ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
――胸元のロードインヴォーカーが、低く、軋むような起動音を立てた瞬間。
俺は反射的に、一歩、後ずさった。
「……やめろ……!」
声を張り上げたのに、届かなかった。
丑寅幽玄は、まるで最初から決めていた手順をなぞるように、静かに動く。
外套の内側から取り出した小さなカプセム――地団駄でバグを吹き飛ばす亜人が描かれている。刻まれたそれを、迷いなく胸の装置へ押し込んだ。
その名を、日菜の警告が脳裏に叩き込むより早く。
ロードインヴォーカーの中央ドームが、ぎらりと光った。
『……ショック……』
待機音が、短く、鋭く鳴る。
俺がゼッツドライバーに手を伸ばした、その刹那。
『――インヴォークロードシステム!ショック』
轟音。
いや、轟音の“はず”だった。
一瞬、世界の音が、全部、途切れた。
――ザーッ。
耳鳴りのような、ノイズ。
画面が乱れたみたいに、丑寅の輪郭がぶれる。
足元から、黒い霧が爆発するように噴き上がり、彼の影が異様な形で引き延ばされた。
六時の位置から、十時、そして四時二十分の角度へ。
影が、回転し、砕け、粒子になって――
次の瞬間。
そこに立っていたのは、もう“人間”じゃなかった。
ノクスナイトとほとんど同じシルエット。
黒と青の装甲、鋭い複眼、影を思わせるライン。
――だが、決定的に違う部分。
左肩。
そこだけが、血のように濃い赤の装甲で覆われていた。
まるで、心臓の位置を外側に移したみたいに。
「ロードファイブ、それがこのきっちりとした名前だぜ」
その名が、遅れて、俺の中で形になる。
変身が終わると同時に、装甲の隙間から、まだ消えきらないノイズが、ぱちぱちと火花のように散った。
日菜の声が、激しく割れた。
『……万津君……!
変身完了……
……演算ノイズ……異常……!』
ロードファイブは、ゆっくりと首を鳴らした。
装甲の擦れる音が、この世界の静寂を切り裂く。
そして、こちらを、まっすぐに見た。
「……さて」
その声は、もう、人間の喉から出ているようには聞こえなかった。
どこか金属が混じった、冷たい響き。
「これからの教団の為にも……」
一歩、こちらに踏み出す。
地面の回路模様が、その足跡から赤く染まっていく。
「……きっちりと、お前を倒させて貰おうか」
その瞬間、はっきりと理解した。
こいつは、交渉するつもりなんて、最初からなかった。
俺を――
“排除対象”として、処理するだけ。
背筋を、氷の刃でなぞられたみたいな悪寒。
それでも、俺は、逃げなかった。
ゼッツドライバーを、強く握りしめる。
「MISSIONSTART」
そうして、ゆっくりと走り出す