ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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夜明け Part7

 倒れたアサシンナイトメアへ、俺はアックスを構えたまま距離を詰める。

 春川の後ろでは、まだ怯えた子供たちの息遣いが小さく揺れていて、その気配が背中を押していた。

 ここで仕留める。

 そうしなきゃ、この悪夢はまた同じやり方で子供たちを狙うし、春川の心も何度でも削られる。

 

 アサシンナイトメアは砂を巻き上げたまま膝をついていた。

 巨大な手裏剣を模した頭部がゆっくり持ち上がり、切傷みたいな模様の走る身体が黒い靄を吐く。

 まだ動ける。

 けど、今なら間に合う。

 ストリームカプセムの残した気流がまだ周囲を乱している以上、こいつの忍者じみた挙動もさっきほど鋭くはない。

 

「終わりだ、アサシンナイトメア」

 

 俺はそう言って、ブレイカムゼッツァーを振り上げた。

 次の一撃で決める。

 そう判断した瞬間だった。

 

 空気が裂けた。

 

 嫌な予感が、音より先に首筋を走る。

 俺は反射で踏み込みを止め、その場から横へ飛んだ。

 直後、さっきまで俺のいた場所へ、巨大な刃が叩きつけられる。

 剣、というより処刑器具だった。

 地面ごと断ち割るみたいな重さで土を抉り、遅れて衝撃が中庭全体に広がる。

 

「っ……!」

 

 着地と同時に振り返る。

 視線の先に立っていたのは、見覚えのない仮面ライダーだった。

 

 胸部の中央には、何かが欠けたみたいな空隙。

 ゼッツと同じくライダーの輪郭を持ちながら、そのどこかが決定的に噛み合っていない異物感がある。

 さっき飛んできた巨大な剣――いや、もはやギロチンと呼んだ方がしっくり来るそれを、無造作に地面へ突き立てたまま、そいつはもう片方の手に握った小型の剣だけを下げていた。

 

 喋らない。

 動揺もしない。

 ただそこにいるだけで、場の空気が一段冷たくなる。

 

「……お前は、誰だ」

 

 問いかけても、返事はない。

 無視したというより、最初から会話を選択肢に入れていないような沈黙だった。

 

 そいつは巨大剣から手を離すと、何の躊躇もなく俺へ向かって踏み込んできた。

 

「なっ――!」

 

 速い。

 いや、速いだけじゃない。

 予備動作が薄すぎる。

 大剣を使う奴の間合いだと思っていたところへ、小剣一本で一気に距離を潰してくる。

 読みがずれる。

 ずれた一瞬に、刃がもう目の前にある。

 

 俺は咄嗟に両腕を交差させ、盾で受けた。

 高い金属音が耳を打つ。

 エスプリムバリアの防盾が衝撃を殺してくれる。

 だが、止まり切らない。

 一撃ごとの重さじゃなく、連撃の角度と速さで体勢そのものを崩しに来ていた。

 

「くっ……!」

 

 二撃目。

 三撃目。

 上段から見せて脇腹、脇腹へ来ると見せて足元、受けた瞬間にはもう次の刃が反対側から走る。

 防げている。

 防げてはいるのに、全部を同じ場所で受けさせてもらえない。

 バリアは一箇所しか張れない。

 その制約を、この謎のライダーは最初から知っているみたいに突いてくる。

 

 俺が守るためのフォームを選んだことを、逆に利用されている。

 子供たちの前から離れられない。

 春川たちへ抜けられる角度を潰しながら応戦するしかない。

 そのせいで、踏み込みも反撃もどうしても遅れる。

 

「万津!」

 

 春川の声が背中から飛ぶ。

 それに返す余裕はなかった。

 小剣の斬線が、今度は盾の縁を正確に叩く。

 嫌な感触が腕を走り、体勢が浮いた。

 

 そこを逃さず、謎のライダーが低く潜り込む。

 次の瞬間、腹へ蹴りがめり込んだ。

 

「がっ――!」

 

 息が抜ける。

 そのまま身体が大きく吹き飛ばされ、地面を削りながら転がった。

 盾がなければ、今のでもっと深く持っていかれていた。

 けど、痛みより先に理解したのは、こいつが俺を倒すことより“どかす”ことを優先したって事実だ。

 

