ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
無数の鍵が砕け散る音と共に空間がひび割れた。三つのメンタルロックが解かれた瞬間、天井から崩れ落ちてきたのは──
「あぁ」
赤松楓の悲鳴に似た呼び声だった。彼女の輪郭が揺らぎ、まるで水面に映る虚像のように分裂する。
「あれは」
最原が目を細めて呟く。俺の前に現れたのは確かに赤松楓だ。だが髪は乱れ、制服の袖は泥にまみれ、そして何より──瞳に熱がない。
「冷めきった目……」
俺が声に出すと彼女は嘲笑した。
「才能?友情?努力?全部くだらない嘘だよ」
彼女の背後で再現される映像は残酷だった。小学校の音楽室。双子の姉妹が同時にピアノを弾く。姉(楓)の旋律は完璧で観客は拍手喝采。だが妹(名は見えない)の演奏が始まると沈黙が広がる。
「楓の方がずっと上手い」「妹なんて……」
ヒソヒソ声が針のように降り注ぐ。
「違うんだ! 私は─」
楓が弁護しようとするが画面の妹はすでに退出していた。その後ろ姿は拒絶そのものだ。
「トラウマの核心は才能コンプレックスじゃない」
最原が推理を始めた。
「双子という特殊な関係性において“唯一無二の才能”を持つことは妹にとって“孤独への招待状”だったんだ」
俺は胸を押さえた。理解できる。自分と全く同じ姿形の人間が別の道を歩む苦しさ。
画面が切り替わる。中学の全国コンクール。優勝を逃した楓が舞台裏で泣き崩れる場面だ。観客席の表情がアップになる。「がっかりした」「所詮あの程度か」
失望の言葉が黒いインクのように流れ落ちる。それを見つめるもう一人の赤松が囁いた。
「私の中で妹はずっと叫んでる。“あなたさえいなければ自由になれた”って」
「違う!」
今度こそ俺は叫んだ。
「誰も君を責めていない! 妹だって本当は─」
「でも世界は違う視線で裁く」
彼女の指が俺の襟元を掴む。冷たい指先が命脈を削るように圧迫する。
変身ベルトの警告音がけたたましく鳴り響く。身体が鉛のように重い。
「万津君!」
最原の叫びも遠くなる。意識が薄れる寸前、幻聴のような歌声が聞こえた。
♪ ピアノの音色は いつも一人ぼっち
♪ 二人分の想いを 消してしまうから
「……歌?」
崩れゆく意識の中で俺は気づいた。あの冷めた赤松が初めて表情を変えたことを。涙を堪えるように唇を噛む彼女の瞳を見る。
「それは違うよ!」
突然だった。最原の声が雷鳴のようにソムニウム世界を切り裂いた。
現実世界にいる彼は、夢の中にいる赤松のトラウマを。
否定するように。
「最原君」
その言葉と共に、ゆっくりと語り出す。