ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

151 / 250
優しさ Part3

目を開けた瞬間、光があった。

 

眩しいというより、均一で、整理された光だ。影は柔らかく、空気は澄み、呼吸をしても喉が引っかからない。足元には石畳が続き、少し先には木造の家が並んでいる。窓辺には花が咲き、風に揺れていた。

 

「……明るいな」

 

思わず、そう口にしていた。

 

これまで入ってきたソムニウム世界とは明らかに違う。悪意の気配も、圧迫感もない。むしろ、ここは落ち着く。整理されすぎていると言っていいほど、穏やかだ。

 

少し歩くと、人の声が聞こえた。

 

「ゴン太、ありがとう!」

 

振り向くと、ゴン太がいた。

 

いつもの制服姿だが、ここではその巨体が不思議と周囲に溶け込んでいる。困っていた老人を支え、倒れた荷車を元に戻しているところだった。

 

「紳士として当然のことだよ。困っている人は助けなきゃいけない」

 

その言葉に、老人は何度も頭を下げた。

 

「本当に助かったよ。君がいなかったら、大変なことになっていた」

 

「えへへ……ゴン太、役に立てて嬉しいよ」

 

ゴン太は照れたように笑った。

 

その笑顔は、現実で見るものと何も変わらない。むしろ、少し安心したように見える。

 

町の人々も、彼に好意的だった。

 

子どもは駆け寄り、花を差し出し、通りすがりの人間は礼を言う。誰も怯えていない。誰も拒絶していない。

 

……完璧すぎる。

 

胸の奥で、小さな引っかかりが生まれた。

 

理想的すぎるのだ。この光景は。

 

ゴン太が助け、感謝され、笑顔が返ってくる。そこに疑問を差し込む余地がない。

 

「なあ、ゴン太」

 

声をかけると、彼はすぐに振り向いた。

 

「万津君! どうしたの?」

 

「……ここ、変だと思わないか?」

 

ゴン太は一瞬、きょとんとした顔をした。

 

「変? とっても良い町だと思うよ。みんな優しいし、誰も困っていない」

 

その答えは正しい。

 

正しすぎる。

 

ゴン太はまた別の場所へ向かい、壊れた柵を直し始めた。周囲からは、また感謝の声が飛ぶ。

 

その時だった。

 

柵を直した直後、背後の建物が、ほんのわずかに軋んだ。

 

音は小さい。

 

気のせいだと切り捨てられる程度だ。

 

だが、確かに聞こえた。

 

助けた直後に、別の何かが壊れる。

 

偶然だ。

 

そう考えようとしたが、胸の奥の違和感は消えなかった。

 

「……なあ、ゴン太。さっき、音しなかったか?」

 

「え? ゴン太には、特に何も……」

 

ゴン太は首を傾げる。

 

その視線は真っ直ぐで、疑いがない。

 

ここが悪夢だとは、まだ言えない。

 

だが、なぜか分からないが、この世界は“このままでは終わらない”。

 

そんな予感だけが、静かに、確実に積み上がっていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。