 視線を上げる。

 謎のライダーは、俺には追撃せず、地面へ突き立てた巨大剣の方へ歩いていた。

 

 やっぱり、そっちが本命か。

 

 そいつは無言のまま大剣の柄へ手をかける。

 装填されていたカプセムが、鈍く光った。

 胸の奥で、理屈じゃない警鐘が鳴る。

 まずい。

 あれは受けるしかない。

 避けた先に春川たちがいる。

 

 俺は立ち上がり切る前に両腕の盾を前へ出した。

 その動きと同時に、謎のライダーがカプセムを回す。

 

『ドォーン! パニッシュエッジ! ゲット・ロスト!』

 

 低く、重く、叩きつけるみたいな音声が中庭を震わせた。

 巨大剣が何かを撃つのかと思った。

 だが、実際に閃いたのは、もう片手に握られていた小剣の方だった。

 

 細いはずの刃から、巨大な断罪そのものみたいな斬撃が走る。

 空間ごと裂くみたいに一直線。

 速すぎて、考える余地はない。

 

「っ……!」

 

 防ぐ。

 それしかない。

 両腕の盾を合わせ、バリアを正面へ集中する。

 斬撃がぶつかった瞬間、衝撃が全身の骨へ直接叩き込まれた。

 受け止めた、と思ったのは一瞬だけだ。

 威力が段違いだった。

 防壁が砕けたわけじゃない。

 砕けてはいないのに、その上から押し潰される。

 

「う、おおおっ!」

 

 踏ん張り切れない。

 足元の土が抉れ、次の瞬間には身体ごと後方へ弾き飛ばされていた。

 視界が回る。

 背中から地面に叩きつけられ、息がまた喉の奥で途切れる。

 

 くそ、なんだこいつ……!

 

 春川たちの方を見る。

 子供たちはまだ無事だ。

 春川が咄嗟に庇って、俺が作ったわずかな時間を繋いでいる。

 だが、その視線の先で、謎のライダーはもう別の目的を果たそうとしていた。

 

 倒れていたアサシンナイトメアの襟首を、そいつは無造作に掴み上げる。

 助ける、という感じじゃない。

 回収する、という表現の方がよほど近い。

 

「待て……!」

 

 声を絞り出して立ち上がろうとする。

 けど、脚に力が戻るより先に、そいつは一度だけこちらを見た。

 仮面越しでも分かる。

 何の感情もない。

 敵意すら薄い。

 ただ、俺を“障害物”として処理した目だった。

 

 そのまま、謎のライダーはアサシンナイトメアを引きずるようにして後退する。

 紫色の空気が揺らぎ、黒い靄が足元から湧き上がった。

 離脱する気だ。

 

「逃がすか!」

 

 俺は無理やり身体を起こして踏み出す。

 けれど、その瞬間にはもう遅かった。

 靄が視界を覆い、次に晴れた時には、そこにいたはずの二つの影は跡形もなく消えていた。

 

 残ったのは、地面を抉った巨大な斬撃痕と、嫌に重たい沈黙だけだった。

 

「……万津」

 

 背後から春川の声がする。

 俺は息を整えながら、ブレイカムゼッツァーを握り直した。

 アサシンナイトメアは倒し切れなかった。

 それだけでも最悪なのに、今のライダーはそれ以上に厄介だ。

 問いかけには答えない。

 目的だけ果たして消える。

 しかも、ナイトメアを回収していった。

 

「味方、じゃねぇのは確かだな……」

 

 自分で言いながら、奥歯を噛み締める。

 あれが何者なのかは分からない。

 でも、一つだけ分かることがある。

 あいつは、この悪夢を終わらせる側じゃない。

 むしろ、続きを選んだ側だ。

 

 春川の方を見る。

 子供たちはまだ怯えているし、春川の顔色も良いとは言えない。

 守れた。

 けど、終わっていない。

 終わっていない以上、この戦いはまだ春川の心を狙い続ける。

 

「春川。今のうちに、子供たちをまとめろ。ここから先、もっと面倒なことになる」

 

 そう言うと、春川は短く頷いた。

 無事だったことへの安堵より先に、次の脅威へ備える顔だった。

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