ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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夜明け Part6

 飛来した手裏剣が俺の腕で弾かれた瞬間、硬い金属音が中庭の上を裂いて、紫色の空の奥へ鋭く消えていった。

 衝撃そのものは重かったが、子供たちの悲鳴が続かなかった事実だけで、今の防御に意味があったと分かる。

 アサシンナイトメアは一歩も退かず、巨大な手裏剣を模した頭部をわずかに傾けながら、こちらの出方を測るように黙っていた。

 

「このナイトメア、見た目から分かるけど、やっぱり忍者だから動きが見えない」

 

 俺は視線を切らないまま言って、左右へ散っていく分身の足運びを追う。

 忍者ってのは厄介だ。派手に強い相手より、姿を消して守る隙間を突いてくる相手の方が、こういう護衛戦じゃ何倍も厄介になる。

 

「さっきから、そのナイトメアって何なのよ」

 

 春川が子供を庇いながら低く言う。

 声には苛立ちが混じっていたが、それは俺に向けたものというより、理解できない現象を前にした焦りの方が強かった。

 

「ナイトメアは、その人の悪夢が具現化した存在なんだ。……あれ?」

 

 言いかけたところで、俺はアサシンナイトメアの動きに違和感を覚えた。

 こいつは俺たちを斬り伏せようとしているわけじゃない。

 狙いは最初から一貫して、俺でも春川でもなく、子供たちだけに絞られている。

 

「……どうしたの」

 

「いや、その、超高校級の保育士なのに、なんで忍者に――」

 

「それ以上言ったら、まずはあんたから殺すよ」

 

 春川が本気の声色で返してきたので、俺は即座に前言を撤回した。

 こういう時に変な軽口を叩くのは俺の悪い癖だが、張り詰めた空気を少しでも緩めないと、次に来る一撃で心が折れる場合もある。

 

「あっ、ごめん」

 

「……まあ、こっちも悪かったけど」

 

 その短いやり取りの直後、アサシンナイトメアが足音もなく消えた。

 いや、消えたんじゃない。見失わされた。

 黒い煙が地を這うみたいに広がり、その煙の内側から同じ姿がいくつも立ち上がる。

 分身の数は五、いや六か。正確に数える意味は薄い。全部が本物みたいに殺意を持って動いている時点で、どれが本体でも厄介さは変わらない。

 

「来るぞ、春川!」

 

 言葉と同時に、手裏剣が放たれた。

 一直線じゃない。曲がる。跳ねる。壁も地面もないのに、空中で軌道を変えて子供たちの隙間へ潜り込んでくる。

 ただの投擲じゃない。狙いそのものが“守らせない”ために組まれている。

 

 俺は前へ出て二本を弾き、身体を捻ってもう一本を肩で受けた。

 だが、その瞬間に分かった。これじゃ足りない。

 フィジカムインパクトのままでも防げる攻撃はある。けれど、防げるのはあくまで“見えたものだけ”だ。

 今の相手は、見えない手数で守りの穴を探してくる。

 俺が全部を追い切るより先に、春川が守ろうと動いた先の別方向を突かれる。

 

 そして、実際にその最悪が起きた。

 

 春川が小さな子供を抱き寄せた直後、その背中側から別の手裏剣が滑り込む。

 子供だけを狙う悪意が、まるで最初からその瞬間を待っていたみたいに鋭かった。

 

「っ……!」

 

 春川が振り向く。

 間に合うかどうかは、半歩で決まる。

 半歩の差で、守れたか、守れなかったかが決まる。

 そしてこのソムニウム世界では、その結果がそのまま春川の絶望になる。

 

 駄目だ。

 このままじゃ、春川自身の身体能力と気合いに全部を預ける形になる。

 守るために必要なのは、速さより先に、確実な防壁だ。

 

 俺は胸の前でドライバーへ手を走らせる。

 今必要なのは突破力じゃない。

 今必要なのは、子供も春川も一緒に包める守りの形だ。

 

「バリア!」

 

 カプセムを装填した瞬間、ドライバーの音声が夢の空気を震わせた。

 続けて響く変身音が、中庭を覆う悪夢のノイズへ真正面からぶつかっていく。

 

『バリア! メツァメロ! メツァメロ!』

『グッドモーニング! ライダー! ゼッツ! ゼッツ! ゼッツ! バリア!』

 

