ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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破滅 Part6

 屋上に並ぶ影を見た瞬間、胸の奥が冷たくなった。

 風は吹いていないのに、制服の裾だけがゆっくり揺れている。靴先が縁から半分はみ出していた。

 

「……なんだよ、これ」

 

 思わず声が漏れる。視線を上げたまま、足が動かない。

 最原が隣で息を整え、低く呟いた。

 

「万津君……精神リンクが強すぎる。ここ、現実と重なってる」

 

 その言葉に、伊達さんが短く舌打ちした。

 

「……あぁ、思い出した。これ、昔あったやつだ。連鎖的に落ちた事件。記録で見た」

 

 軽く言ったはずの声が、わずかに硬い。

 屋上の人影が一斉に前へ揺れた。

 

「……待ってろ!」

 

 身体が勝手に動いた。

 地面を蹴り、建物の壁へ踏み込む。空気が重い。足場が崩れそうなのを無理やり押し返し、上へ跳ぶ。

 

「万津君!」

 

 最原の声が背後から追いかけてくる。

 

 屋上に飛び込んだ瞬間、目の前の生徒が傾いた。腕を伸ばす。指先が制服の袖を掴んだ。

 重い。想像よりも、ずっと。

 

「……大丈夫だ、戻れる」

 

 引き寄せた瞬間、別の影が視界の端から落ちていく。

 足音も、叫び声もない。ただ、静かに。

 

「っ……!」

 

 胸が焼ける。

 助けた一人を背後へ押し戻す。けれど次の影がもう縁を越えていた。

 

 下を見た。

 灰色の空間に、いくつもの影が落ちていく。遅いはずなのに、距離だけがどんどん開く。

 

「……間に合わない」

 

 歯を食いしばる。拳が震える。

 その瞬間、ドライバーが微かに脈打った。

 

 ――跳べるだろ。

 

 声じゃない。衝動に近い感覚。

 

「……変身」

 

 低く言葉を落とす。光が弾け、装甲が変形する。背中に展開した翼が空気を裂いた。

 

『グッドモーニング! ライダー!ゼッツ!フィジカムウィング!』

 

 重力が軽くなる。

 踏み切った瞬間、身体が前へ滑った。

 

「伊達さん! 龍木さん! 上は頼みます!」

 

 返事を待たずに、空へ身を投げる。

 翼が一度だけ強く羽ばたき、落ちていく影へ加速した。

 

 最初の生徒に追いつく。腕を掴み、身体を反転させる。

 落下の衝撃が腕に食い込む。速度を殺しきれない。

 だが止まらない。もう一度羽ばたき、次の影へ滑り込む。

 

「……大丈夫だ。まだ間に合う」

 

 声が震える。

 視界の端で、さらに影が落ちていく。

 

 翼を畳み、空中で身体を回転させる。二人目を背中側へ抱え、三人目の腕を掴んだ。

 重さが増す。高度が下がる。地面が近づく。

 

「万津君!」

 

 上から最原の影が伸び、落下の軌道をわずかに逸らす。

 伊達さんの銃声が空間に響き、下方のナイトメアを散らした。

 龍木さんの光線が、着地点を照らす。

 

 翼を大きく広げる。

 風が巻き上がり、落下速度が緩む。

 抱えた生徒たちの体温が腕に伝わった。

 

 まだ、落ちてくる。

 

 空を見上げる。

 屋上の縁に、揺れる影が残っている。

 

「……全部、助ける」

 

 息を吸い、再び翼を打った。

 灰色の空間へ、まっすぐ飛び上がる。

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