ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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戯れ Part7

 変身を終えた瞬間、春川は一切の溜めを見せなかった。

 青い装甲が完成した次の瞬間には、もう地面を蹴っている。

 迷いを切り捨てたような直線だった。

 躊躇なく、余分なく、ただ最短でアサシンナイトメアの懐へ潜り込むためだけに研ぎ澄まされた加速。

 さっきまで彼女を縛っていた否定や恐れは、今この一歩の中に全部置き去りにされていた。

 

 アサシンナイトメアも即座に反応する。

 赤と紫の忍び装束がひるがえり、その手の日本刀が上段から真っ直ぐ振り下ろされた。

 速い。

 だが、春川は止まらない。

 むしろ、その刃が届く一瞬前にこそ、この距離へ踏み込んだ意味があった。

 

 春川の手にある武器が、そこで形を変える。

 ブレイカム・モジュラーの機構が乾いた駆動音と共にスライドし、彼女は迷わずマシーナリーのカプセムを回した。

 青い光が走る。

 次の瞬間、武器の銃身は鋭利な直線を失い、代わりに獲物を捕らえるためのウィンチ機構へと変形していた。

 

 間髪入れず、春川はそれを撃ち出す。

 放たれたワイヤーは弾丸より静かで、だが蛇よりも正確だった。

 日本刀を振り下ろそうとしていたアサシンナイトメアの腕へ、胴へ、脚へと瞬時に巻きつき、そのまま機械的な力で締め上げる。

 振り下ろされるはずだった刀身が軌道の途中で止まり、忍者の悪夢は初めて“動けない側”へ引きずり下ろされた。

 

「百田!」

 

「おうよっ」

 

 呼吸ひとつ分も空けず、百田が走る。

 豪快な踏み込みだった。

 春川の直線が研ぎ澄まされた刃なら、百田の突進は爆発そのものだった。

 迷いなく前へ出るその勢いが、拘束されたアサシンナイトメアへ真正面から叩きつけられる。

 

 百田の身体がぶつかった瞬間、地面が跳ねた。

 拘束されたままのアサシンナイトメアは受け身を取ることもできず、そのまま勢いごと地面へ叩き落とされる。

 土が弾け、黒い煙が舞い、悪夢の輪郭が一瞬だけ崩れた。

 

「赤松!」

 

「うんっ」

 

 春川の声に応え、赤松が飛び込む。

 吹き飛ばされた痛みはまだ残っているはずなのに、その動きには一切の鈍りがなかった。

 彼女の手にある鎌が大きく円を描く。

 刃そのものの鋭さだけじゃない。そこへ音が重なる。

 旋律をそのまま武器にしたみたいな振動が刃へ宿り、空気を裂いた斬撃がアサシンナイトメアの全身へ降り注いだ。

 

 音を纏った斬撃は、ただ斬るためだけのものじゃない。

 衝撃が重なり、拘束された身体へさらに揺さぶりをかけ、逃げ場を残さず押し込んでいく。

 ワイヤーで縛り、地面へ叩きつけ、その上から音の刃で身動きを奪う。

 完璧な連携だった。

 誰か一人の技じゃない。

 今この場にいる全員が、それぞれの役割を狂いなく噛み合わせたからこその拘束だった。

 

 アサシンナイトメアがもがく。

 だが、もう遅い。

 ウィンチの拘束は解けず、百田の叩きつけで体勢は潰れ、赤松の斬撃で逃げるための余白すら砕かれている。

 忍者の悪夢らしい素早さも、今はもうどこにもなかった。

 

「最原君!」

 

「分かった!」

 

 最後に最原が前へ出る。

 静かだが、一切のためらいがない声だった。

 その手はすでに別のカプセムを掴んでいる。

 最原はそれをノクスドライバーへ装填した。

 

『ガン!』

 

 起動音が鋭く鳴る。

 同時にノクスドライバーが操作され、装甲のラインが一気に変質する。

 

『ワッハッハッハッハッ! ラ! ラ! ラ! ライダー! ノクス! ノクス! ノクス! ガン!』

 

 音声と共に、最原の右腕が巨大な銃へと変形していく。

 それは武器を持つというより、腕そのものが撃ち抜くための機構へ作り変えられていくような変化だった。

 冷たい光が走り、砲身がせり出し、重火器じみた輪郭が右腕へ完成する。

 最原の目は、その間ずっと真っ直ぐアサシンナイトメアを捉えたままだった。

 

 狙いは外さない。

 外せる場面でもない。

 ここで決める。

 その意思が、姿勢ひとつで分かる。

 

 最原はさらにノクスドライバーを操作した。

 躊躇なく、静かに、引き金へ至るための最後の工程を踏む。

 

『ガン! リデンプション!』

 

 音声が鳴り響く。

 銃口へエネルギーが集束していく。

 光は膨張せず、ただ一点へ収束する。

 暴発寸前の熱ではなく、罪そのものを貫くためだけに圧縮された冷たい一撃。

 その密度の高さに、中庭の空気すら張り詰める。

 

 そして、放たれた。

 

 轟音。

 光。

 一直線。

 それだけで十分だった。

 

 撃ち出された一撃は、拘束されたアサシンナイトメアを真正面から貫いた。

 回避も、分身も、煙も、何一つ意味を持たない。

 積み上げた連携の最後に置かれたその一発は、悪夢の核ごと容赦なく撃ち抜く。

 赤と紫の忍び装束が光の中でひしゃげ、砕け、黒い靄へ変わり、そのまま跡形もなく消し飛んだ。

 

 残ったのは、爆ぜた余韻と、静かに揺れる空気だけだった。

 

「……勝てたようね」

 

 春川が低く呟く。

 変身後の青い装甲越しでも、その声にこもった緊張が少しだけほどけたのが分かった。

 自分から生まれた悪夢に、自分の意志で決着をつけた。

 その事実は、きっと今の春川にとって小さくない。

 

「うんっ、けど、万津君はっ」

 

 赤松がはっとしたように顔を上げる。

 その視線に釣られて、全員が同じ方向を見る。

 

 中庭の向こう。

 そこではまだ、雷と双剣が火花を散らしていた。

 アサシンナイトメアの悪夢は終わった。

 けれど、もっと深い悪意の中心では、万津とドォーンの戦いがなおも続いていた。

 

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