ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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その先 Part1

 カタストロムへ変身した瞬間、視界の奥で世界が一段重く沈んだ。

 力が増した、なんて生易しい感覚じゃない。

 全身へまとわりつくみたいに重たい圧が乗り、その重さごと前へ押し出せるという、いつものゼッツとはまるで違う暴力性が身体の芯へ通っていく。

 フィジカムインパクトのような軽快さは消える。

 その代わり、今の俺には、目の前の悪夢をまとめて叩き潰せるだけの確かな質量があった。

 

「来いよ……!」

 

 吐き出した声に呼応するみたいに、最初に動いたのはトラッシュナイトメアだった。

 頭部のモップ繊維をぶわりと逆立て、そのまま腕を大きく振るう。

 腐った食材、壊れた食器、汚泥まみれのゴミ袋。

 ホール全体へ撒き散らされたそれらが、腐敗と毒ガスを伴って雪崩みたいに押し寄せてくる。

 けれど、カタストロムの前では遅い。

 

「邪魔だ!」

 

 俺は正面から踏み込んだ。

 迫るゴミの奔流へ、重い拳を叩き込む。

 ただ殴っただけだ。

 なのに、その一撃だけで前方の腐敗物がまとめて吹き飛び、毒ガスの流れごと左右へ裂けた。

 片付けるんじゃない。

 汚染も、腐敗も、まとめて“壊して通る”。

 それが今のカタストロムの答えだった。

 

「がっ……!」

 

 悲鳴を上げたのはトラッシュナイトメアの方だ。

 撒き散らしたゴミを踏み砕きながら俺が距離を詰めると、あの怪物は一歩遅れて腕を上げた。

 だが、その防御ごと叩き割る。

 カタストロムの拳が胸元へめり込み、そのままトラッシュナイトメアの身体をホールの柱まで吹き飛ばした。

 壁へ叩きつけられた衝撃で、周囲のゴミ袋が一斉に破裂する。

 だが、もう関係ない。

 このフォームにとって、悪夢の汚染は障害ではあっても、足を止める理由にはならなかった。

 

「次!」

 

 視線を切り替えた瞬間、横から黒い斬撃が走る。

 ゼッツダークネス。

 伏蝶まんじが変じた黒いゼッツは、トラッシュナイトメアよりずっと静かに、ずっと鋭く俺の死角へ入り込んでいた。

 

 ロードインヴォーカーが閃く。

 切っ先が狙うのは、関節。

 出力の繋ぎ目。

 カタストロムの重さそのものを殺すための、実に嫌な狙い方だった。

 

「分かってるんだよ!」

 

 俺は咄嗟に腕を振り上げる。

 黒い刃と赤黒い装甲がぶつかる。

 火花が散った。

 重たい衝撃が腕へ抜ける。

 だが、それでも今のカタストロムは止まらない。

 むしろ、そのまま力任せに押し返し、まんじの身体ごと距離を奪う。

 

「っ、はは」

 

 黒いゼッツの奥で、まんじが短く笑った気配がした。

 余裕じゃない。

 噛みつく獣みたいな笑い方だ。

 

「やっぱり、その姿は厄介だな」

 

「褒め言葉として受け取っとく!」

 

 返しながら、俺はそのまま左腕を振り抜いた。

 ロードインヴォーカーごと叩き潰すつもりの一撃。

 まんじは紙一重で後退するが、それでも完全には避け切れない。

 カタストロムの腕が肩をかすめた瞬間、黒いゼッツの装甲がきしみ、床を削りながら大きく弾き飛ばされた。

 

 だが、こいつらは一体ずつ順番に来てくれるほど親切じゃない。

 

 背後から、また腐臭。

 振り向くより先に分かる。

 トラッシュナイトメアが立ち直っている。

 しかも今度は学習していた。

 ゴミをただ撒き散らすんじゃない。

 ホールの天井付近まで腐敗物を打ち上げ、そこから広範囲へ降らせることで、カタストロムの進行方向そのものを埋めようとしている。

 

「姑息な真似を……!」

 

 俺は両腕を交差し、そのまま正面から突っ込んだ。

 降り注ぐゴミ。

 腐る床。

 広がる毒ガス。

 全部まとめて装甲で受ける。

 カタストロムの肥大装甲が軋む。

 だが、壊れない。

 むしろ、そのまま踏み抜き、叩き割り、押し返す。

 

 トラッシュナイトメアへ肉薄した瞬間、今度はまんじが後ろから飛び込んできた。

 タイミングがいい。

 いや、良すぎる。

 こっちがトラッシュナイトメアを潰しにいく瞬間を待っていたんだ。

 ロードインヴォーカーが背中を狙う。

 トラッシュナイトメアは前方から毒ガスを噴き上げる。

 挟撃。

 しかも、片方は正面から止めにくる怪物、もう片方は要所だけを刺してくる黒いゼッツ。

 役割分担としては最悪だった。

 

「万津君!」

 

 後方で東条の声が響く。

 心配と焦りが滲んでいる。

 だが、今は振り向けない。

 振り向いた瞬間に終わる。

 

