ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
――世界が白く飛びかけた、その刹那。
俺は、はっきりと見た。
丑寅幽玄の胸元、ロードインヴォーカーの中央ドームが、異質な回転を始めるのを。
「さて、きっちりとやっていこうか」
今までの淡い紫の光とは違う。
内側から、濁った鉄色の光が滲み出てくる。
「……っ、何だ……?」
直感が、悲鳴を上げた。
あれは――
見覚えが、ありすぎる。
丑寅は、ブレイカムバスターを軽く引き、わざと一歩、距離を取った。
戦闘を止めた、というより……
次の工程に移るための間を作った動き。
「……やはり……ここで終わらせるべきだな」
その声は、静かで、冷静で、そして……どこか、楽しげだった。
彼は、外套の内側から、もう一つのカプセムを取り出す。
黒ずんだ金属色。
表面には、砕けた歯車と、歪んだ建機のシルエット。
それを見た瞬間。
心臓が、凍りついた。
「……嘘……だろ……」
記憶が、嫌というほど鮮明に蘇る。
錆びたショベルカー。
崩れかけのブルドーザー。
クレーンの影に覆われた、瓦礫の街。
――ジャンクナイトメア。
俺が、命がけで倒したナイトメアの一体。
「壊す」ことそのものを夢にした、最悪の悪夢。
『……万津君……
それ……
過去のナイトメアデータ……一致……
……ジャンクナイトメア……』
日菜の声が、はっきりと震えた。
『……でも……おかしい……
……反応値……
当時の……三倍以上……』
「……三倍……?」
冗談じゃない。
あの時でさえ、死ぬかと思った相手だ。
丑寅は、何の迷いもなく、そのカプセムをロードインヴォーカーへ押し込んだ。
カチリ。
金属音と同時に、装置全体が、重々しく振動する。
『……ジャンク……』
低く、歪んだ待機音。
次の瞬間。
『――ジャンク!』
音声が鳴った瞬間、世界が軋んだ。
裂け目の奥から、黒い霧ではなく――
錆と鉄と油の匂いが、溢れ出した。
地面の回路模様が、一気に腐食したみたいに黒ずみ、島の地形そのものが、悲鳴を上げる。
丑寅の身体の周囲に、何かが“召喚される”。
いや――
“引きずり出される”。
最初に現れたのは、巨大なショベルアーム。
錆びつき、関節が軋み、刃の先端は欠けているのに――
動きは、異様なほど滑らかだった。
それが、丑寅の右腕に、装甲として貼りつく。
次に、ブルドーザーのキャタピラと運転席の残骸が、彼の脚部に巻き付き、装甲へと変形する。
最後に、クレーンのアームとワイヤーが背中から伸び、歪んだ外骨格のように固定された。
――まるで。
廃棄された重機の墓場が、
一人の人間に、無理やり“鎧”として縫い付けられたみたいだった。
ロードファイブの姿は、ノクスナイトとほとんど同じシルエットのまま。
だが、そこに。
錆びた建機の装甲が、層のように重なっている。
左肩の赤い装甲の上に、さらに重たい鉄塊。
異様な重圧が、空気そのものを押し潰した。
『……演算値……急上昇……!
……破壊属性……
……限界突破……!』
日菜の叫び。
俺は、思わず一歩、後ずさった。
「……冗談……だろ……」
喉が、ひどく乾く。
同じ能力だ。
でも――
次元が、違う。
かつて戦ったジャンクナイトメアは、
「壊せる」悪夢だった。
でも、今、目の前にいるこれは。
“触れた存在そのものを、機能不能にする”破壊。
しかも、夢の怪物じゃない。
“ライダーシステム”に組み込まれ、
“制御された最悪”。
丑寅は、ゆっくりと腕を動かした。
ショベルアームが動くだけで、空間が削れる。
島の地面が、勝手に崩れ、瓦礫が“使い物にならない塊”へと変質していく。
彼は、こちらを見て、静かに言った。
「……以前、君が倒した悪夢だそうだな」
淡々と。
残酷な事実を、ただ報告するみたいに。
「データとしては……優秀だった」
「……ふざ……けるな……!」
声が、勝手に荒れる。
「……あれは……
俺が……命かけて……!」
「……だからだ」
丑寅の複眼が、赤く光る。
「君の“戦闘履歴”は……
非常に、参考になる」
ぞっとした。
俺が戦ってきた悪夢。
救ってきた人。
倒してきた敵。
――全部、素材だ。
丑寅は、クレーンアームを軽く振った。
それだけで、十数メートル先の建物の残骸が、**粉々に分解され、“二度と組み直せない塊”**に変わる。
『……万津君……
……防御……不可……
あれ……
ゼッツの装甲でも……
破壊……一撃……』
日菜の声が、かすれる。
俺は、歯を食いしばった。
フィジカムインパクトの身体が、重くなる。
装甲の内側で、心臓が嫌な音を立てている。
互角だったはずの戦いが、
一瞬で、致命的な格差に変わった。
丑寅は、一歩、踏み出した。
キャタピラ装甲が回転し、地面が削れ、裂け目がさらに拡大する。
「……さて」
低く、淡々と。
「次は……壊れる側だ」
俺は、ゼッツァーを握り直した。
手が、わずかに震えている。
でも――逃げない。
逃げたら、七海が壊れる。
中核が壊れる。
この世界が、壊れる。
「……くそ……」
喉の奥で、かすれた笑いが漏れた。
「……ほんと……
最悪の……切り札……持ってきやがって……」
それでも。
俺は、一歩、前に出た。
フィジカムインパクトの装甲が、きしりと鳴く。
――壊される前に。
壊させない。