ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
伊達さんは、目の前に立つノクスナイトをまっすぐ見据えたまま、手にしたブレイカム・モジュラーの引き金を弾いた。
乾いた発射音と共に撃ち出された弾丸が、真っ直ぐ相手の胸を穿とうと走る。
けれど、ノクスナイトはわずかに身体を傾けるだけで間合いを読み切り、その手に持つブレイカムバスターを盾のように立てた。
火花が散る。
弾丸は正面から受け止められ、硬質な衝突音だけを残して砕けた。
防がれた。
だが、それで伊達さんの指が止まることはない。
次の弾、さらにその次の弾と、間を空けずに連続で撃ち込んでいく。
止めるためじゃない。
逃がさないためだ。
相手の動きと呼吸と、考える余地そのものを削っていくための射撃だった。
「ははぁ、まぁ未だにお前は過去に囚われているようだな」
ノクスナイトが嗤う。
その声は伊達さん自身に似ているのに、似ているからこそ不快だった。
人を見下ろす調子じゃない。
むしろ、全部分かった上で一番嫌なところだけを抉りにくる、内側からの声に近い。
「……そうだな」
伊達さんは短く返した。
否定しない。
開き直りもしない。
ただ、その事実を事実として飲み込んだ上で、なお引き金を引き続ける。
ブレイカム・モジュラーが吠える。
撃ち込まれる弾道は鋭く、角度もリズムも単調じゃない。
真正面へ撃ち抜く弾。
一拍遅れて足元を抉る弾。
回避の軌道まで計算したように、次の一発がその逃げ道へ置かれる。
射撃の腕そのものが高い。
だが、それ以上に“迷いを切った人間の攻め方”だった。
ノクスナイトはその全てを、ブレイカムバスターで払い、かわし、いなしていく。
重い武器のはずなのに、その取り回しに無駄がない。
防御のための動作に見せて、次の瞬間には斬撃の角度へ移る。
まるで伊達さん自身の癖を、本人以上に知っているみたいな戦い方だった。
「俺自身、その罪がまだ許されているつもりなんて毛頭ないよ」
伊達さんが言う。
撃つ。
踏み込む。
また撃つ。
言葉と攻撃が、まるで同じ一つの流れの中にあるみたいだった。
その一言は、虚勢じゃなかった。
自分の中にある後悔や、救えなかったものや、罪として残り続ける何かを、伊達さんはきっと今でも捨てきれていない。
それはノクスナイトの言う通りなんだろう。
過去に囚われている。
たぶん、その通りだ。
けれど。
俺はそこで、伊達さんの口元が仮面の奥でわずかに吊り上がったのを見た。
不敵な笑みだった。
苦しさも痛みも飲み込んだ上で、それでも前に出ると決めた人間だけが浮かべられる笑い方だった。
「だからこそ、お前に対して、ここで負けるつもりはないよ」
その言葉のあと、伊達さんは懐から一つのカプセムを取り出した。
見覚えがある。
俺が思わず息を呑む。
「あれは、ブースターカプセム!」
ノクスナイトも一瞬だけ目を細めた。
その反応だけで十分だった。
あれがただの一手じゃないことは、向こうにも分かっている。
「……こいつは、他のカプセムの力を高める」
伊達さんは静かに告げる。
「故に、このブレイカム・モジュラーでも使用は出来る」
説明しているみたいでいて、実際には宣戦布告に近かった。
ノクスナイトは言葉を返さない。
だが、その沈黙自体が緊張を孕む。
次に何が来るのかを、互いに理解した上での静けさだった。
伊達さんは迷わずブースターカプセムを装填する。
機構が噛み合う音が鳴り、ブレイカム・モジュラーの内部を光が走った。
『グッドラック! ライダー! ブースター!』
起動音声がソムニウム世界へ響く。
その瞬間、伊達さんの装甲が変質した。
派手に形が変わるわけじゃない。
むしろ逆だった。
必要な部位だけが鋭く研ぎ澄まされるように、肩、脚、腕のラインが一気に軽く、速く、前へ出るための形へと整えられていく。
加速のための強化。
余分を削ぎ落とし、突破だけに特化した変化だった。
ブースターの力が装甲へ走る。
空気が張り詰める。
伊達さんの立ち姿そのものが、さっきまでとは別物に見えた。
単に速くなるとか、強くなるとか、そういう一言では収まらない。
“迷いなく貫くための形”へ整った、とでも言えば近い。
ノクスナイトが低く笑う。
だがその余裕は、さっきまでよりわずかに薄かった。
「お前の過去ごと、俺は貫いてやるよ」
伊達さんが言い切った瞬間、景色の方が置き去りにされた。
加速。
さっきまでの射撃戦とは別の次元で、伊達さんの姿が一気に前へ消える。
ノクスナイトが反応する。
ブレイカムバスターを構え直す。
だが、その動きすら半拍遅い。
撃ち抜くための速さだ。
逃げるためでも、かわすためでもない。
過去に囚われた自分ごと、目の前の悪夢ごと、真正面から貫くための速度。
その一撃が、今まさに始まろうとしていた。