ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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混乱 Part2

「なんで、ここにいるんだ、お前」

 

喉の奥から無理やり絞り出した声は、自分でも驚くほど低く、硬かった。

重力の余波がまだ身体に残っている。視界の端で世界がわずかに歪み、息を吸うたびに胸の奥が軋む。それでも、目の前の存在から視線を逸らすことができなかった。

 

「ふふっ、それは勿論、あなたに会いに来る為です」

 

柔らかい声。

親しげで、どこか楽しそうで――それが、ひどく不気味だった。

 

マスクの奥は見えない。

表情も、視線も、感情も遮断されているはずなのに、見られているという感覚だけが、異様なほど鮮明だった。

観察されている。測られている。

それも、敵意よりも、もっと粘ついた何かで。

 

しかし、その身体に巻かれたベルトに、目が吸い寄せられる。

記憶が、一瞬で繋がった。

 

「……この前の」

 

喉が、無意識に鳴る。

あの時、ナイトメアを取り逃がした瞬間に感じた違和感。

“別の意志”が、戦場に割り込んできたあの感触。

 

「えぇ。本来ならば、私が初披露したかったのですが」

 

どこか残念そうに、けれど本心から惜しむ様子で呟く。その仕草が、妙に人間らしくて――だからこそ、寒気が走る。

 

「まぁ、でも、良いでしょう」

 

彼女はそう言って、何でもないことのように手にしたカプセムを掲げる。

その動作一つ一つが、計算され尽くした舞台の所作のようだった。

 

「こうして、あなたと共に踊る事が出来るのだから」

 

――踊る?

戦うことを、そう呼ぶのか。

いや、彼女にとっては本当に“舞踏”なのだろう。命も、恐怖も、選択も含めて。

 

『パニック!』

 

乾いた音声が響く。

カプセムがロードインヴォーカーへと装填され、インヴォークイジェクターが押し込まれる。認識音が走るたび、空気が張り詰めていく。

 

彼女は左手を開き、ゆっくりと顔の横へ持っていく。

まるで観客に合図を送るダンサーのように。

 

『オンユアマーク オンユアマーク』

 

ドライバーに装填されたカプセムが回転する。

「擬装!」という掛け声と同時に、装置が起動する。

 

試験管のようなチューブが身体を覆い、中に赤い液体状のエネルギーが満ちていく。

一瞬、世界がモノクロに落ちる。

その中で、チューブ内部に小型のドローンのようなものが展開されていく。

 

――三つ。

 

嫌な数だ。

均衡を崩すのに、十分すぎる。

 

『インヴォークロードシステム!パニック』

 

ドローンから基板状の模様と青い光が、陽炎のように揺らめきながら展開される。

水中を漂うような不自然な動きで、それらは彼女の身体に重なり、溶け込むように一体化していく。

 

装甲が形成され、輪郭が固定される。

次の瞬間、どこからともなく銃撃音が響いた。

 

――パンッ。

 

チューブにヒビが走る。

さらに、もう一度。

 

――パンッ。

 

砕け散るチューブ。

飛び散る破片の向こうで、完全な姿が現れる。

 

そこに立っていたのは、ノクスナイトと酷似したシルエット。

だが、色が違う。

黄色ではない、冷たく澄んだ青。

そして、装甲のラインや体躯には、はっきりと女性的な特徴が浮かび上がっていた。

 

胸の奥が、ざわつく。

強さだけじゃない。

この敵は、“近い”。

 

「さぁ」

 

彼女は一歩、前に出る。

距離が詰まるだけで、空気が変わる。

 

「愛おしいあなたと、ダンスをしましょう」

 

その言葉に、背筋が粟立った。

これは宣戦布告じゃない。

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