ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
こっちの動きを完全に見切っている。
ブースターの推力を上乗せし、イナズマプラズマの速さを限界まで引き上げてなお、その確信は消えなかった。
速さで上回れないなら、隙間へ差し込むしかない。
そう判断した俺は、加速と減速を細かく刻みながら、ドォーンへ何度も角度を変えて斬り込んだ。
右から。
外したように見せて左下から。
さらに踏み込みを半拍ずらし、真正面へ雷を纏った刃を叩き込む。
普通なら、どれか一つは引っかかる。
少なくとも、防御の選択を強要するところまでは持っていける。
けれど、ドォーンは違った。
双剣が、俺の攻撃線に合わせて音もなく走る。
受ける、流す、逸らす、その全部があまりにも滑らかだった。
こちらの一撃を止めたと思った瞬間には、もう次の攻撃線の外側へ立っている。
力任せに押し返しているわけじゃない。
俺の刃がどこへ通るか、その答えを最初から知っているみたいな捌き方だった。
「ふっ、そうだね、君のおかげと言うべきかな!」
仮面の奥から聞こえる声には、余裕があった。
あの穏やかさを残したまま、刃だけは容赦なくこちらを追い詰めてくる。
その余裕が、余計に腹立たしい。
「っ……!」
返す言葉の代わりに、俺はさらに踏み込む。
速度だけで押し切るのはもう諦めた。
なら、加速そのものを囮にして、読みを外すしかない。
ブースターで一瞬だけ強引に軌道を変え、大剣を横薙ぎに振り抜く。
だが、その一撃すら、ドォーンは片方の剣で受け流し、もう片方で次の布石を置いていた。
見えない。
いや、見えているのに追いつかない。
斬撃がどこから来たのかを認識した時には、もう次の一手が始まっている。
目にも見えない斬撃が、空間ごと裂くようにこちらへ降り注いだ。
受ける。
逸らす。
かわす。
その全部を同時にやっているような感覚だった。
だが、対処できているからと言って優勢なわけじゃない。
むしろ逆だ。
ドォーンの斬撃は、ただ速いだけじゃない。
こちらが最も不利になる位置へ、最も嫌な角度で、必ず次を重ねてくる。
技術だ。
速度の差を埋めるために俺が全神経を使っている間に、向こうはその上から技術で盤面を固定してくる。
まずい。
そう思った時には、もう遅かった。
上段から来ると思わせた刃が途中で軌道を消し、俺が防御を上げた直後に、死角側から重い衝撃が叩き込まれる。
双剣の片方で崩し、もう片方の大剣で叩き飛ばす。
前にも食らった連携だ。
分かっていたはずなのに、また同じ手で持っていかれる。
「がっ!」
視界がぶれた。
身体が大きく浮き、次の瞬間には地面を削りながら吹き飛ばされている。
受け身を取っても、衝撃は殺し切れない。
背中から火花みたいな痛みが走り、肺の中の空気が一気に押し出される。
だが、そのまま転がるわけにはいかない。
俺は無理やり足を踏ん張り、土を抉りながら立ち直る。
息は荒い。
装甲の内側で心臓がうるさいくらい鳴っている。
それでも視線だけは、真正面に立つドォーンから外さなかった。
再び対峙する。
距離は開いた。
けれど、そこに仕切り直しの静けさなんてものはない。
ただ次の一手を待つ間だけ、戦場がわずかに息を止めているような緊張があるだけだった。
「万津君」
ドォーンが、あまりにも穏やかな声で俺の名を呼ぶ。
戦っている最中だっていうのに、その声音だけは最初に下辺零として現れた時とほとんど変わらない。
だから余計に不気味だ。
「皆、ナイトメアは倒し終えたのか」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
だが、その直後に気配が変わる。
周囲の空気が軽くなる。
さっきまで中庭を満たしていた悪夢の湿り気が、少しずつ薄れていく。
「あぁ」
ドォーンは短く答えた。
その返答に、俺はようやく理解する。
春川たちが、アサシンナイトメアを倒したんだ。
ほっとする暇もないまま、周囲の景色が崩れ始める。
遊具の影が薄れ、紫色の空が白く剥がれ、地面の輪郭さえ砂みたいにほどけていく。
ソムニウム世界そのものが、終わりを迎えていた。
「……悪夢が覚める時か」
ドォーンの声は、どこか残念そうにも聞こえた。
もっとも、仮面の奥の本心なんて分かりようもない。
ただ、少なくとも今この場で決着をつける気がないことだけは伝わる。