ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ナイトメアが、ひび割れた心臓部を脈打たせながら正面から迫ってくる。
泣き顔の仮面を貼りつけたまま、その腕の先で巨大なハンマーが持ち上がる。
守られたい心を演じながら、実際には誰かの想い出を叩き壊すためだけに振るわれる一撃。
その歪み切った本質が、今はむしろ分かりやすかった。
真正面から来る。
避けるつもりはない。
俺はカタストロムの装甲越しに重心を落とし、まっすぐナイトメアを見据えた。
振り下ろされたハンマーが、頭上から容赦なく叩きつけられる。
衝撃は重い。
ソムニウム世界の地面が悲鳴を上げ、周囲の遊具までびりびりと震える。
けれど、それだけだ。
圧倒的な質量と悪夢の力を乗せたその一撃は、俺の両腕へ叩き込まれたまま、そこで止まった。
カタストロムの装甲は、一歩も退かない。
むしろ、ナイトメアの側が信じられないものを見るように揺れていた。
分かる。
今までなら、こいつの攻撃は“守りたいものを庇う人間”を壊すには十分だったんだろう。
でも、今の俺は違う。
記憶を奪われる痛みも、目の前で失われる辛さも、全部踏まえた上で、それでも壊れないと決めて立っている。
「効かない」
俺は低く吐き捨てる。
そのまま、受け止めたハンマーの柄を掴む。
ナイトメアが引き戻そうとするが、遅い。
カタストロムの出力は、ただ硬いだけじゃない。
握り潰し、折り砕き、理不尽ごとねじ伏せるための力だ。
力を込める。
ひびが走る。
巨大なハンマーの表面へ、蜘蛛の巣みたいな亀裂が一気に広がっていく。
そして次の瞬間、俺はそのまま腕ごと振り抜いた。
砕ける。
鈍い破砕音が鳴り響き、ハンマーは中ほどから無惨に弾け飛んだ。
欠片が宙へ舞い、ひび割れたハート装甲の周囲へ散っていく。
ナイトメアが大きくよろめいた。
「お前が想い出を壊すというならば、俺はそんなお前をぶっ壊す」
言葉にすると、自分でも驚くくらいはっきりしていた。
これは怒りだけじゃない。
奪われたくないものがある人間の、当然の反撃だった。
俺は背後へ手を回し、トリプルゼッツァーを引き抜く。
通常の武器というより、力そのものを叩き込むための特別な砲だ。
ナイトメアの胸部で、ガラスケースのような心臓が脈を速める。
危機を理解したんだろう。
だが、もう遅い。
取り出した三つのカプセムを、俺は迷いなく装填する。
ウィング。
マシーナリー。
サウンド。
空を裂く翼、機械の精密性、そして音の振動。
『トリプルバスター!』
それぞれ別系統の力が、トリプルゼッツァーの内部で一つの必殺へ噛み合っていく。
引き金へ指をかける。
カプセムが同時に発光し、重い駆動音が武器全体を震わせた。
狙いは外さない。
撃ち抜くべきなのは目の前の怪物だけじゃない。
みずきの心へこびりついた“壊れるしかない想い出”という悪夢そのものだ。
「終わりだ!」『ゼゼゼッツ! ゼゼゼッツ!! ゼゼゼェーッツ!!!』
引き金を引く。
放たれたのは単なる光弾じゃなかった。
三つの力が混ざり合った一撃は、砲口を離れた瞬間に形を変え、巨大な機械の鳥となって空間へ羽ばたいた。
金属の翼を広げ、全身に振動と推進を纏ったその鳥は、雷鳴じみた咆哮と共に一直線にナイトメアへ突っ込む。
ナイトメアが残った鉤爪を振るう。
逃げようとする。
けれど、間に合わない。
機械の鳥はその胴体を真正面から食い破り、そのまま爆発的な推力で空高く持ち上げた。
寂れた遊園地の上空へ、悪夢の怪物が強引に引きずり上げられていく。
砕けたハート装甲が軋み、胸部のガラス心臓が赤く明滅し、最後には耐え切れずに内側からひび割れた。
光が溢れる。
悲鳴と破砕音が重なる。
そして次の瞬間、ナイトメアは空の上で完全に弾け飛んだ。
赤い光の粒子が、壊れた遊園地の上へ静かに降ってくる。
泣き顔の仮面も、砕けた心臓も、誰かの想い出を壊そうとしていた悪意ごと、もう跡形もない。
勝った。
そう理解したと同時に、全身から一気に力が抜けた。
カタストロムの出力が限界へ達したんだろう。
装甲が軋み、光のラインが弱まり、次の瞬間には変身が解除される。
膝が少し沈む。
息も荒い。
やっぱり、この姿はまだ“使いこなした”なんて言える代物じゃない。
けれど、立ってはいられる。
なら十分だ。
俺は荒い呼吸のまま顔を上げる。
ナイトメアは消えた。
みずきの悪夢の一つは、今ここで確かに終わった。
だが、このソムニウム世界にいる敵はそれだけじゃない。
視線の先。
遊園地の別の一角では、まだ伊達さんと世島――ノクスナイトの戦いが続いている。
こっちは終わった。
でも、向こうはまだ終わっていない。
俺は崩れそうになる呼吸を押さえ込みながら、再びそちらへ目を向けた。