ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
崩れた都市の中心で、カタストロフゴアナイトメアはゆっくりと腕を持ち上げた。
その動きに合わせるように空間が軋み、周囲の建物の残骸が重力を失ったかのように宙へと浮かび上がる。
まるでこの世界そのものが、その存在の意思に従って歪められているようだった。
百田が空中で体勢を立て直しながら叫ぶ。
「くそっ……何回やっても効かねぇ!」
背中のウイングを大きく広げて再び突撃するが、ナイトメアの装甲はびくともしない。
むしろ衝撃を吸収するように黒い霧が波打ち、刃を弾き返した。
ゴン太はすぐに前へ出て、緑のバリアを展開する。
だがカタストロフゴアナイトメアが足を踏み出しただけで、その防壁は大きく軋んだ。
「強い……!」
赤松が音波を放ち、空間の振動を制御しようとする。
紫色の波が広がり、ナイトメアの動きがわずかに鈍る。
しかしそれも一瞬だった。
黒い霧が音波を飲み込み、空間の振動を無理やり押し潰してしまう。
伊達のバイザーに警告表示が流れる。
「出力が異常だ。
これは普通のナイトメアじゃない」
その時だった。
四人のモジュラーが同時に微かに震えた。
赤。
青。
緑。
紫。
それぞれのカプセムが淡く発光し、まるで互いに呼応するように共鳴している。
百田が気付く。
「……なんだ、この反応」
赤松も驚いた声を上げる。
「サウンドが……勝手に」
ゴン太のバリアカプセムも、静かに光を放っていた。
最原はその光を見つめながら、静かに考える。
戦闘の最中でありながら、頭の中では断片的な情報が組み合わされていく。
万津の力。
カプセムの共鳴。
そして、この世界の正体。
最原はゆっくりと口を開いた。
「……そうか」
誰もが振り向く。
「このカプセムは、万津君の力の断片なんだ」
四つの光が同時に強くなる。
「だから今、万津君のナイトメアに反応している」
百田が空中で言う。
「つまりどういうことだ?」
最原の視線が、巨大なナイトメアへ向く。
「この四つのカプセムは――」
短く息を吸う。
「万津君を引き戻す鍵なんだ」
その瞬間だった。
遠くで黒四館の表情が変わる。
「……なるほど」
小さく呟く。
「そこに気付くとは、流石は探偵」
だが次の瞬間、彼女の微笑みは消えた。
「ですが、それは困ります」
黒四館が指先を軽く振る。
その動作は優雅だったが、世界の反応は凶暴だった。
地面が裂ける。
瓦礫の隙間から黒い霧が噴き出し、無数の影が形を取り始めた。
腕。
角。
翼。
歪んだ怪物の輪郭が次々と生まれていく。
それはこれまでのナイトメアとは違う。
そこには意思がない。
ただ黒い塊が動き出しただけのようだった。
伊達が低く呟く。
「……個体意識がない」
最原も気付く。
「これは……操られているわけじゃない」
黒四館が静かに言う。
「万津様の悪夢は、個体として生まれる必要すらありません」
黒い影が次々と地面から湧き出る。
まるで地面そのものが悪夢になったかのようだった。
「これが、万津様の力」
黒四館は笑う。
「悪夢そのものが世界を満たす」
ナイトメアの群れが一斉に動き出した。
その数は、数え切れない。
空にも、地面にも、建物の影にも。
すべての場所から悪夢が生まれていく。
百田が歯を食いしばる。
「おいおい……」
ゴン太がバリアを広げる。
「こんなに……!」
赤松の音波が広がるが、それでも追いつかない。
最原は拳を握った。
カプセムの光が、まだ共鳴している。
「皆!」
声を上げる。
「カプセムを使えば、万津君を取り戻せる!」
だが、その前に。
黒いナイトメアの波が、彼らへ襲いかかってきた。
世界そのものが敵になったかのようだった。
それでも。
最原は一歩前へ出る。
「絶対に諦めない」
その言葉は、静かだった。
だが、確かな意志が込められていた。