ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
灰色に濁った校舎の影が、歪んだまま重なり合っていた。壁の向こうから、乾いた足音が増えていく。小さな手が地面を叩く音。寝息のような気配。けれど近づくほど、空気の温度がわずかに下がる。
「万津君、右側、来るよ」
最原の声と同時に、影が床を走った。細い刃のように伸びた黒がナイトメアの足元を絡め取り、動きを一拍遅らせる。その隙を逃さず、俺は踏み込んだ。
踏み込みの衝撃が足裏から跳ね返る。拳に集めた出力を叩き込むと、灰色の身体が弾けるように崩れた。反動で身体が半歩滑る。そのまま回転して蹴りを放つ。もう一体が横に飛び、壁にぶつかって散った。
背後で乾いた銃声が短く響く。
「足元ばっか見てると噛まれるぞ」
伊達さんの声。ブレイカムゼッツァーの銃口が火を噴き、迫ってきた群れをまとめて押し返した。弾道は荒く見えて、的確に胸の核を撃ち抜いている。倒されたナイトメアが重なり合い、床に灰色の波紋を残した。
龍木さんのイナズマブラスターが細い光線を描く。
後方から回り込んできた個体の胸を貫き、光が弾ける。撃った後も動きは無駄がない。端末を持った手が微かに揺れ、周囲の歪みを測り続けている。
「……この空間、揺らぎが強いです。長居は危険かもしれません」
言葉に合わせるように、遠くの建物がゆっくり歪んだ。窓枠が波打ち、白い光が滲む。通知音の残響が一瞬だけ重なり、耳鳴りのように消えた。
「分かった。押し切る!」
群れは多い。倒しても尽きない。けれど動きは単調だ。
俺は低く姿勢を落とし、足元へ潜り込んできたナイトメアの腕を掴んだ。軽い。思ったよりも抵抗がない。持ち上げて地面へ叩きつけると、衝撃が周囲に広がり、近くの個体がまとめてよろめいた。
「万津君、前、空いた」
最原の影が壁を伝って広がり、足場を一瞬だけ安定させる。
その上を蹴って跳び、二体まとめて拳で押し込む。衝撃の波が走り、灰色の群れが裂けるように左右へ分かれた。
伊達さんが笑う気配がした。
「悪くねぇ。道、できてるぞ」
龍木さんがすぐに続ける。
「この先、反応が密集しています。中心、近いと思います」
俺は頷き、呼吸を整えた。装甲の内側が熱い。倒しているのに、時間だけが削れていく感覚がある。
建物の角を曲がる。
その瞬間、周囲の音が途切れた。
背後の銃声も、足音も、すべて遠くへ沈む。
目の前に広がったのは、異様に静かな空間だった。
白い空を背に、高層の校舎が立っている。
屋上の縁に、人影が並んでいた。
制服のまま。
風もないのに、ゆっくり揺れている。
「……っ」
身体が一瞬止まる。
最原が低く言った。
「万津君……精神リンクが現実側まで繋がってる」
伊達さんの声が、短く落ちた。
「時間、ねぇな」
龍木さんが端末を握り直す。
「意識の安定値……下がってます」
屋上の生徒のひとりが、わずかに前へ傾いた。
――そこで、場面が途切れる。