ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

210 / 250
写して Part6

 伊達さんは、目の前に立つノクスナイトをまっすぐ見据えたまま、手にしたブレイカム・モジュラーの引き金を弾いた。

 乾いた発射音と共に撃ち出された弾丸が、真っ直ぐ相手の胸を穿とうと走る。

 けれど、ノクスナイトはわずかに身体を傾けるだけで間合いを読み切り、その手に持つブレイカムバスターを盾のように立てた。

 

 火花が散る。

 弾丸は正面から受け止められ、硬質な衝突音だけを残して砕けた。

 防がれた。

 だが、それで伊達さんの指が止まることはない。

 次の弾、さらにその次の弾と、間を空けずに連続で撃ち込んでいく。

 止めるためじゃない。

 逃がさないためだ。

 相手の動きと呼吸と、考える余地そのものを削っていくための射撃だった。

 

「ははぁ、まぁ未だにお前は過去に囚われているようだな」

 

 ノクスナイトが嗤う。

 その声は伊達さん自身に似ているのに、似ているからこそ不快だった。

 人を見下ろす調子じゃない。

 むしろ、全部分かった上で一番嫌なところだけを抉りにくる、内側からの声に近い。

 

「……そうだな」

 

 伊達さんは短く返した。

 否定しない。

 開き直りもしない。

 ただ、その事実を事実として飲み込んだ上で、なお引き金を引き続ける。

 

 ブレイカム・モジュラーが吠える。

 撃ち込まれる弾道は鋭く、角度もリズムも単調じゃない。

 真正面へ撃ち抜く弾。

 一拍遅れて足元を抉る弾。

 回避の軌道まで計算したように、次の一発がその逃げ道へ置かれる。

 射撃の腕そのものが高い。

 だが、それ以上に“迷いを切った人間の攻め方”だった。

 

 ノクスナイトはその全てを、ブレイカムバスターで払い、かわし、いなしていく。

 重い武器のはずなのに、その取り回しに無駄がない。

 防御のための動作に見せて、次の瞬間には斬撃の角度へ移る。

 まるで伊達さん自身の癖を、本人以上に知っているみたいな戦い方だった。

 

「俺自身、その罪がまだ許されているつもりなんて毛頭ないよ」

 

 伊達さんが言う。

 撃つ。

 踏み込む。

 また撃つ。

 言葉と攻撃が、まるで同じ一つの流れの中にあるみたいだった。

 

 その一言は、虚勢じゃなかった。

 自分の中にある後悔や、救えなかったものや、罪として残り続ける何かを、伊達さんはきっと今でも捨てきれていない。

 それはノクスナイトの言う通りなんだろう。

 過去に囚われている。

 たぶん、その通りだ。

 

 けれど。

 

 俺はそこで、伊達さんの口元が仮面の奥でわずかに吊り上がったのを見た。

 不敵な笑みだった。

 苦しさも痛みも飲み込んだ上で、それでも前に出ると決めた人間だけが浮かべられる笑い方だった。

 

「だからこそ、お前に対して、ここで負けるつもりはないよ」

 

 その言葉のあと、伊達さんは懐から一つのカプセムを取り出した。

 見覚えがある。

 俺が思わず息を呑む。

 

「あれは、ブースターカプセム!」

 

 ノクスナイトも一瞬だけ目を細めた。

 その反応だけで十分だった。

 あれがただの一手じゃないことは、向こうにも分かっている。

 

「……こいつは、他のカプセムの力を高める」

 伊達さんは静かに告げる。

「故に、このブレイカム・モジュラーでも使用は出来る」

 

 説明しているみたいでいて、実際には宣戦布告に近かった。

 ノクスナイトは言葉を返さない。

 だが、その沈黙自体が緊張を孕む。

 次に何が来るのかを、互いに理解した上での静けさだった。

 

 伊達さんは迷わずブースターカプセムを装填する。

 機構が噛み合う音が鳴り、ブレイカム・モジュラーの内部を光が走った。

 

『グッドラック! ライダー! ブースター!』

 

 起動音声がソムニウム世界へ響く。

 その瞬間、伊達さんの装甲が変質した。

 派手に形が変わるわけじゃない。

 むしろ逆だった。

 必要な部位だけが鋭く研ぎ澄まされるように、肩、脚、腕のラインが一気に軽く、速く、前へ出るための形へと整えられていく。

 加速のための強化。

 余分を削ぎ落とし、突破だけに特化した変化だった。

 

 ブースターの力が装甲へ走る。

 空気が張り詰める。

 伊達さんの立ち姿そのものが、さっきまでとは別物に見えた。

 単に速くなるとか、強くなるとか、そういう一言では収まらない。

 “迷いなく貫くための形”へ整った、とでも言えば近い。

 

 ノクスナイトが低く笑う。

 だがその余裕は、さっきまでよりわずかに薄かった。

 

「お前の過去ごと、俺は貫いてやるよ」

 

 伊達さんが言い切った瞬間、景色の方が置き去りにされた。

 加速。

 さっきまでの射撃戦とは別の次元で、伊達さんの姿が一気に前へ消える。

 ノクスナイトが反応する。

 ブレイカムバスターを構え直す。

 だが、その動きすら半拍遅い。

 

 撃ち抜くための速さだ。

 逃げるためでも、かわすためでもない。

 過去に囚われた自分ごと、目の前の悪夢ごと、真正面から貫くための速度。

 その一撃が、今まさに始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。