ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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破滅 Part7

 翼を打った瞬間、空気が裂けた。

 灰色の空を滑る感覚が背中に広がり、落下していく影が一斉に視界へ流れ込む。遠近感が狂う。近いはずの手が遠く、遠いはずの身体が急に目の前へ来る。

 

 ――落ちてる。

 

 考えるより先に身体が動いた。翼を傾け、最初の生徒へ一直線に降りる。腕を伸ばし、制服の肩を掴んだ。衝撃が腕に跳ね返り、歯が鳴る。

 

「……大丈夫、だ」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 落下の勢いを殺すため、翼を大きく広げた。空気が押し返し、身体が一瞬浮く。けれど背中に乗った重さが、思ったよりも強い。

 

 視界の端で、別の影が傾いた。

 もう一人、落ちる。

 

「くそ……!」

 

 抱えたまま身体をひねる。重さが増し、胸が詰まる。呼吸が浅い。

 翼を折り畳み、加速。風圧が頬を打つ。次の生徒の腕を掴んだ瞬間、落下速度が一気に変わった。

 

 重い。

 でも、離さない。

 

 下を見ると、地面がゆっくり近づいている。灰色の世界なのに、落ちる影だけがはっきりしていた。

 

 上空から最原の影が伸びてくる。落下軌道がわずかに逸れる。

 伊達さんの銃声が空気を震わせ、下に集まっていたナイトメアが散った。

 龍木さんの光が、着地点を淡く照らす。

 

 助けられてる。

 それでも、焦りは消えない。

 

 もう一人。

 さらにもう一人。

 

 翼を打つたび、胸が痛む。風の流れが乱れ、視界が揺れる。

 落ちていく顔が、みんな同じ角度で傾いていた。目を閉じたまま、抵抗もしない。

 

「……戻れ」

 

 声が掠れる。

 腕に抱えた体温が、少しずつ重なっていく。三人、四人。限界が近い。

 けれど、上を見ればまだ影が揺れている。

 

 怖い。

 間に合わないかもしれないという考えが、胸の奥で膨らむ。

 

 それでも、翼は止まらない。

 

 高度を落としながら旋回し、最後に見えた影へ向かう。

 伸ばした手が、指先だけ触れた。滑りそうになる。咄嗟に力を込め、引き寄せる。

 

 ――掴んだ。

 

 息を吐く暇もなく、翼を大きく広げる。空気が渦を巻き、落下が緩む。

 下から影が跳ね上がり、着地の瞬間を支えた。

 

 膝が震える。

 腕が重い。

 

 それでも顔を上げると、まだ屋上に影が残っていた。

 

 胸の奥で、焦りが冷たく広がる。

 怖い。でも、止まれない。

 翼を打つたび、空気が重くなる。

 最初は軽かったはずの身体が、少しずつ沈み始めていた。腕に抱えた温度が増えるたび、背中の装甲がきしむ。

 

 もう何人目だ。数えようとして、やめた。

 

 下では伊達さんが着地点を押さえている。最原の影が伸び、落下の軌道をわずかにずらす。龍木さんの光が、暗い空間に細い道を描く。

 

 ――まだ、いける。

 

 そう思って翼を打った瞬間、視界がわずかに揺れた。

 呼吸が浅い。胸の奥が熱い。腕に力が入らない。

 

 それでも、上を見る。

 屋上から、また一人、静かに落ちてきた。

 

「……待ってろ」

 

 声が出たのか、自分でも分からない。

 翼を畳んで急降下する。風圧が耳を打ち、景色が伸びる。掴める距離まで近づいたとき、指先がわずかに震えた。

 

 届く。

 そう思った瞬間、腕の力が抜けた。

 

 指が、滑る。

 

「……っ!」

 

 掴み損ねた身体が、目の前を通り過ぎた。

 慌てて体勢を立て直そうとする。翼が重い。動きが遅れる。

 

 高度が下がる。

 

 背中に抱えていた生徒の重さが、急に現実味を帯びてきた。

 腕が痺れる。呼吸が乱れる。視界の端が白く滲む。

 

 もう一度羽ばたこうとして、力が入らなかった。

 

 翼が、わずかに遅れる。

 

 身体が沈む。

 

 落ちていく。

 自分も、生徒も、まとめて。

 

 空気の音が遠くなる。

 上を見ると、屋上が小さくなっていた。

 

「万津君!」

 

 最原の声が聞こえる。影が伸びてくる。けれど距離が遠い。

 伊達さんの銃声が響く。空間が震える。龍木さんの光が瞬いた。

 

 ――間に合わない。

 

 胸の奥で、冷たいものが広がる。

 怖い。掴めなかった感触が、手の中に残っている。

 

 それでも、腕の中の体温が離れない。

 

「……落とさない」

 

 歯を食いしばる。

 翼を無理やり開く。風が巻き上がる。だが、上昇はしない。

 

 底が近づく。

 

 灰色の地面が、ゆっくりと大きくなる。

 

 焦りが喉を締め付ける。

 鼓動が早い。音が遠い。

 

 ――このままじゃ、守れない。

 

 そう思った瞬間、ドライバーがわずかに脈打った。

 

 身体が沈み続ける中で、視界が揺れる。

 上から落ちてくる影。

 下から迫る地面。

 

 空が、急に狭くなった気がした。

 

 ――そして、落下は止まらないまま、場面が途切れる。

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