躇がある。まるで「確信」を持てないまま話しているようなリズムだった。

 

 俺は一瞬、唖然とした。

 ここが、夢でも現実でもない、どこでもない世界だというのは分かっていた。だが、その最初の案内人が七海だという事実――それは予想を越えていた。

 彼女は普通の人間ではなく、AIとして存在していたはずの存在だ。ここで案内役をしているということは、俺が踏み込んだこの空間――新世界プログラムの内部そのものに彼女の演算モデルが融合しているのかもしれない。

 

「この世界は“新世界プログラム”が基盤になっているよ。

 希望ヶ峰学園の意識領域を維持するためのプログラムで、こうして形を保っているんだ……と思うよ」

 

 七海はゆっくり首をかしげ、落ち着いた声で説明する。だが、言葉の端々に微細なノイズが混ざる。

 瞬きのタイミングが一瞬だけ遅れたり、言葉がほんの少しだけ時間差を伴って聞こえたりする。

 

 それでも、彼女の声には優しさがあった。

 それはこの異常な世界の不安を和らげようとする、どこか“本物の気配”のようにも感じられた。

 

「ここは……一種の仮想世界みたいなものだと思うよ。

 ただ普通の夢や幻覚とは違って、情報として構成されている。

 たぶんそれが“新世界プログラム”の正体なんだと思うよ」

 

 七海の言葉が確信になりきれないのは、この世界自体が形を保つために不安定な管理状態にあるからだろう。

 波の音がまた電子的なリズムを刻み、空に薄い幾何学模様の影が走る。

 

「ねぇ……万津君。

 見て」

 

 七海が指先で示した先を見ると、海岸の向こうの建物が一瞬だけ崩れ、裏側の情報コードのような模様が見えた。

 まるで世界の表面が一瞬だけ剥がれ、内部の構造が露出したかのようだった。

 

 それを見た瞬間、胸の奥が冷たくなった。

 俺がここに来る前に、何かがこの世界の基盤に触れていた――そして、その影響がこのジャバウォック島の「世界そのもの」を壊し始めている。

 

「これ……異常、だよね?」

 

 俺が呟くと、七海は少しだけ目を細めて頷いた。

 

「うん……そうだと思うよ。

 この島の情報の流れが、どこか歪んでいる」

 

 言葉は穏やかだが、そこには明確な危険性の認識が込められていた。

 波の音が一段と低い周波数へと変わる。

 

 ジャバウォック島の明るい景色の裏で、

 確実に世界そのものが崩れ始めている。

 

 そして――俺たちはまだ、崩壊の入口に立っているだけだった。

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