ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
黒い霧が渦巻くソムニウム世界の中心で、俺はようやく地面へ足をつけた。
さっきまで胸の奥に押し込められていた重たい感覚がまだ残っていて、呼吸をするだけでも身体の奥が軋むようだった。
それでも、目の前に立っている五人の姿を見た瞬間、胸の奥に灯る感情が確かに変わった。
「……最原」
声を出すと、自分でも驚くほどかすれていた。
それでも最原はすぐに気付いて、静かに頷いてくれる。
百田が腕を大きく振り上げる。
「ようやく起きやがったな!」
その声には、心配と怒りと安堵が全部混ざっていた。
赤松はほっとしたように笑い、ゴン太は胸を張ってこちらを見ている。
伊達さんはいつもの落ち着いた顔のまま、だけどほんの少しだけ安心したように見えた。
俺はその光景を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……来てくれたんだな」
言葉はそれだけしか出なかった。
だけどそれだけで十分だった。
その時、背後からゆっくりと拍手の音が聞こえた。
振り向くと、黒四館が少し残念そうな顔でこちらを見ていた。
いつもの微笑みを浮かべてはいるが、どこか肩の力が抜けたようにも見える。
「残念ですわ」
彼女は静かに言った。
「もう少し、ここで眠っていてくだされば良かったのに」
その声には怒りも憎しみもない。
ただ本当に残念だという感情だけが混ざっていた。
「ここなら苦しむ必要はありませんでしたのに」
俺はその言葉を聞いて、ほんの少しだけ目を伏せる。
確かに、あの場所は静かだった。
何も失うこともなく、何も背負う必要もない。
ただ夢の中で眠り続けるだけの場所だった。
黒四館は、本気でそう思っていたのだろう。
「……分かるよ」
俺は静かに言った。
「ここなら、確かに苦しまなくて済む」
黒四館の目がほんの少しだけ見開かれる。
俺は続ける。
「でもさ」
ゆっくり顔を上げる。
「ここにいる限り、悪夢は終わらない」
ソムニウム世界の空を見上げると、黒い霧がまだ渦巻いている。
カタストロフゴアナイトメアは完全には消えていない。
この世界そのものが、俺の悪夢だ。
「これ以上、悪夢を増やしたくない」
拳を握る。
「だから俺は戻る」
黒四館はしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「やはりそう仰いますのね」
その声はどこか嬉しそうでもあった。
「万津様は、そういう方ですもの」
彼女は一歩下がる。
まるでこれから起こることを観察するかのように。
その瞬間だった。
俺の腰のゼッツドライバーが静かに震えた。
同時に、周囲の光が一斉に強くなる。
赤。
青。
緑。
紫。
四つのカプセムから放たれた光が、空間を横切るようにこちらへ流れ込んできた。
百田のウィング。
伊達さんのアイボゥ。
ゴン太のバリア。
赤松のサウンド。
その光が、まるで導かれるように俺の身体へ吸い込まれていく。
胸の奥で、何かが確かに繋がった。
「……なるほどな」
思わず笑う。
「これが、お前たちの力か」
カプセムの光は荒れ狂うようなものではなかった。
むしろ静かで、支えるような暖かさがあった。
だから分かった。
この力は、暴走しない。
俺はデュアルメアカプセムを取り出す。
黒い装置がゆっくり展開し、ドライバーへ装填される。
胸の奥で鼓動が強くなる。
それでも恐怖はなかった。
「変身」
右拳でメアトリガムを叩き込む。
『メツァメロ……メツァメロ……』
黒い霧が一斉に広がる。
だが次の瞬間、その霧の中に四色の光が走った。
赤。
青。
緑。
紫。
それぞれの光が渦を巻き、黒い嵐を押し留める。
『パルバライズ! ライダー!』
身体の奥から力が溢れる。
『ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ!』
黒い装甲が形を作り、全身が重厚な力に包まれていく。
『カタストロム!』
竜巻のようなエネルギーが収束し、俺の身体へ吸い込まれた。
装甲が完成する。
カタストロム。
だが以前のような暴走の感覚はない。
むしろ、静かだった。
胸の奥には確かな力がある。
そしてその奥には、四つの光が支えるように灯っている。
俺はゆっくり拳を握る。
黒四館が嬉しそうに笑う。
「……ああ、素晴らしい」
彼女は心から楽しそうだった。
「やはり万津様は、ここで終わる方ではありませんわね」
俺はゆっくり顔を上げる。
遠くで、カタストロフゴアナイトメアが再び動き出していた。
巨大な悪夢が、こちらへ振り向く。
俺はその姿を見つめながら言う。
「行こう」
後ろの五人に向かって。
「ここから先は、俺たちの番だ」
カタストロムの装甲が、静かに光を放った。