ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ナイトメアは、俺の目の前で揺らいでいた。
影の集合体。思想の残骸。だが、その輪郭は既に崩れかけている。
「……どうした。さっきまでの勢いは?」
低く問いかけると、影がわずかに震えた。
『動くほど、壊れるはずだ……選ぶほど、失うはずだ……』
「それはお前の理屈だ」
両腕の籠手に、再び重力を集める。
拳が沈む。空気が歪む。世界が“殴られる準備”をする。
「少なくとも、今ここでは違う」
踏み込み。
重力を前方へ押し出すように放つ。
直接殴らない。位置をずらす。ナイトメアの身体が宙を滑り、地面へ転がる。
『やめろ……それ以上は……』
「壊さない。お前も、世界も」
影が反撃に転じる。
黒いエネルギーが収束し、弾丸のように撃ち出された。
「来い!」
両腕を交差。籠手に重力を集中させ、正面から受け止める。
衝突の瞬間、重さが逆流する。弾は減速し、震え、砕けることなく消えた。
「……この程度か」
追撃。
距離を詰め、最後の一撃を――重力を拳に収束させた、その瞬間。
――空気が裂けた。
「っ!?」
横合いから、見えない“何か”が叩き込まれる。
衝撃ではない。圧縮された力。方向すら定まらない一撃。
俺の身体が弾かれ、地面を転がる。
『……今のは、何だ』
ナイトメアが、初めて明確な恐怖を帯びた声を出した。
瓦礫の向こう。
姿は見えない。だが、確かに“別の意志”が介入している。
「……チッ」
立ち上がろうとするが、重力制御が乱れる。
その隙を突き、ナイトメアは距離を取った。
「誰だっ」
それと共に、俺が睨んだ先。
空気が、冷えた。
さっきまでの重力のうねりとは質が違う。世界が“狙われている”感覚。
俺は即座に身構え、籠手に残る重力を再調整する。
その時、瓦礫の上に――人影が立っていた。
細身のシルエット。
無駄のない立ち姿。
そして、その手に握られているのは、見覚えのある――いや、嫌な既視感を伴う武器。
ブレイカムブレイカー。
銃身が展開された、シュートモード。
「…この気配はっまさか」
返事はない。
ただ、仮面の奥から視線だけが向けられる。
興味。観察。
まるで、壊れやすい玩具を前にした研究者の目。
次の瞬間。
銃口が、こちらを向いた。
「来る……!」
引き金が引かれる音はしない。
代わりに、空間が“穿たれる”。
紫がかった光弾が放たれ、直進ではなく、微妙に軌道を歪めながら迫ってくる。
重力制御を読んでいる――いや、利用している。
「チッ……!」
両腕を前に。
籠手に最大出力で重力を集中させ、迎撃態勢を取る。
衝突。
だが、完全には止まらない。
弾は重力場に絡め取られながらも、回転し、削るように押し込んでくる。
「……っ!」
腕が、軋む。
これはナイトメアの攻撃じゃない。
人が、人を殺すために洗練させた“技術”だ。
「お前……」
影の向こうで、彼女が――黒四館仄が、楽しそうに首を傾げる。
「ふふ……その反応。やっぱり、面白いですね」
声は柔らかい。
だが、そこに躊躇は一切ない。
「あんたは」
「お久しぶりです、万津様。黒四館仄、ここに参上です」