ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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南国 Part7

――裂け目の奥の闇が、静かに“形”を持ちはじめた。

 

 最初に見えたのは、靄の中に浮かぶ一対の靴底だった。

 次に、ゆっくりと現れたのは、黒い外套の裾。

 その布は風に揺れているのに、島の空気は、相変わらず完全に止まったままだ。

 

「……誰だ……」

 

 喉の奥から、かすれた声が漏れる。

 

 闇の中から、男が一歩、こちら側へ踏み出した。

 

 年齢は分からない。

 顔立ちは整っているはずなのに、どこか“人形”めいて、感情の温度が感じられない。

 だが、何より目を引いたのは――

 

 その胸元。

 

 外套の奥、胸の中央に、はっきりと装着された異物。

 

 深いワインレッドと金の縁取り。

 横長の流線形のユニット。

 中央に透明なドーム、その奥に、淡く脈打つ紫色の光。

 

「……あれ……」

 

 思わず、息を呑んだ。

 

 見覚えが、ありすぎた。

 

 ゼッツドライバーとも、ノクスドライバーとも違う。

 けれど、**同じ系譜の“変身装置だと、直感で分かる。

 

『……万津君……』

 

 日菜の声が、モニター越しに、露骨に強張る。

 

『……解析……一致……

 ……あれ……

 ナイトインヴォーカー……じゃない……

 ……新型……

 ……ロード……インヴォーカー……』

 

「……ロード……?」

 

 その名前を、頭の中で反芻した瞬間。

 

 男が、ゆっくりとこちらを見た。

 

 視線が、俺と七海を、正確に貫いた。

 

 初めて“視線”を向けられたのに、なぜか――

 ずっと前から、見られていた気がした。

 

「……なるほど」

 

 低く、穏やかな声。

 

 怒りも、敵意も、驚きもない。

 ただ、観察する研究者みたいな声音。

 

「ここまで、辿り着いたか」

 

 七海が、俺の一歩前に立った。

 

「……あなた……

 ここ……立ち入り禁止……」

 

 男は、少しだけ首を傾げる。

 

「禁止、か。

 そういう言葉は、いつも“守れない側”が使う」

 

 胸元の装置が、かすかに、光った。

 

『ロードインヴォーカー』

 

 その瞬間。

 

 背筋を、氷水で貫かれたみたいな悪寒が走った。

 

 ――危険だ。

 

 理屈じゃない。

 ゼッツドライバーに触れた時と、同じ直感。

 

 “起動されたら、終わる”

 

『……万津君……

 あの装置……

 ノクスドライバーより……

 さらに……深層権限……アクセス可能……』

 

 日菜の声が、かすかに震えている。

 

『……中核層……

 直接……書き換え……できる……かも……』

 

 つまり。

 

 あれは、ただのライダーシステムじゃない。

 

 この世界の心臓を、直接、握れる鍵。

 

 男は、俺の視線に気づいたのか、わざとらしく胸元を撫でた。

 

「……これが気になるか?」

 

 微笑む。

 

 けれど、その笑みは、どこにも“優しさ”がなかった。

 

「安心しろ。

 まだ……使うつもりはない」

 

「……じゃあ……何のために……ここに来た」

 

 俺が問いかけると、男は一瞬だけ、視線を伏せた。

 

 ほんの、ほんの一瞬。

 

 その表情に――

 言葉にできない“焦り”の色が、滲んだ気がした。

 

「……少し、探し物をしているだけだ」

 

「探し物……?」

 

「君には、関係ない」

 

 そう言って、男は、七海の背後にちらりと目をやった。

 

 ――ぞくり。

 

 今の視線。

 

 七海を“人”として見ていなかった。

 

 “データ”として、見ていた。

 

「……その先……行かせない……」

 

 七海の声が、いつもより、少しだけ強い。

 

 男は、肩をすくめた。

 

「邪魔をするなら……困るな」

 

 その瞬間。

 

 ロードインヴォーカーの中央ドームが、淡く回転し始めた。

 

 周囲の回路模様が、赤から紫へと変色する。

 

 島の地面が、わずかに、悲鳴みたいな振動を立てた。

 

『……起動予兆……検出……!』

 

 日菜の声が、跳ねる。

 

『……演算権限……奪取準備……

 ……危険度……

 ……最上位……!』

 

 男は、ゆっくりと両手を広げた。

 

 構え。

 

 明確な“戦闘準備”。

 

「……君たちが、ここで止まれば……

 争わずに済む」

 

 静かな声。

 

 でも、その奥に。

 

 **「目的を邪魔するなら、排除する」**という意思が、はっきり滲んでいた。

 

 俺は、反射的に七海の前に立った。

 

 ゼッツドライバーに、指をかける。

 

 心臓が、異常な速さで脈打つ。

 

「……悪いけど……」

 

 声が、少し震えた。

 

「ここは……

 俺たちの……守る場所だ」

 

 男は、初めて、ほんの少しだけ、楽しそうに笑った。

 

「……そうか」

 

 ロードインヴォーカーの両翼状プレートが、かちり、と展開する。

 

 中央ドームの中で、何かが――目を覚ました。

 

「――では」

 

 低く、はっきりと。

 

「君たちを、越えていく」

 

 世界が、再び、音を失った。

 

 次の瞬間。

 

 戦いが、始まる。

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