ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

140 / 253
南国 Part6

 転送カウントが、無慈悲な速度でゼロへと近づいていく。

 

【CORE DEFENSE TRANSFER — 10】

 

 管理室の照明が、赤く染まった。

壁一面のモニターには、新世界プログラム中核層の構造図が映し出され、そこに無数の侵入警告が重なっている。

 

『……座標固定……転送ライン、再構築中……』

 

 日菜の声は、いつもより低く、速かった。

 

『……万津君……中核層……

 通常のソムニウム層とは……完全に構造が違う……

 重力概念……時間演算……

 かなり、歪んでる……』

 

 七海は、俺の隣で静かに立っていた。

 

 だが、やはりおかしい。

 

 肩の輪郭が、時々、微妙に遅れて表示される。

瞬きをするたび、彼女の影が一拍遅れて揺れる。

 

「……七海……無理するな」

 

「……大丈夫……」

 

 そう言いながら、彼女の声は、どこか遠かった。

 

「……中核……

 私の……“帰る場所”でも、あるから……」

 

 その言葉が、妙に胸に引っかかった。

 

【5】

 

 空間が、歪み始める。

 

 床の模様が、ゆっくりとほどけ、

白と青の幾何学が、黒い格子へと崩れていく。

 

『……侵入予測……30秒以内……

 相手……すでに……

 防衛層の“裏側”に……』

 

 日菜の声が、かすかに震えた。

 

『……来る……

 たぶん……

 もう……すぐ……』

 

【3】

 

 七海が、そっと俺の袖を掴んだ。

 

「……万津君……」

 

「なんだ」

 

「……中核層……

 たぶん……

 今までのジャバウォック島とは……違う……」

 

「……どう違う」

 

 七海は、一瞬だけ、言葉を失ってから、静かに言った。

 

「……“人の記憶”じゃなくて……

 “人の意識そのもの”が……

 そのまま……地形になってる……」

 

 ぞっとした。

 

 地形が、意識。

 建物が、記憶。

 影が、後悔。

 

 ここは、世界じゃない。

 

 心臓だ。

 

【1】

 

 視界が、砕ける。

 

 転送の衝撃が、全身を引き裂くみたいに走った。

 

――――――――――

 

 次に目を開けたとき、そこは……ジャバウォック島、だった。

 

 ……ただし。

 

 俺の知っている島じゃない。

 

 空は、夜でも昼でもなく、紫と黒が混ざった濁った色。

雲は逆流するように流れ、海は水ではなく、無数の光の粒子でできている。

 

 地面には、島の地形と、巨大な回路模様が重なっていた。

 

 ホテルの輪郭は溶け、観覧車は途中で折れ、

建物の壁には、人の記憶の断片みたいな映像が、無数に浮かんでは消えていく。

 

「……ここが……中核層……」

 

 声が、やけに小さく響いた。

 

『……映像……確認……

 ……うわ……

 これ……島っていうより……

 “演算装置の内部”っすね……』

 

 日菜のモニター越しの声が、かすかにノイズを含む。

 

『……重力……安定してない……

 時間フレーム……

 0.3秒ずつ……ズレてる……』

 

 足元を見ると、影が二重に揺れている。

一歩踏み出すと、靴底の感覚が、遅れて伝わってきた。

 

 ここは、現実と夢の境界ですらない。

 

 “意識の演算層”そのもの。

 

 七海は、周囲を見渡しながら、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……侵入経路……

 まだ……閉じ切ってない……」

 

 彼女の視線の先。

 

 島の中央――かつてのモノクマ岩があった方向に、

巨大な“裂け目”が走っていた。

 

 空間が、縦に割れている。

 

 その奥には、まるでブラックホールみたいな、

暗い演算の渦が、静かに回転していた。

 

『……あそこ……

 中核層の……直通ポート……』

 

 日菜の声が、低くなる。

 

『……侵入者……

 たぶん……

 もう……あそこに……』

 

 その瞬間。

 

 ――島全体が、ぎしり、と音を立てた。

 

 地面が、わずかに沈む。

 

 回路模様が、赤く発光する。

 

 遠くで、何かが……“起動する音”。

 

「……来る……」

 

 七海が、はっきり言った。

 

 風が、止んだ。

 

 雲が、動きをやめた。

 

 光の海が、凍りついたみたいに静止する。

 

 まるで、この世界そのものが、

“次に起きること”を、息を殺して待っているみたいだった。

 

『……侵入反応……急上昇……!』

 

 日菜の声が、鋭く跳ねる。

 

『……座標……

 裂け目の……内部……

 権限反応……検出……!』

 

 裂け目の奥で、闇が、ゆっくりと膨らみ始める。

 

 黒い霧。

 いや、霧じゃない。

 

 無数のデータ片が、形を作りながら、

“誰か”の輪郭を描き始めていた。

 

 心臓が、耳元で鳴り始める。

 

「……七海……」

 

「……うん……」

 

 彼女は、小さく頷いた。

 

「……ここから……

 私……案内……難しい……」

 

「……それでも、一緒に行く」

 

 七海は、ほんの一瞬だけ、微笑んだ。

 

 でも、その笑顔が、どこか……壊れかけのログみたいに、不安定で。

 

『……万津君……』

 

 日菜の声が、深く、低くなる。

 

『……敵……

 中核層に……完全侵入……

 もう……

 戦闘回避……不可能……』

 

 裂け目の中で、

“それ”の影が、完全に立ち上がる。

 

 誰の姿かは、まだ分からない。

 

 でも、はっきりと分かる。

 

 ――ここから先は。

 

 もう、逃げる場所なんて、どこにもない。

 

 俺は、ゆっくりとゼッツドライバーに手を伸ばした。

 

 金属の冷たさが、掌に伝わる。

 

「……行くぞ」

 

 誰に向けた言葉かも、分からないまま。

 

 この世界の心臓を守るために。

 

 そして――

 七海を、失わないために。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。