ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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破壊 Part5

 黒い煙が弾けた瞬間、絡みついていた腕が音もなく崩れた。握られていたはずの身体がふっと軽くなり、地面に落ちた灰色の手が砂のように散っていく。装甲の奥で脈打つ鼓動が、雷ではない重たい響きに変わっていた。視界の端で揺れるナイトメアの群れが、一歩だけ後ずさる。

 

「……来いよ。まだ終わってないだろ」

 

 低く声が漏れる。胸の奥から押し上げられる衝動が、喉を焼くように広がった。叫ばなければ、自分がどこに立っているのか分からなくなりそうだった。複眼の奥に緑の光が満ち、周囲の動きが歪んだ線みたいに見え始める。

 

 ナイトメア達が一斉に腕を伸ばした。灰色の影が波のように迫り、地面が沈む。踏み込むと同時に、身体が重力を無視したみたいに前へ滑った。拳を振り抜いた瞬間、衝撃が円形に広がり、集まっていた群れがまとめて弾き飛ばされる。

 

「……こんなもんで、止まれるかよ……!」

 

 自分の声が少し遠い。怒鳴っているはずなのに、耳の奥では別の鼓動が重なっていた。黒四館の気配が背中に絡みつくようで、呼吸のリズムがわずかに狂う。だけど、その歪みが力をさらに押し上げてくる。

 

 左右から飛びかかってきた影を、腕を振るだけで吹き散らす。まるで重たい扉を蹴り開けるみたいに、空気ごとナイトメアが裂けていった。砕けた身体が宙を舞い、壁に叩きつけられる音が遅れて響く。群れの中心が揺れ、巨大な影の形が少し崩れた。

 

「……邪魔だって言ってんだろ!」

 

 踏み込んだ足元から衝撃が走る。地面が波紋のように割れ、周囲のナイトメアがまとめて宙へ浮いた。拳を振り上げるたびに装甲が軋み、内側で何かが暴れ回る感触が伝わる。それでも止められない。止まったら、また捕まる気がした。

 

 押し寄せていた絶望の気配が、少しずつ後退する。だけど胸の奥では別の影が膨らんでいた。力が増しているはずなのに、感覚が遠のく。視界の色が濃くなり、呼吸の音がやけに重たい。

 

「……まだ、足りないのかよ……!」

 

 睨みつけると、群れが再び動き出す。今度は迷いがない。身体が先に踏み込み、腕を振るだけで何体もの影が弾き飛ばされる。まるで嵐の中心に立っているみたいに、周囲の空気が自分を軸に渦を巻いていた。

 

 それでも、奥底に残った焦りは消えない。上にいる生徒達の姿が頭から離れず、拳を握るたびに胸が軋む。圧倒しているはずなのに、どこかで崩れそうな感覚が背中を冷やした。ナイトメア達が再び迫る中、俺は叫びながら前へ踏み出す。

 

「……全部、ぶっ飛ばしてでも戻る……!」

 

 灰色の群れが、また押し寄せた。

 角や牙を重ねた影が波のように広がり、地面の奥からざわりと音が立つ。カタストロムの装甲が軋み、胸の奥で鈍い鼓動が強く跳ねた。

 

「……邪魔なんだよ!」

 

 踏み込んだ瞬間、地面が裂けた。

 豪腕を振り上げると、空気そのものが巻き上がり、迫っていたナイトメアの塊がまとめて宙へ弾き飛ばされる。灰色の影が上空へ舞い上がり、崩れた建物の壁に叩きつけられて散った。

 

 拳を握ったまま、息を荒く吐く。

 強くなっているはずなのに、胸の奥が妙に重い。視界の端で色が滲み、呼吸の音だけがやけに大きく響いていた。

 

「……まだ来るのかよ……!」

 

 上から落ちてきた影を、もう一度腕で払う。

 振り抜いた軌道に風圧が走り、灰色の群れが渦を巻いて弾き飛ばされる。地面に落ちたナイトメアが、まるで乾いた葉のように散っていった。

 

 その瞬間、耳元で柔らかな笑い声が弾けた。

 

「ふふ……万津様、素敵です。その力……本当に、美しい」

 

 黒四館の声だった。

 煙の奥から囁くように響き、鼓動と同じリズムで胸を叩く。

 

「……黙れ。俺は、お前のためにやってんじゃない」

 

「ええ、知っています。だからこそ、愛しいんですよ」

 

 声が近い。背中に触れられている気がして、肩がわずかに震えた。

 だが、目の前ではまたナイトメアが集まり始めている。巨大な影が腕を持ち上げ、灰色の空気が揺れた。

 

 叫びながら拳を振り抜く。

 圧力が前方へ爆ぜ、襲いかかってきた群れが一瞬で吹き飛ぶ。まるで嵐の中心に立っているみたいに、周囲の景色が歪んで見えた。

 

「……全部、どけよ……俺は、戻るんだ!」

 

 声を張り上げると、胸の奥で何かが熱く燃え上がる。

 黒四館の笑いが、さらに楽しそうに重なった。

 

「そうです、それでいい……壊れそうで、壊れないあなたが――一番綺麗」

 

 灰色の底で、カタストロムの拳が再び振り上がる。

 弾き飛ばされたナイトメアが空から降り注ぎ、地面に影の雨を落とした。

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