ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
雷光を帯びた刃が、俺の両手の中で唸った。
イナズマブラスターを近接モードで構え直す。弓の輪郭が折り畳まれ、刃のラインが露出する。電撃が縁をなぞり、空気が細かく裂け続ける。
「行く!」
踏み込む。
地面に残った回路模様が焼け、足跡が光の傷になる。距離はもう意味を持たない。ロードファイブの目前まで、一息で滑り込んだ。
振り上げ、斬る。
雷をまとった斬撃が、ジャンク装甲の肩口を横薙ぎに走った。金属が裂ける音ではなく、“役割を失う音”が鳴る。装甲表面が黒ずみ、層が一枚、死ぬ。
だが、深くは入らない。
「……浅い」
ロードファイブの声は冷静だった。
次の瞬間、ショベルアームが至近距離で振り抜かれる。
受ける。
イナズマブラスターの刃と重機アームが激突し、雷と錆が弾けた。衝撃が腕を通って背骨まで突き抜ける。押し切られる前に、体を捻って力線を逃がす。
そこへ――銃声。
乾いた連射音が、空間を貫いた。
最原だ。
ノクスはブレイカムゼッツァーを銃モードで両手に構え、二丁拳銃の形で撃ち続けている。左右の射線がわずかにずれ、互いの死角を埋める配置。探偵の射撃は、感覚じゃない。配置だ。
「右関節、負荷集中点!」
光弾が、ロードファイブの膝部装甲に連続着弾する。同じ場所に、誤差なく。ジャンク装甲の一部が剥がれ、内部フレームが露出した。
ロードファイブが即座に反応する。足元の瓦礫が浮き上がり、盾のように展開された。
だが、そこで止まらない。
浮いた瓦礫が、そのまま弾丸に再利用される。大小の破片が全方位へ射出された。軌道が読めない乱反射攻撃。
「散るぞ!」
俺は低く跳び、横へ抜ける。
最原の影が地面からせり上がり、壁のように展開して数発を受け止めた。影に触れた瓦礫が拘束され、その場で圧壊する。
俺はその壁を蹴り、再加速。
接近戦に戻す。
雷刃を逆手に持ち替え、装甲の継ぎ目だけを狙って斬撃を刻む。肩、脇腹、腰部。深さよりも、“機能を削る”角度で。
ロードファイブは後退しない。
代わりに、周囲を壊す。
地面が崩れ、建物の骨組みが引き剥がされ、空中で再構成される。重機の残骸が再装着され、装甲が増殖する。
「環境を鎧にしてる……!」
『そうっす! あれ、破壊と同時に再武装してる!』
日菜の解析が飛ぶ。
なら、削り続けるしかない。
最原の二丁射撃が止まらない。
弾道が、俺の斬撃と噛み合う位置に置かれている。俺が切った装甲の“奥”へ、必ず光弾が入る。
「万津、三秒後、上!」
「了解!」
カウントを信じる。
三。
二。
一。
俺は跳んだ。
同時に、下から影が伸びてロードファイブの足を縫い止める。動きが、ほんの一拍止まる。
そこへ、落下斬。
雷光を引きずる縦一閃が、胸部装甲を叩き割った。深部まで届かない。だが、確実に削れている。
ロードファイブが初めて大きく体勢を崩した。
それでも倒れない。
むしろ――エネルギー反応が上がる。
胸元のロードインヴォーカーが、不穏な回転を始めた。
『……出力、段階上昇! 次、デカいの来るっす!』
俺と最原は、同時に距離を取った。
互いに息が荒い。
装甲のあちこちが焦げ、裂け、光が漏れている。
だが、目は死んでいない。
「……削れてる」
俺が言う。
「うん。装甲値、確実に落ちてる」
最原が答える。
「なら――」
言葉は途中で止める。
まだ早い。だが、同じ考えが共有されているのが分かる。
ロードファイブの装甲が軋みながら再構築を始める。ジャンクの残骸が磁石のように引き寄せられ、欠けた部位を埋めていく。時間を与えれば、また硬くなる。
「――今だ」
最原の声が低く響いた。
俺も同時に理解する。
削り切った。次は、貫く番だ。
ノクスドライバーに手が伸びる。
影が足元で濃度を増し、地面一帯を黒く染めた。
『シャドウ!リデンプション!』
音声が鳴ると同時に、ドライバーが再回転する。影が一気に広がり、ロードファイブの足元を完全に覆った。
影が“面”ではなく、“手”になる。
何本もの影の腕が地面から伸び、ジャンク装甲の脚部へ絡みつく。拘束というより、固定。重機のような重量を、地面そのものに縫い止める。
「動きは、ここで止める!」
最原が跳ぶ。
影が収束し、彼の脚部へ集中する。装甲の縁取りが黒く発光し、蹴りの軌道がはっきりと見えるほどエネルギーが凝縮される。
その瞬間――俺も動いた。
イナズマブラスターを引き、全力で跳躍する。
空気を裂き、さらに上へ。
世界が一瞬、止まったように見えた。
未来の軌跡が、視界に閃く。
落下点。角度。貫通ライン。結果。
『プラズマ!バニッシュ!ゼ・ゼ・ゼッツ!』
音声が空を震わせる。
雷光が脚部に集束し、蹴りの形へと固まる。落下はもはや重力じゃない。雷撃だ。
上下から、同時。
最原の影のライダーキックが、横から心臓部を狙い、
俺の雷のライダーキックが、上空から中核を撃ち抜く。
衝突。
音が、消えた。
次の瞬間、爆ぜる。
光と影が交差し、ジャンク装甲が内側から砕け散った。重機の残骸が粉末化し、粒子となって吹き飛ぶ。
胸元のロードインヴォーカーが露出する。
そこに、二撃目の余波が叩き込まれた。
――亀裂。
ジャンクカプセムが、中心から割れる。
光が漏れ、ノイズが走り、形が崩壊する。
「……ばかな……」
丑寅の声が、初めて乱れた。
ロードファイブの輪郭が揺らぐ。
装甲が透過し、影の残像だけが残る。
まるで映像が巻き戻されるみたいに、存在が薄れていく。
「……計算外、か」
最後にそう呟き――
ロードファイブは、幻のように消えた。
静寂が落ちる。
瓦礫の動きも止まり、空気の腐食臭も消えていく。中核層の回路光が、ゆっくりと安定色へ戻った。
俺は着地し、よろけながらも踏みとどまる。
最原も数メートル先に降り立ち、肩で息をしている。
しばらく無言。
それから、同時に顔を上げた。
「……終わった、な」
「うん。今回は」
俺たちは歩み寄り――
パチン、と音を立ててハイタッチした。
雷の焦げ跡と、影の残滓が、その間で静かに揺れた。
勝利は、確定した。