 俺は前へ拳を打ち出し、トラッシュナイトメアのガス噴出点を潰す。

 同時に背後へ肘を振り、黒いゼッツの懐を牽制する。

 片方を壊し、片方を止める。

 それを繰り返す。

 カタストロムだからできる乱暴な戦い方だった。

 

 トラッシュナイトメアが吹き飛ぶ。

 まんじが下がる。

 またゴミが散る。

 また刃が走る。

 それを全部、俺は正面から叩き壊していく。

 

「まだだぁっ!」

 

 咆哮と共に踏み込み、床を砕きながら前へ出る。

 トラッシュナイトメアの振り下ろしたモップ頭を掴み、そのまま持ち上げる。

 軽い。

 やはりこいつは能力型だ。

 なら、そのまま投げ飛ばせる。

 

「どけ!」

 

 怪物の身体を黒いゼッツへ向けて投げつける。

 まんじはそれを避ける。

 だが、その一瞬の回避でリズムが崩れる。

 そこへさらに俺が追いつく。

 カタストロムの重い蹴りが黒いゼッツの腹部へ叩き込まれ、今度こそまんじの身体が大きく吹き飛んだ。

 

 ホール中が軋んでいた。

 汚染も、腐敗も、斬撃も、全部まとめてぶつかり合っている。

 だが、それでも戦況は押している。

 カタストロムの出力なら、この二体をまとめて押し潰せる。

 そう思った。

 その瞬間だった。

 

「……っ」

 

 違和感が走る。

 ほんの一瞬。

 目の前の二体の動きが、妙に静かになった。

 トラッシュナイトメアが、あえて距離を取る。

 まんじもまた、無言のまま着地し直し、ロードインヴォーカーを低く構えた。

 今までみたいな連携じゃない。

 もっと露骨で、もっと危険な“合わせ”をしようとしている空気だった。

 

「まさか……!」

 

 気づいた時には遅い。

 トラッシュナイトメアが、ホール中に撒き散らした腐敗物全部を一斉に反応させる。

 床、壁、天井、テーブル、シャンデリア。

 あらゆる場所から毒ガスが噴き上がり、俺の周囲を巨大な腐敗の檻みたいに包み込もうとした。

 

 同時に、黒いゼッツが踏み込む。

 ロードインヴォーカーの刃先は、まっすぐ俺の中心線。

 毒ガスで動きを鈍らせ、その一瞬の隙へ確実な一撃を通す。

 こいつら、ここで決めるつもりだ。

 

 左右から迫る攻撃。

 正面から押し潰しにくる腐敗。

 一直線に走る黒い刃。

 カタストロムのままでも、受け切れるかもしれない。

 だが、受けるだけじゃ次がない。

 ここで押し返しても、このままでは東条まで巻き込みかねない。

 壊して押し切るだけじゃ、まだ足りない。

 

「……違う」

 

 喉の奥から、低い声が零れた。

 この戦場で必要なのは、もっと別の答えだ。

 壊すだけじゃなく、見抜き、ずらし、正しい形へ戻すための力。

 その感覚が、カタストロムの装甲の奥で、もう一度はっきり脈打つ。

 

「万津君――!」

 

 東条の声が届く。

 その響きと同時に、デュアルメアカプセムの内側で、あの軋むような反応がもう一度起きた。

 今度は迷わない。

 俺は迫る二つの必殺を真正面から見据えたまま、変質した力へ手をかける。

 

『オルデルム』

 

 静かで、鋭い音声が鳴った。

 

 次の瞬間、カタストロムの瞳が黒く沈む。

 肥大化した装甲の隙間から溢れていたオレンジ色の光へ、緑の光が走った。

 外骨格が形成される。

 過剰な暴威を押さえ込み、力の流れを整理し、カタストロムの輪郭そのものを別の秩序へ塗り変えていく。

 そして――

 

 パージ。

 

 半透明になった装甲が、一気に弾け飛んだ。

 

「っ!?」

 

 まんじの声が初めて明確に揺れる。

 目前まで迫っていた黒いゼッツの身体が、吹き飛んだ装甲片の衝撃で大きく後方へ弾かれる。

 同時に、トラッシュナイトメアの毒ガスも、パージした装甲が生んだ衝撃波でまとめて掻き散らされ、その本体ごと壁際まで吹き飛ばされた。

 

 緑の光が収束する。

 黒く沈んでいた視界へ、再び澄んだ焦点が戻る。

 マスクを覆っていた装甲が剥がれ落ち、秩序の輪郭を持つ新たな外骨格が完成する。

 

 オルデルム。

 

 俺はその名を、今度ははっきりと自分の中で確認した。

 壊すためじゃない。

 見抜いて、正して、終わらせるための姿だ。

 

 着地した俺の前で、吹き飛ばされた二体がそれぞれ体勢を立て直す。

 黒いゼッツは低く刃を構え直し、トラッシュナイトメアは腐臭を撒きながら再び身を起こす。

 けれど、もうさっきまでとは違う。

 ホールの歪みも、敵の能力も、その綻びが今の俺にははっきり見えていた。

 

 俺はゆっくりと構えを取り直す。

 緑の光が、静かに装甲の縁を走った。

 ここから先は、もう押し潰すだけの戦いじゃない。

 この悪夢そのものへ、終わりを与える戦いだ。

 

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