ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「まさか」
最原が急に顔を上げた。彼の指がレコーダーの停止ボタンを叩くと同時に懐からスマートフォンを取り出す。
「この旋律……過去のコンクール映像に酷似しているが微細に異なる箇所がある」
画面に映るのは全国小学生ピアノコンクールの動画。表彰台に立つ十代前半の赤松楓。華麗な指遣いで『ラ・カンパネラ』を奏でる彼女の傍らに──
「同じ音程だが僅かに遅れて追従するピアノライン……これは“連弾”だ」
「でも観客席の誰も気づいていない?」
「当然さ」
最原の眼差しが鋭くなる。
「カメラは主役しか捉えない。しかもこの曲は本来ソロ用だから不自然なダブリングを疑われなかったんだ」
「この少女が例の写真の女性と同一人物なら……」
「年齢差は最小で一年以内」
「そうだ」
最原が俺の言葉を奪うように肯定する。
「二人は同時にピアノを習い始めている。しかも記録によれば赤松さんの師匠は一人だけだ」
俺の脳裏のメモが蘇る。
『●●ちゃんは今日もピアノ上手だったよ!』
「この『上手』という評価が鍵になる」
最原が壁を軽くノックするように指で叩く。
「赤松さんほどの才能なら自己評価が低いはずがない。にもかかわらず他人を褒めている……それは劣等感ではなく『尊敬』を示している証拠だ」
「つまり姉妹か」
「然り」
彼の口調が熱を帯びる。
「特に双子なら家族以外区別が困難なことも多い。学校記録でも出生届でも片方の存在が省略されがちなのはよくある話さ」
「なるほど」
最原が即座に答える。
「赤松楓には『双子の姉妹』が存在する! その存在を否定することで彼女は絶望の扉を開いてしまったんだ!」
カチリ。
何かが嵌まる音とともに空間全体が光に包まれた。
「開いたな」
俺は安堵の息をつく。天井から吊るされた七枚のガラス板がバラバラと落下してくる。
「あれが“封印された約束”の実体か」
最原の言葉に応えるように、床に散った破片が虹色の粒子となって収束していく。
「……ああ」
俺らの眼前で再生されたのは──
十年前の夏祭りで浴衣姿の少女二人が手を繋ぐ姿だった。
「姉か妹か……」
「どちらでもいいんだ」
最原が柔らかく首を振る。
「大切なのは赤松さんが“誰かと繋がっていた”という事実。それが彼女の絶望に立ち向かう鍵になる」
虹の粒が虚空へ溶けると同時にメンタルロックの警告音が消えた。
《クリア》
《クリア》
《クリア》
三つの電子音声が重なり合う中、俺たちは次の階層へ続く螺旋階段を見つけた。
「行こう」
最原の声はいつも通り淡々としていたけれど、俺もまたゆっくりと歩いていく。