ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
重力の歪みがまだ空間に残っている。
籠手から放った圧が、床のひび割れを静かに広げていた。
それでも、俺は彼女から目を逸らさない。
黒四館は、わずかに首を傾ける。
「あなた、まだ余裕がある顔をしているわね」
「……余裕じゃない」
喉の奥が焼ける。
だが声は震えない。
「守るって決めただけだ」
彼女は一瞬だけ静止した。
ブレイカムブレイカーの銃口が、俺の籠手を正確に捉えている。
「そこ。あなたの重力は、両腕を起点にしている」
言い当てられた瞬間、背筋が冷える。
「重さを集めるとき、ほんのわずかに肩が沈む。癖ね」
弾丸が放たれる。
直線ではない。回り込む軌道。
俺は腕を交差させ、重力を前方へ集中。
弾が減速する。だが止めきれない。
「っ……!」
衝撃が骨に響く。
重さを操る側が、逆に押し込まれる。
「好きよ、そういう無茶」
彼女の声は甘い。
だがそこにあるのは、愛情ではない。
観察の快楽だ。
「あなたは、誰かの為に無理をする。そこが……壊し甲斐がある」
その言葉に、胸の奥がざわつく。
その瞬間だった。
背後で、何かが軋む。
振り向くと、ゴン太が膝をついていた。
ソムニウム世界の住人たちが、彼の周囲でざわめいている。
彼は、俺を見ていた。
迷い。
恐れ。
それでも――踏み出したいという衝動。
「万津君……!」
震える声。
その声が、空気を変えた。
黒四館の視線がわずかに揺れる。
「……あら」
ゴン太は立ち上がる。
拳を握る。
だが戦うためではない。
「ゴン太……もう、逃げない。助けるって、決めた」
その言葉は、戦術ではない。
理屈でもない。
だが、確かに“重さ”を持っていた。
俺の籠手が、わずかに震える。
重力が変わる。
「……そうか」
息を吐く。
「なら、俺もだ」
黒四館の銃口が再び上がる。
「ふふ……二人分の覚悟、か」
空気が凍る。
「いいわ。なら見せて。重さが増えたあなたが、どれだけ強くなるのか」
弾丸が放たれる。
だが今度は、俺は動かない。
籠手を地面に叩きつける。
重力が波紋のように広がる。
住人たちは吹き飛ばされるが、傷はない。
弾丸は軌道を失い、空中で潰れる。
「……?」
黒四館が、初めて明確に目を見開く。
「俺一人の重さじゃない」
足を踏み込む。
「守られる側が、勇気を出した」
重力が集中する。
空気が押し潰される。
ゴン太が一歩、前に出る。
「ゴン太、信じる。万津君の優しさ」
その瞬間。
俺の中で、何かが噛み合った。
「彼の優しさを、決して無碍にさせない」
視線を黒四館へ戻す。
「だから、その為に」
籠手に重力が収束する。
戦場の空気が張り詰める。
彼女の笑みが、わずかに揺らいだ。
「……面白いわ」
銃口が俺を捉える。
俺は構える。
ゴン太の気配が、背後で揺れずに立っている。
この瞬間、戦場はただの戦闘ではなくなった。
選択だ。
守るか、壊すか。
俺は、前に出る。