ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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優しさ Part7

町が、ざわめいていた。

怒号でも、悲鳴でもない。善意が行き場を失った時にだけ生まれる、鈍い圧迫感。

助けようとする者、すがりつく者、拒む者。どれもが「正しい」と思っているからこそ、互いに譲らない。

 

襲いかかってくる住人たちの目に、明確な悪意はない。

恐怖と混乱と、そして――期待。

ゴン太が守ろうとした「人々」が、皮肉にも彼を追い詰める存在へと変わっている。

 

俺は一歩、前に出る。

拳を振るえば、彼の優しさを否定することになる。

斬れば、守ろうとした世界を壊すことになる。

 

だから――。

 

「彼の優しさを、決して無碍にさせない。だから、その為に……」

 

腰元のゼッツドライバーへ、手にしたカプセムを静かに装填する。

これは、速さでも、衝撃でもない。

世界そのものを“押し分ける”ための力。

 

『グラビティ!メツァメロ!メツァメロ!』

 

低く、重たい待機音が空間に沈む。

足元から、空気が沈降していく感覚。

上下の感覚が曖昧になり、町全体が一瞬、息を止めたように静まり返る。

 

「変身!」

 

『グッドモーニング!ライダー……!ゼッツ!ゼッツ!ゼッツ!!グラビティ……!!』

 

重力が、反転した。

 

襲いかかってきた住人たちは、吹き飛ばされる。

だが、叩きつけられない。

潰れない。

傷つかない。

 

見えない力が、彼らを“押し戻す”。

暴力ではなく、距離として。

拒絶ではなく、配置として。

 

この世界で初めて、誰も傷つかずに衝突が終わった。

 

俺は、構えを解かない。

この力は、優しい代わりに重い。

使えば使うほど、自分の中に“責任”が沈殿していくのが分かる。

 

それでも、選んだ。

彼が紳士であろうとした世界を、壊さないために。

重力が、俺の両腕に集束する。

籠手の内部で低く唸るような振動が走り、空気が沈み込む感覚がはっきりと伝わってくる。拳を握るたび、世界の密度が変わる。軽くも、重くもできる。壊すためじゃない。位置を変えるための力だ。

 

突進してくる住人たちは、恐怖に駆られたまま一直線だった。

逃げ場を失い、正しさにすがり、押し寄せる――その一歩一歩が、ゴン太の胸を締め付けているのが分かる。

 

俺は前に出る。

右腕の籠手をひねると、局所的な重力場が生まれ、地面が波打つ。住人たちは弾かれるように宙へ浮き、だが落下しない。重力は“下”を失い、“外”へと流される。

 

左腕を振る。

今度は引力。だが引き寄せない。互いに反発する方向へ力を分散させ、群れをほどく。ぶつからない。絡まらない。誰も倒れない。

 

「……ほら」

 

言葉は小さかった。

だが、確かに世界は壊れていない。

 

ナイトメアの影が、町の構造を歪めて応じる。道が狭まり、選択肢が消え、再び衝突が起きるよう仕向けてくる。

俺は踏み込む。両腕を交差させ、重力を“固定”する。ここから先は進めない、と空間に線を引くように。

 

住人たちは、止まった。

恐怖が消えたわけじゃない。だが、傷つかないと理解した瞬間、人は止まれる。

 

背後で、ゴン太の息が詰まる音がした。

見ている。理解している。

選んでも、壊れない。動いても、罪にならない。

 

重力は、暴力より静かで、思想より強い。

俺は拳を下ろす。次は、彼の番だ。

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