ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
拳を振るうたび、灰色の影が宙へ散る。
踏み込むだけで地面がひび割れ、衝撃が波紋のように広がっていく。圧倒している。敵は押し返され、崩れ、形を失う。――それなのに、胸の奥のざわつきが止まらない。
「……まだ、足りない……?」
呟いた瞬間、喉が焼けた。
欲しくない言葉が、自分の口からこぼれた気がした。
ナイトメアが、同時に飛びかかる。
腕を振るう。まとめて弾ける。骨のない影が空中で裂け、壁に叩きつけられて霧のように崩れる。簡単だ。あまりにも、簡単すぎる。
――力が、重い。
装甲の内側で何かが膨れ上がる。
鼓動が速い。呼吸が浅い。視界が濃く染まる。灰色の世界が、赤みを帯びて見えた。
「万津君、落ち着いて!」
聞こえたはずの声が、柔らかく歪む。
「ふふ……そのままで」
違う。
最原の声だ。伊達の怒鳴り声も混じっていたはずだ。
「止まれ、万津!」
「止まらないで、万津様」
重なる。溶ける。
音が一つにまとまって、黒四館の声になる。
胸が締めつけられる。
なのに、足は止まらない。
拳を叩きつける。地面が割れる。
衝撃が前方へ爆ぜ、ナイトメアの群れが一斉に吹き飛ぶ。建物の壁が崩れ、瓦礫が舞い上がる。
――やりすぎだ。
分かっているのに、腕が止まらない。
「俺は……壊れてない……!」
叫ぶ。
だが声はかすれ、耳の奥で別の囁きが重なる。
「壊れていませんよ。だから、もっと壊せるんです」
視界の端で、最原が動く。
手を伸ばしている。止めようとしている。分かる。
でも、その姿が灰色の影と重なる。
拳を振り上げた瞬間、一瞬だけ迷いが走る。
目の前にいるのは、ナイトメアか、それとも――。
衝撃が走る。
地面に叩きつけられた影が崩れ、灰色の煙が立ち上る。
息が荒い。
胸が熱い。鼓動が暴れる。
ナイトメアがさらに集まる。
だが、もう恐怖はない。ただ、苛立ちだけが膨らんでいく。
「全部、消えろ……!」
両腕を振り抜く。
空気が裂け、衝撃波が円を描く。周囲の影がまとめて吹き飛び、瓦礫と一緒に宙を舞う。
その中心に立ちながら、気づく。
ナイトメアよりも、自分のほうが暴れている。
拳が震える。
止めたい。けれど止め方が分からない。
「万津様……素晴らしい」
黒四館の声が、甘く絡みつく。
その言葉が、力をさらに押し上げる。
視界が赤く染まる。
仲間の姿が遠ざかる。声が届かない。
圧倒しているはずなのに、孤独だけが濃くなる。
拳を振るうたび、世界が削れる。
地面が崩れ、建物が軋み、灰色の底がさらに深く沈んでいく。
――これが、俺の力なのか。
そう思った瞬間、背筋に冷たい感覚が走った。
力が強い。
強すぎる。
そして、このまま続ければ、ナイトメアだけじゃなく――。
拳が、もう一度振り上がる。
止める声は聞こえない。
聞こえるのは、黒四館の囁きだけだった。
「もっと……万津様」
灰色の世界の中心で、俺だけが暴風みたいに動いている。