ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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戯れ Part6

 万津がドォーンを引きつけたことで、中庭の空気は二つに裂けた。

 一方では雷と双剣が火花を散らし、もう一方では、絶望を押しつける忍者の悪夢が、なおも子供たちと春川たちを狙って牙を剥いている。

 アサシンナイトメアは、こちらが万津とドォーンの激突へ気を取られた、その一瞬を見逃さなかった。

 

 赤と紫の影が揺れる。

 次の瞬間には、その腕から放たれた手裏剣が、一直線に最原たちへ迫っていた。

 空気を裂く音が鋭い。

 ただ投げたんじゃない。狙い澄まし、迷いなく急所だけを抉りに来る軌道だった。

 

「万津君が戦っているんだ、だったら、僕達がやれる事をやるだけ」

 

 最原はそう言い切ると、手にしたブレイカムゼッツァーを即座にガンモードへ切り替えた。

 迷いはなかった。

 引き金へかかった指が一瞬だけ沈み、そのまま鋭い発射音が響く。

 

 撃ち出された弾丸は、飛来する手裏剣へ正確にぶつかった。

 金属同士が噛み合うような硬い衝突音が鳴り、手裏剣の軌道が強引に逸らされる。

 だが、その結果を確認するより先に、最原の背筋が冷たくなった。

 

 いない。

 今、手裏剣を投げたはずのアサシンナイトメアが、そこにいなかった。

 

「はっ、赤松さん!」

 

 最原が叫ぶ。

 振り向いた視線の先で、赤松のすぐ背後の影が裂けた。

 そこから、いつの間にか距離を詰めていたアサシンナイトメアが現れる。

 巨大な手裏剣頭だけじゃない。

 その手には、日本刀が握られていた。

 忍者の悪夢らしく、投擲だけで終わらない。近づいた瞬間には、切り捨てるための刃まで揃っている。

 

「えっ、きゃぁっ!」

 

 赤松が振り返った時には、もう遅かった。

 振り抜かれた刀身が彼女の防御の外側を掠め、その衝撃だけで身体が大きく吹き飛ばされる。

 地面へ叩きつけられる寸前、最原が駆け寄ろうとするが、その前を黒い煙が遮った。

 

「こいつ、どこから来るのかさっぱり分からねぇ」

 

 百田が歯を食いしばりながら、手にしたブレイカム・モジュラーを構える。

 いつもの豪快さは残っている。

 だが、その声には苛立ちが濃かった。

 目の前にいる相手は強いだけじゃない。

 見える場所にいない。

 だから殴るべき相手そのものが定まらない。

 百田みたいに真正面からぶつかる人間にとって、それは相性最悪の手合いだった。

 

 煙の向こうで、アサシンナイトメアの輪郭がまた揺れる。

 次にどこから来る。

 その緊張が全員を縛った瞬間、春川がぽつりと呟いた。

 

「……こいつは私から生まれた存在なのよね」

 

 その声は、驚くほど静かだった。

 さっき自分の才能を告白した時とは違う。

 もっと冷えていて、もっと真っ直ぐだった。

 

「あぁ、そうだが」

 

 百田が答えた瞬間、春川の目がわずかに細くなる。

 その視線は、アサシンナイトメアの方へ向いている。

 怯えでも嫌悪でもない。

 自分の過去と、ここで決着をつけると決めた人間の目だった。

 

「だったら、少し借りるわよ」

 

「えっ、あぁ――」

 

 百田が反応するより早く、春川はその手にあったブレイカム・モジュラーを奪い取った。

 動きに無駄がない。

 奪うというより、最初からそこへあるべきものを取り戻すみたいな自然さだった。

 

「おい、まさか」

 

 百田が目を見開く。

 最原も、赤松を庇いながら顔を上げる。

 春川は振り返らなかった。

 視線はずっとアサシンナイトメアへ向いたままだ。

 

「こいつの始末は、私がつける」

 

 その言葉には、もう迷いがなかった。

 保育士として子供を守りたい春川も、暗殺者として生きてきた春川も、今はどちらも切り捨てていない。

 その両方を抱えたまま、自分の悪夢へ向き合うと決めている。

 

 春川が取り出したのは、マシーナリーのカプセムだった。

 冷たく光るそのカプセムを、彼女は一切の躊躇なくブレイカム・モジュラーへ装填する。

 機構が噛み合う硬質な音が鳴り、武装の内部を青い光が走った。

 

「変身」

 

 短く、しかしはっきりと告げる。

 その声に合わせるように、起動音声がソムニウム世界へ響いた。

 

『グッドモーニングライダー! マシーナリー』

 

 音声と同時に、機械的な青い光が春川の全身へ絡みつく。

 それは万津の変身みたいな勢いや熱とは違っていた。

 もっと鋭く、もっと整然としている。

 必要な装甲だけを、必要な順番で組み上げていくような精密さがある。

 

 脚部から装甲が立ち上がり、腕へ走り、胸部を覆い、最後に頭部が形成される。

 青を基調としたライダーの外殻は、冷たいのに弱々しさがない。

 むしろ、迷いを切断して前へ進むための刃みたいな印象を帯びていた。

 

「春川……」

 

 最原が息を呑むようにその名を呼ぶ。

 赤松も、吹き飛ばされた痛みを堪えながら顔を上げる。

 そして百田は、一瞬だけ呆れたみたいに笑ったあと、すぐに真剣な目へ戻った。

 

 変身を終えた春川は、ゆっくりとアサシンナイトメアへ向き直る。

 同じ青でも、保育士の穏やかさじゃない。

 それは獲物を仕留めるための静けさと、誰かを守るための決意が、ようやく一つに噛み合った色だった。

 

「……自分の悪夢は、自分で蹴りをつけたい。それが今の私よ」

 

 その言葉が落ちた瞬間、アサシンナイトメアの黒い靄がわずかに揺らいだ。

 今まで春川を絶望させるために作られていた存在が、初めて“狩られる側”の気配を感じ取ったんだろう。

 

 春川は一歩前へ出る。

 その動きだけで分かった。

 もう彼女は、隠していた才能に引きずられているんじゃない。

 自分の意志で、その才能ごと武器にしている。

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