ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
目を開けた瞬間、光があった。
眩しいというより、均一で、整理された光だ。影は柔らかく、空気は澄み、呼吸をしても喉が引っかからない。足元には石畳が続き、少し先には木造の家が並んでいる。窓辺には花が咲き、風に揺れていた。
「……明るいな」
思わず、そう口にしていた。
これまで入ってきたソムニウム世界とは明らかに違う。悪意の気配も、圧迫感もない。むしろ、ここは落ち着く。整理されすぎていると言っていいほど、穏やかだ。
少し歩くと、人の声が聞こえた。
「ゴン太、ありがとう!」
振り向くと、ゴン太がいた。
いつもの制服姿だが、ここではその巨体が不思議と周囲に溶け込んでいる。困っていた老人を支え、倒れた荷車を元に戻しているところだった。
「紳士として当然のことだよ。困っている人は助けなきゃいけない」
その言葉に、老人は何度も頭を下げた。
「本当に助かったよ。君がいなかったら、大変なことになっていた」
「えへへ……ゴン太、役に立てて嬉しいよ」
ゴン太は照れたように笑った。
その笑顔は、現実で見るものと何も変わらない。むしろ、少し安心したように見える。
町の人々も、彼に好意的だった。
子どもは駆け寄り、花を差し出し、通りすがりの人間は礼を言う。誰も怯えていない。誰も拒絶していない。
……完璧すぎる。
胸の奥で、小さな引っかかりが生まれた。
理想的すぎるのだ。この光景は。
ゴン太が助け、感謝され、笑顔が返ってくる。そこに疑問を差し込む余地がない。
「なあ、ゴン太」
声をかけると、彼はすぐに振り向いた。
「万津君! どうしたの?」
「……ここ、変だと思わないか?」
ゴン太は一瞬、きょとんとした顔をした。
「変? とっても良い町だと思うよ。みんな優しいし、誰も困っていない」
その答えは正しい。
正しすぎる。
ゴン太はまた別の場所へ向かい、壊れた柵を直し始めた。周囲からは、また感謝の声が飛ぶ。
その時だった。
柵を直した直後、背後の建物が、ほんのわずかに軋んだ。
音は小さい。
気のせいだと切り捨てられる程度だ。
だが、確かに聞こえた。
助けた直後に、別の何かが壊れる。
偶然だ。
そう考えようとしたが、胸の奥の違和感は消えなかった。
「……なあ、ゴン太。さっき、音しなかったか?」
「え? ゴン太には、特に何も……」
ゴン太は首を傾げる。
その視線は真っ直ぐで、疑いがない。
ここが悪夢だとは、まだ言えない。
だが、なぜか分からないが、この世界は“このままでは終わらない”。
そんな予感だけが、静かに、確実に積み上がっていった。