ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
意識が浮かび上がるように、ゆっくりと戻ってきた。
暗闇の底から水面へ浮かび上がるような感覚の中で、まず耳に届いたのは規則正しく鳴り続ける機械の音だった。
小さく息を吸うと、消毒薬の匂いが肺の奥に広がる。
その匂いだけで、ここが現実だと理解できた。
俺はゆっくりと目を開く。
視界はまだぼやけていて、天井の白い照明が滲んで見えた。
希望ヶ峰学園の医療室特有の無機質な光景が、静かな現実としてそこに広がっている。
身体を動かそうとした瞬間、腕に付いたセンサーが小さく音を立てた。
そのわずかな音に反応するように、誰かの声がすぐ近くで上がる。
「……おい」
聞き慣れた、少し乱暴な声だった。
「万津!」
視界がゆっくりと焦点を取り戻す。
ベッドのすぐ横に立っていたのは、百田だった。
腕を組んで立っていたはずの彼は、いつの間にか身を乗り出すようにこちらを覗き込んでいる。
その表情にはいつもの豪快さよりも、心配が強く浮かんでいた。
「ようやく起きやがったな」
言葉は強いが、声にははっきりと安堵が混ざっている。
俺は喉の奥に残る乾いた感覚を確かめながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……百田」
その声を出しただけで、胸の奥にあった緊張が少しだけほどける。
百田は一瞬だけ黙ったあと、肩をすくめるように笑った。
「ったく、心配させやがって」
その言葉の直後、周囲からいくつもの足音が近づいてくる。
視線を横へ向けると、最原が静かに立っていた。
彼はいつもの落ち着いた表情のまま、こちらをじっと見ている。
「目が覚めたんだね」
その声は穏やかだったが、長い間張り詰めていた空気が少し緩むような響きがあった。
「身体は動く?」
俺は指をゆっくりと動かす。
力はまだ完全ではないが、痛みはほとんど残っていない。
「……大丈夫だ」
そう答えると、最原は小さく息を吐いた。
その後ろでは、赤松が胸の前で手を合わせるようにしてこちらを見ていた。
彼女はほっとしたように微笑む。
「良かった……」
その言葉は小さかったが、確かな安心が含まれていた。
ゴン太もすぐ横で大きく頷く。
「万津君、元気そうでよかったです!」
その声はいつも通りまっすぐで、聞いているだけで少し肩の力が抜ける。
ベッドの足元には伊達さんが腕を組んで立っていた。
彼は俺を一度じっと観察したあと、短く言う。
「生還確認だな」
その言葉は淡々としているが、どこか安心した響きがあった。
医療機器のモニターの横では、日菜がタブレットを操作している。
彼女は画面から視線を上げて軽く笑った。
「生体反応は安定してるッス。
いやー、本当にギリギリだったんスよ」
俺はその言葉を聞きながら、ゆっくりと天井を見上げた。
あの戦いの光景が、はっきりと思い出される。
黒い霧。
巨大なナイトメア。
そして仲間たちの光。
カタストロムの力も、はっきり覚えている。
胸の奥にまだ残っている感覚を確かめるように、ゆっくりと手を握る。
だが、あの時のような暴れる力は感じない。
まるで嵐が通り過ぎた後の海のように、静かな感覚だけが残っていた。
最原がその様子に気づいたように言う。
「無理はしない方がいい」
その声には、どこか優しい警告が混ざっている。
「しばらくは休んだ方がいいよ」
俺は小さく頷いた。
そして、ベッドの周りに立っているみんなをもう一度見渡す。
全員がそこにいた。
誰も欠けていない。
それを確認した瞬間、胸の奥で静かに何かがほどける。
「……ありがとう」
その言葉は自然に出ていた。
百田が少し驚いたような顔をしたあと、すぐに笑う。
「バカ言うな」
腕を軽く振る。
「仲間だろ」
その一言だけで、十分だった。
医療室の窓から差し込む光が、静かに部屋を照らしている。
長かった悪夢は終わり、現実の時間がゆっくりと戻り始めていた。