ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
足が触れた瞬間、床がわずかに沈んだ。ゴムみたいでも、砂みたいでもない。踏み返しても音が返ってこないのが、逆に気味が悪い。
校舎の形をした建物が並んでいるのに、窓の奥は暗闇だった。廊下の蛍光灯だけが点いている。けれど光は白すぎて、影を作らない。天井から学生証がひらひら落ち続けていて、名前の部分だけが擦り切れて読めなかった。
耳の奥で通知音が鳴る。一定のリズムじゃない。誰かの息遣いみたいに、早くなったり途切れたりする。
「……ここ、変だな」
呟くと、背後で最原が小さく息を吐いた。
「集合意識の歪みだと思う。万津君、足元、気をつけて」
影が床に広がり、歪んだ段差を一瞬だけ固定する。
その横で伊達さんが周囲を見回した。
「生きてる場所じゃねぇな。……龍木、反応は?」
「多数。増えてます。……来ます」
建物の陰が揺れた。灰色の塊が、ぬるりと顔を出す。蝶みたいな大きな耳。赤ん坊の形をした腕が、地面を掻く。眠っている顔は穏やかなのに、胸の巨大な眼球だけがぎょろりと動いた。
ひとつ。ふたつ。
影の奥から、同じ姿が次々と現れる。
弱い。圧は軽い。けど数が、異常だ。
「……変身!」
ドライバーが鳴り、装甲が身体を包む。反動が脚に戻る感覚で、地面の感触がはっきりした。隣で最原も影をまとい、低い声で言う。
「道を開く。奥へ行こう」
群れが一斉に動き出す。よちよちとした足取りなのに、距離の詰め方だけが速い。
ブレイカムゼッツァーを引き抜き、後ろへ放った。
「伊達さん、これ!」
受け取った伊達さんが軽く笑う。
「お前、素手かよ」
「大丈夫です。まだいける!」
続けてイナズマブラスターを龍木さんへ。
「龍木さん、後ろ頼みます!」
「了解。援護、開始します」
最初の一体が跳びかかる。抱きつくみたいな動き。拳で迎え撃つと、灰が散った。けれど消えない。散ったぶん、陰がまた膨らむ。
「万津君、右!」
最原の影が足元を縫い止める。動きが鈍った瞬間、伊達さんの銃撃が群れを裂いた。龍木の光線が胸の眼球を貫き、瞬きが止まる。
それでも、数は減らない。
遠くの建物の奥が、わずかに脈打っているのが見えた。通知音が、そこだけ少し規則的だ。
「……あそこだ。孵化の中心」
息を整え、拳を握る。装甲の中が熱い。
「伊達さん、龍木さん、ここは任せていいですか」
「行け。背中は守ってやる」
短い返事。迷いがない。
「万津君、僕も行く」
最原が並び、影が細く伸びる。
灰色の群れを踏み越えて、俺たちは奥へ走り出した。