ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
あの戦いから数日。
ロードファイブは、残念ながら取り逃がしてしまった。
システムを守る事は成功したが、未だに教団の謎は残っていた。
そして、今日も放課後の校舎は静まり返っていた。
蛍光灯の光が冷たく反射する廊下の床に、俺の靴音だけが静かに刻まれていく。
棚にしまおうと手にしたノートを、ふと横から声が遮った。
「万津君……それ、落ちてたのをゴン太が拾っといたよ。きっと万津君のだと思ったんだ」
その声は低くて丁寧で、威圧感とは無縁だった。
大柄な体格から想像される不気味さはどこにもなく、どこか純粋な気遣いが込められている――そんな印象だった。
「ありがとう。助かったよ」
「いや……ゴン太、万津君のノートは大事にしたいと思って……」
ゴン太は自分のことを“ゴン太”と呼び、俺を“万津君”と呼んだ。
その不器用な敬意は、――威圧や堅苦しさではなく、まっすぐな優しさとして響いた。
棚にしまいながら、俺はふと気づいた。
廊下の空気が、どこか違和感を孕んでいる。
ゴン太の声は変わらず穏やかだが、俺の意識だけが微妙に何かを“探していた”。
まるで自分の視界の片隅に、小さな影がちらついて消えるような――そんな気配。
「最近、変なことありませんか? ゴン太、帰り道で猫を拾ったんですよ。それで……その後、妙な気配を感じまして……」
言葉そのものは日常の雑談だ。
だが、言葉の合間に漂う“間”が、何かを引きずっていた。
「変だって、どういう……?」
「いや……猫はケガしてましたけど、元気に逃げていきましたし……ただ、助けた直後、ふと……視線を感じたような気がしまして……」
俺は明確に振り返った。
だが廊下には俺たち以外、誰の姿もない。
落ち着いたはずの空気の中で、俺は違和感を感じた。
何というか――
静寂そのものが、こちらを見つめているような視線を感じる。
壁沿いの影が、ほんの少しだけ歪んだように見えた。
「誰かいたのか?」
「いえ……いませんでした……でも……何かに見られているような気がしたんです。ゴン太、そういうのは苦手でして……」
ゴン太は肩の力を抜き、笑みを浮かべた。
照れくさそうな、しかし真剣な笑顔だった。
こちらを安心させようとする善意が、そこには確かに存在した。
「はは……気のせいかもしれませんけど……万津君は、どう思います?」
俺は深く息を吐いた。
違和感は確実にそこにある――
だが、明らかな形としてはまだ何も現れていない。
「……安心しろ。今は誰もいない。誰も……」
俺の声は、すぐに震えを含んだ。
――廊下の奥、蛍光灯の反射が弱くなった場所で、
何かがゆらりと揺れた気がした。
その揺れは、誰かが動いたような確信を与えた。
だが、視線を向けると、そこには誰もいない。
「……ええと……万津君……」
ゴン太の声が再び届く。
だがそのタイミングで、廊下の奥の光が一瞬だけ強く点滅した。
チカッ――。
その一瞬、まるで何か“違う層”の何かがこちらを見ていたような気配がした。
俺は一瞬で背筋が硬直した。
それが何かは分からなかった――
ただ、その違和感は、確かにそこに在った。