ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
崩れたソムニウム世界の余韻がまだ空気に残る頃、終天教団の本部はいつもと変わらない静けさに包まれていた。
高い天井と長い廊下は光をほとんど通さず、壁面に埋め込まれた端末の淡い表示だけが冷たい青白い光を落としている。
その中央の通路を、黒四館仄はゆっくりと歩いていた。
靴音は小さく、しかしこの静寂の中では妙にはっきりと響く。
彼女の表情には敗北の色はなく、むしろ何かを観察し終えた研究者のような落ち着きがあった。
やがて廊下の奥にある巨大な扉が静かに開く。
その先には広い空間が広がっており、中央には一つの椅子が置かれていた。
その椅子に座る人物は、まるで最初からそこにいたかのように動かない。
下辺零。
終天教団の教祖であり、アルターエゴとして存在するデータ生命体。
柔らかな笑みを浮かべたまま、黒四館の姿を静かに見つめていた。
「お帰りなさい、黒四館」
その声は穏やかで、まるで世間話を始めるような調子だった。
黒四館は軽く頭を下げ、ゆっくりと歩み寄る。
「ただいま戻りましたわ、教祖様」
零は微笑みを崩さない。
その表情は、相手を評価する研究者のようでもあり、観察対象を見守る観測装置のようでもあった。
「それで」
静かな声が空間に広がる。
「万津莫の力は、いかがでしたか」
その問いに対して、黒四館は少しだけ楽しそうに笑う。
彼女は一瞬だけ目を閉じ、先ほどの戦場の光景を思い出すように言葉を選んだ。
「……とても素晴らしいものでしたわ」
その声には確かな満足が含まれている。
しかし同時に、それだけでは終わらない何かを示す響きもあった。
「カタストロムの力は想像以上でしたし、あれほどの悪夢を抱えながらも仲間と共鳴する精神は実に興味深いものでした」
黒四館は少しだけ肩をすくめる。
「それに」
微笑みが少し深くなる。
「まだ先がありますもの」
その言葉を聞いた瞬間、下辺零の目がわずかに細くなる。
しかし表情は変わらない。
相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「そうですか」
その声は静かだったが、確かに満足している響きがあった。
「やはり彼は、期待通りの存在のようですね」
零はゆっくりと椅子から立ち上がる。
その動きは人間のものとほとんど変わらないが、どこか機械的な滑らかさが混ざっている。
彼はゆっくりと手を持ち上げた。
その掌の中には、一つのカプセムがあった。
見慣れたものとは少し違う形状をしており、内部には淡い光が静かに揺れている。
その光は夜明け前の空のような色で、完全な闇でも完全な光でもない不思議な輝きだった。
黒四館はそのカプセムを見て、興味深そうに目を細める。
「それが……」
零は小さく頷く。
「ええ」
彼の指先がわずかに動く。
するとカプセムの内部の光がゆっくりと回転し始めた。
「万津莫の力が予想以上であるならば」
零は静かに続ける。
「こちらも確かめておくべきでしょう」
その言葉と共に、カプセムの光が一瞬だけ強くなる。
その光の中に、ほんのわずかに影のような輪郭が浮かび上がった。
それは人型だった。
鋭い装甲のシルエットが、ほんの一瞬だけ光の中に現れる。
しかし次の瞬間には、その姿は再び光の奥へと沈んでいく。
黒四館はその様子を見て、静かに笑った。
「新しい夜明け、というわけですわね」
零は答えない。
ただ静かに、いつもの微笑みを浮かべているだけだった。
しかしその瞳の奥には、確かな興味が宿っていた。
「仮面ライダーゼッツ」
小さく呟く。
「そして……」
彼はカプセムを軽く握り込む。
「仮面ライダードォーン」
部屋の光がゆっくりと暗くなる。
カプセムの光だけが、静かに揺れていた。
それはまるで、まだ見ぬ夜明けの予兆のようだった。