ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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優しさ Part5

町は、静かにざわめいていた。

さっきまで穏やかだった通りに、人が増えている。理由はない。集まる必要もない。だが、人々は自然に円を作り、ゴン太を囲み始めた。

 

視線が集まる。

数が増えるほど、重さが生まれる。

 

「……助けてくれて、ありがとう」

 

最初に口を開いたのは、さっき助けた老人だった。声は柔らかい。だが、言葉の終わりが妙に伸びる。

 

「でも……君が来てから、町がおかしい」

 

同意のざわめき。

頷き。

誰も声を荒げていない。怒号もない。ただ、一致した空気だけがある。

 

ゴン太が一歩下がる。

すると、群れが一歩詰める。

 

「ゴン太は……悪いこと、してないよ」

 

その言葉は、弁解に近かった。

そして弁解は、集団にとって“弱さの証明”になる。

 

「君が触れたところ、壊れたよね」

「君が助けた人の後で、怪我人が出た」

「偶然……かな?」

 

誰も断定しない。

だが、全員が同じ方向を向いている。

 

そのとき、俺は気づいた。

 

この集団の中心。

誰でもない“隙間”に、視線が吸い寄せられている。

 

人と人の間。

肩と肩の間。

そこに、影がある。

 

影は固定されていない。

誰かの背後に移り、次の瞬間には別の人物の足元に重なる。

だが、群れ全体が同じ結論に近づくにつれ、その影は濃くなっていく。

 

「……ゴン太」

 

声をかけようとして、やめた。

今ここで声を出せば、集団の論理に巻き込まれる。

 

影が、動いた。

 

人の列が自然に割れ、影は路地へ滑り込む。

誰もそれを追わない。追う必要がない。

結論はもう出ているからだ。

 

「……行くぞ」

 

ゴン太の手を引き、路地へ走る。

背後で、誰かが言った。

 

「やっぱり……逃げた」

 

その声に、確信した。

影は“証拠”を作る存在だ。結論を正当化するための。

 

路地の奥は、急に暗くなる。

建物の配置が歪み、直線だったはずの道が曲がる。

足音が増える。俺たちのものじゃない。

 

追いついた、と感じた瞬間。

影は、立ち止まった。

 

人の形をしている。

だが、顔がない。

複数の人の声が、重なって聞こえる。

 

「助けなければよかった」

「近づかなければよかった」

「君がいたから、壊れた」

 

それは、誰かの言葉じゃない。

集団が選んだ答えそのものだ。

 

影は振り返る。

その輪郭が、はっきりと歪む。

 

ここで初めて、分かった。

 

このナイトメアは、個ではない。

善意を裁く“合意”の化身だ。

 

ゴン太が、息を呑む。

 

「……あれが……ゴン太の……」

 

言わせない。

ここで言葉にすれば、世界は完成してしまう。

 

影が、静かに笑った。

 

「本当にナイトメアの悪夢は人によって様々だな」

 

そうして、俺はゆっくりと構える。

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