 装甲が上書きされる。

 視界の端で光が走り、両腕の感覚が一気に重く、そして頼もしく変わった。

 エスプリム系の洗練された輪郭を残しながら、前腕部だけが明確に厚みを増し、大型のシールドが外殻のようにせり上がる。

 左右の腕に備わった防盾は、ただの装備じゃない。

 見た目の時点で“守るための形”をしていて、俺が一歩踏み込むだけで、そこに一枚の壁が出現したみたいな圧がある。

 

 迫っていた手裏剣が、俺の展開した防壁へ激突する。

 硬い衝突音が連続し、火花が散る。

 それでも貫かれない。

 むしろぶつかった側の軌道が乱れ、地面へ弾き落とされていく。

 

「……すご」

 

 春川が呆然と漏らす。

 その一言だけで十分だった。

 守れる。

 少なくとも今この瞬間、守れないって決めつけだけは否定できた。

 

「春川、子供たちを俺の後ろへ寄せろ。固まらせすぎるな。二列でいい。俺が正面を切る」

 

 俺が指示を飛ばすと、春川は一瞬だけ目を見開いたあと、すぐに頷いた。

 やっぱりこいつは現場に立つ側の人間だ。

 感情に呑まれかけていても、守るための言葉が届けばすぐ動ける。

 

「みんな、こっち! 急いで、でも押さないで!」

 

 春川が子供たちを導き、その前へ俺が立つ。

 これで、子供たちだけじゃない。

 春川も俺の守備範囲に入った。

 アサシンナイトメアの狙いが“春川に守れなかったと思わせること”なら、守る主体を一時的に俺へずらすだけでも意味がある。

 

 だが、相手も馬鹿じゃない。

 俺が守りを優先したと見た瞬間、アサシンナイトメアは明らかに狙いを変えてきた。

 子供へ投げていた手裏剣を引き、今度は俺の死角へ潜り込むように本体が接近する。

 

 守りに入ったライダーは反撃が遅れる。

 そう読んだんだろう。

 正しい判断だ。

 正しいからこそ、そこを逆に折る価値がある。

 

「甘いな」

 

 俺は左腕の盾で最後の一本を弾いたまま、右手でブレイカムゼッツァーを引き抜く。

 手の中で武器の重量が切り替わり、アックスモードへ変形する感覚が掌に馴染んだ。

 そこへ、次のカプセムを迷わず装填する。

 

「ストリーム」

 

 大気を操る力。

 フォームそのものを切り替えなくても、今この武器に必要な性質としては十分だ。

 回転入力と同時に、刃の周囲で空気が唸り始める。

 圧縮された風が刃に沿って渦を巻き、目には見えない一撃の幅が、一気に広がった。

 

 アサシンナイトメアが飛び込んでくる。

 分身を二つ重ね、本体の位置を紛らわせながら、巨大な手裏剣の頭部ごと叩き込むような接近だ。

 その動きは速い。

 だが、風は速さごと掴める。

 

「吹き飛べ!」

 

 俺は腰を落として、横薙ぎに振り抜いた。

 アックスの刃だけじゃない。

 巻き起こった気流が一帯を薙ぎ払い、空中に残っていた手裏剣の軌道を強引に押し流す。

 分身が崩れる。

 煙が散る。

 そして本体だけが、まともに風圧と斬撃を食らって中庭の奥へ吹き飛んだ。

 

 アサシンナイトメアの身体が地面へ叩きつけられ、砂と黒い靄が跳ねる。

 倒れた。

 だが、倒したわけじゃない。

 忍者型の悪夢がこの程度で終わるはずがないし、何より、こいつの本質はまだ崩れていない。

 

 俺はアックスを構えたまま、一歩、また一歩と近づく。

 背中の向こうでは、春川が子供たちを抱き寄せる気配がある。

 その気配がある限り、俺は前を向ける。

 

「さて、ようやく話ができそうだな、アサシンナイトメア」

 

 砂煙の向こうで、巨大な手裏剣がゆっくり持ち上がる。

 倒れた体勢のままでも、あの悪夢はまだ笑っていた。

 守れたという事実そのものを、次の一手で塗り潰すつもりなのかもしれない。

 だったら、その前に踏み込むだけだ。

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