ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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写して Part7

 ブースターカプセムを使った伊達さんの戦い方は、さっきまでとは明らかに違っていた。

 ただ速くなったんじゃない。

 迷いの削ぎ落とし方そのものが変わった、と言った方が近い。

 射撃と回避の駆け引きでじわじわ押し詰める段階は終わっている。

 今の伊達さんは、真正面から相手の中心を撃ち抜くために、必要な動きだけを残して前へ出ていた。

 

「やはり、パワーは先程よりも上になったか」

 

 ノクスナイトが低く呟く。

 余裕を崩していないように見せているが、その声の底にはほんのわずかに硬さが混じっていた。

 無理もない。

 ブースターを得た伊達さんの拳も蹴りも、さっきまでとは一段階違う重さになっている。

 ブレイカム・モジュラーによる射撃が完全に通らないと見た瞬間、伊達さんは躊躇なく戦いの軸を切り替えた。

 遠距離で削るのをやめ、格闘を主軸にした攻めへ移ったんだ。

 

 踏み込みが鋭い。

 間合いの詰め方が無駄なく早い。

 ノクスナイトがブレイカムバスターを振るう前に、伊達さんはすでに懐へ潜っている。

 左の拳で牽制し、右の肘で体勢を崩し、そのまま脚を払う。

 押されている。

 ノクスナイトは確かに押されていた。

 防いではいる。

 受け流してはいる。

 けれど、攻めの主導権はもう完全に伊達さんの手にあった。

 

「けれど、無駄な事だ」

 

 ノクスナイトはそう吐き捨てると、その胸元にあるカプセムへ手を伸ばした。

 嫌な予感が走る。

 けれど、その正体を言葉にしたのは俺じゃなかった。

 

『伊達っ、あのカプセムは他のカプセムの能力を無効化させる!』

 

 アイボゥさんの声が、鋭く飛ぶ。

 能力無効化。

 ブースターの上乗せで押している今の伊達さんにとって、それは最悪の切り返しだ。

 積み上げた有利を一瞬で剥がされる可能性がある。

 

「厄介だな、けれど!」

 

 その言葉に怯みはなかった。

 伊達さんはアイボゥさんの警告を聞いた次の瞬間には、もう動いている。

 ノクスナイトの手が胸元へ届くより先に、低い姿勢から鋭い蹴りが走った。

 

 蹴りそのものが狙いじゃない。

 狙っていたのは、相手の武器だった。

 足先がブレイカムバスターの柄をかすめるように叩き、ノクスナイトの掌からそれを強引に弾き飛ばす。

 重い武器が宙へ跳ねる。

 

「っ」

 

 ノクスナイトが息を呑む。

 その一瞬の隙を、伊達さんは逃さなかった。

 

「武器ならば、こうして使えるからな!」

 

 落ちてきたブレイカムバスターを、伊達さんは空中で掴み取る。

 右手にブレイカム・モジュラー。

 左手に奪い取ったブレイカム・バスター。

 その姿は、一人で遠近両方を支配するための完成形みたいに見えた。

 

 次の瞬間から、攻撃の密度が一気に変わる。

 ブレイカム・モジュラーから撃ち出される射撃が、ノクスナイトの回避を強要する。

 逃げた先へ、今度はブレイカム・バスターの斬撃が滑り込む。

 遠距離で逃がさず、近距離で切り裂く。

 切り裂いたと思わせて、また次の弾丸が死角へ置かれる。

 戦い方が一気に立体的になった。

 さっきまでの一対一の押し合いじゃない。

 伊達さん一人で、二人分の攻撃線を作り出している。

 

 ノクスナイトは確かに追い詰められていた。

 ブレイカムバスターを失った一瞬で崩れたリズムを、まだ立て直しきれていない。

 こちらの攻撃が見えていても、その見えた先の答えが足りない。

 それでも、こいつも伊達さんの悪夢だ。

 簡単には終わらない。

 

『イレイスフェイタル』

 

 低い音声が鳴る。

 ノクスナイトがナイトインヴォーカーのボタンを三回押し込み、カプセムを回転させる。

 その動作は最小限なのに、場の空気だけが急速に冷えていった。

 構える。

 “消去”の名を冠するその技は、触れたものの輪郭ごと削り取る類の必殺だと直感で分かる。

 受けるのはまずい。

 だが、引く理由にもならない。

 

「こっちもな」

 

 伊達さんが言う。

 そして、ブレイカム・モジュラーのトリガーへ指をかけた。

 

『ブレイカムバースト!』

 

 音声が弾けた瞬間、伊達さんの身体がさらに加速する。

 ブースターによる推進の勢いに、必殺の踏み込みが重なる。

 撃ち抜くための速さ。

 逃げるためではなく、終わらせるために詰める速度だ。

 

 ノクスナイトも踏み込む。

 両者の間合いが一気に潰れる。

 伊達さんの斬撃が走る。

 ノクスナイトの蹴りが唸る。

 互いの必殺が、真正面からぶつかった。

 

 衝撃。

 音。

 火花。

 ソムニウム世界そのものが、一瞬だけ軋んだように揺れる。

 どちらが先に崩れる。

 どちらが最後まで前へ出る。

 勝敗を決めるのは、そのたった一歩の差だった。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 伊達さんが吼える。

 その声に、迷いはなかった。

 過去に囚われていることも、自分が背負う罪も、全部知った上で、それでもなお前へ出ると決めた人間の叫びだった。

 

 次の瞬間、均衡が破れる。

 ノクスナイトの蹴りがわずかに流れた。

 そこへ伊達さんの斬撃が深く入り込み、そのまま身体ごと押し切る。

 必殺のぶつかり合いを制したのは、伊達さんの方だった。

 

 ノクスナイトの身体が大きくのけぞる。

 そして、その結果を示すように、ナイトインヴォーカーが胸元でひび割れた。

 一本。

 二本。

 三本。

 次の瞬間には、耐え切れなくなった機構そのものが砕け散る。

 

 破片が宙へ舞う。

 ノクスナイトの仮面越しの呼吸が乱れる。

 勝敗は、もう明らかだった。

 伊達さんは荒い息を吐きながらも、なお武器を下ろさない。

 最後まで気を抜かない、その構えのまま、目の前の悪夢を見据えていた。

 

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