ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
空気が軋んだ。
黒四館との間に張り詰めた緊張が、ほんのわずかに緩んだその隙を、
ナイトメアは見逃さなかった。
影が、地面から伸びる。
黒い帯が、ゴン太の足首に絡みついた。
「ゴン太……!」
彼の身体が引きずられる。
ナイトメアの声は、ささやくように静かだった。
『見ただろう……選んでも、壊れる……守っても、崩れる……』
周囲の街並みが歪む。
瓦礫が積み上がり、崩れ、誰かの悲鳴が反響する。
『お前は優しくない……お前は、壊す側だ……』
ゴン太の表情が揺れる。
拳を握る。
だが、振り上げない。
「違う……ゴン太は……」
言葉が詰まる。
ナイトメアの影がさらに絡みつく。
『紳士を目指す? 笑わせるな。お前は怪物だ』
その瞬間、俺は動こうとした。
だが黒四館の銃口が、わずかにこちらを向く。
止まれば、ゴン太が飲まれる。
動けば、射線に入る。
一瞬の判断。
「……ゴン太!」
俺は叫んだ。
「万津君……」
彼の声は震えている。
影が、肩まで這い上がる。
『お前は、助けられない』
ゴン太の呼吸が荒くなる。
だが――その視線は逸れなかった。
俺を見ている。
「……万津君、いつも、怪我してる」
ぽつりと呟く。
「それでも、助けに来る」
ナイトメアが影を強める。
『それは愚かだ』
「でも……」
ゴン太が、足を踏ん張る。
影が軋む。
「ゴン太、知ってる。万津君は、壊す為に戦ってない」
重力が、わずかに揺れた。
俺の籠手が、反応する。
ゴン太が、両手を握る。
「ゴン太も、逃げない」
その一歩が、影を裂いた。
ナイトメアの声が歪む。
『選ぶな……! 選べば、壊れる……!』
「壊れてもいい!」
その叫びは、悲鳴ではなかった。
「それでも、助ける!」
拳が振り抜かれる。
影が裂ける。
音はない。
だが衝撃はあった。
ナイトメアが吹き飛ぶ。
街の歪みが、一瞬だけ静止する。
ゴン太は、膝をつく。
だが倒れない。
ナイトメアは地面を転がり、崩れかける。
『……なぜだ……』
「ゴン太、怪物じゃない」
呼吸を整えながら、言う。
「友達だ」
その言葉が、空間に残る。
俺は、前に出る。
ゴン太の横に立つ。
「選んでも、壊れない一歩はある」
重力を籠手に収束させる。
ナイトメアが揺らぐ。
今度は、俺が踏み込む番だ。
ナイトメアが吹き飛ばされ、黒い粒子が宙に散る。
その中心に立つゴン太は、震えていた。
だが、逃げていない。
その光景を、俺は横目で捉える。
そして――
もう一つの視線が、俺たちを見ていることにも気づく。
黒四館は、銃を下ろしていた。
撃てたはずだ。
射線は通っていた。
それでも、引き金は引かれなかった。
「……あら」
その声は、先ほどよりも低い。
興味。
いや、発見に近い。
「万津様が動くと、周囲が変わるのね」
ブレイカムブレイカーの銃口が、ゆっくりとこちらをなぞる。
狙うというより、測るように。
「守る対象が、万津様を見て、変わる」
一歩、近づく。
「それを、万津様は自覚しているのかしら?」
俺は答えない。
籠手に重力を収束させる。
だが、彼女はそれを見ていない。
見ているのは――
ゴン太。
「面白いわ……」
仮面の奥で、笑っている気配。
「万津様は重力を操る。でも本当に動かしているのは“人”」
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「だから、壊し甲斐がある」
銃口が上がる。
今度は俺ではない。
ゴン太の前方、地面へ。
発射。
弾丸は直撃せず、足元の地面を砕く。
破片が跳ね上がる。
ゴン太は一瞬怯む。
だが――立つ。
その様子を見て、黒四館は静かに息を吐く。
「ふふ……いいわ」
その声は、甘く、冷たい。
「万津様を壊せば、この子はどうなるのかしら」
俺は一歩、前へ出る。
「試してみろ」
「ええ、試すわ」
彼女は、銃を肩に担ぐように構える。
「万津様の“影響力”が、どこまで耐えられるのか」