ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
町は、静かにざわめいていた。
さっきまで穏やかだった通りに、人が増えている。理由はない。集まる必要もない。だが、人々は自然に円を作り、ゴン太を囲み始めた。
視線が集まる。
数が増えるほど、重さが生まれる。
「……助けてくれて、ありがとう」
最初に口を開いたのは、さっき助けた老人だった。声は柔らかい。だが、言葉の終わりが妙に伸びる。
「でも……君が来てから、町がおかしい」
同意のざわめき。
頷き。
誰も声を荒げていない。怒号もない。ただ、一致した空気だけがある。
ゴン太が一歩下がる。
すると、群れが一歩詰める。
「ゴン太は……悪いこと、してないよ」
その言葉は、弁解に近かった。
そして弁解は、集団にとって“弱さの証明”になる。
「君が触れたところ、壊れたよね」
「君が助けた人の後で、怪我人が出た」
「偶然……かな?」
誰も断定しない。
だが、全員が同じ方向を向いている。
そのとき、俺は気づいた。
この集団の中心。
誰でもない“隙間”に、視線が吸い寄せられている。
人と人の間。
肩と肩の間。
そこに、影がある。
影は固定されていない。
誰かの背後に移り、次の瞬間には別の人物の足元に重なる。
だが、群れ全体が同じ結論に近づくにつれ、その影は濃くなっていく。
「……ゴン太」
声をかけようとして、やめた。
今ここで声を出せば、集団の論理に巻き込まれる。
影が、動いた。
人の列が自然に割れ、影は路地へ滑り込む。
誰もそれを追わない。追う必要がない。
結論はもう出ているからだ。
「……行くぞ」
ゴン太の手を引き、路地へ走る。
背後で、誰かが言った。
「やっぱり……逃げた」
その声に、確信した。
影は“証拠”を作る存在だ。結論を正当化するための。
路地の奥は、急に暗くなる。
建物の配置が歪み、直線だったはずの道が曲がる。
足音が増える。俺たちのものじゃない。
追いついた、と感じた瞬間。
影は、立ち止まった。
人の形をしている。
だが、顔がない。
複数の人の声が、重なって聞こえる。
「助けなければよかった」
「近づかなければよかった」
「君がいたから、壊れた」
それは、誰かの言葉じゃない。
集団が選んだ答えそのものだ。
影は振り返る。
その輪郭が、はっきりと歪む。
ここで初めて、分かった。
このナイトメアは、個ではない。
善意を裁く“合意”の化身だ。
ゴン太が、息を呑む。
「……あれが……ゴン太の……」
言わせない。
ここで言葉にすれば、世界は完成してしまう。
影が、静かに笑った。
「本当にナイトメアの悪夢は人によって様々だな」
そうして、俺はゆっくりと構える。