ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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その先 Part3

 トラッシュナイトメアへ向けていた意識の、そのさらに奥で、もう一つの殺気が鋭く立ち上がる。

 俺がそちらへ視線を滑らせた時には、ゼッツダークネス――伏蝶まんじが変じた黒いゼッツは、もう目の前まで踏み込んでいた。

 ロードインヴォーカーの黒い刃が、夜の欠片みたいな軌跡を引きながら、まっすぐ俺の喉元を狙って走る。

 速い。

 しかも、ただ速いだけじゃない。

 こっちの受け方まで読んだ上で、その先の崩しまで組み込んでいる動きだった。

 

「っ!」

 

 俺は半身を切ってかわし、そのまま肘で黒い腕を外へ払う。

 だが、まんじは弾かれる前に手首を返し、刃の軌道を途中で折った。

 その切っ先が今度は脇腹へ潜り込んでくる。

 嫌になるくらい、手数が滑らかだ。

 攻撃の一つひとつに無駄がなく、しかもその全部が“次の一手のための布石”になっている。

 トラッシュナイトメアが撒き散らす悪夢の汚染とは別種の、もっと直接的な悪意がそこにはあった。

 

「避けるなよ!」

 

 まんじの声は、仮面越しでもなお攻撃的だった。

 挑発というより、本気でそう思っている声音だ。

 こいつは俺を試している。

 しかも、手加減なしの殺し合いの形で。

 

「誰が真正面から食らうかよ!」

 

 返しながら、俺はオルデルムの掌底を叩き込む。

 まんじはそれを腕の装甲で受けた。

 金属のぶつかる音が、ホールへ鋭く跳ねる。

 そのまま鍔迫り合いみたいに一瞬だけ力が噛み合い、次の瞬間には互いに逆方向へ身体を捌いていた。

 拳。

 肘。

 膝。

 蹴り。

 どちらも間合いを詰めたまま、近すぎる距離で打撃を差し込んでいく。

 言葉を挟む暇もない。

 呼吸すら削り取るみたいな格闘戦だった。

 

 だが、今の俺はもうカタストロムじゃない。

 押し切るための力ではなく、見抜くための力が、視界の奥で静かに働いている。

 まんじの動きは鋭い。

 けれど、その鋭さにも必ず芯がある。

 踏み込みの癖。

 ロードインヴォーカーを返す角度。

 斬撃へ移る前に、ほんの一拍だけ左肩へ溜まる力。

 そういう“戦い方の構造”そのものが、オルデルムの視界では緑の線として浮かび上がって見えた。

 

 ロードインヴォーカーが再び振るわれる。

 今度は黒い残光を伴った斬撃だった。

 ただの斬撃じゃない。

 軌道の通った空間ごと、少しだけ歪んでいる。

 もしあのまま食らえば、装甲だけじゃなく、こっちの動線や重心まで乱される。

 悪夢の側へ引き込むための一撃だ。

 

「それ、お前の能力か」

 

 俺は一歩だけ踏み込んで、その斬撃のど真ん中へ手を差し入れた。

 本来なら危険な行為だ。

 だが、オルデルムの視界には、そこへ通された“悪意の接続”だけが見えている。

 空間が歪んでいるんじゃない。

 歪ませている構造が、そこへ付与されているだけだ。

 

「無効化、できるならしてみろ!」

 

 まんじが低く吠える。

 その刹那、俺は掌を返した。

 

 緑の光が走る。

 アナトマイズストラクチャーの線が、黒い斬撃の内部へ食い込み、その構造だけをずらす。

 次の瞬間、切り裂かれるはずだった空間は、音もなく静止した。

 いや、正しく言うなら“斬撃として成立できなくなった”。

 黒い残光が一拍遅れてばらけ、ただのノイズみたいに空中へ霧散する。

 

「なに……!?」

 

 初めて、まんじの声へ明確な動揺が混じる。

 当然だ。

 ただ受け止めたんじゃない。

 能力の核そのものを見抜いて、成立前に無効化したんだから。

 

「オルデルムは、そういう力だ」

 

 言いながら、俺は一気に距離を詰める。

 まんじが反射で刃を引き戻す。

 だがもう遅い。

 肘打ちを胸元へ叩き込み、そのまま身体を入れ替えるように肩をぶつける。

 体勢が浮いた。

 そこへさらに、低い位置から膝を突き上げる。

 まんじの黒い身体が大きくのけ反り、ロードインヴォーカーの軌道がぶれる。

 

「っ、ぐ……!」

 

「終わりじゃない!」

 

 オルデルムの拳は、カタストロムみたいな重たい暴力じゃない。

 けれど、その分だけ正確だ。

 顎。

 脇腹。

 手首。

 構造の崩れる箇所だけを、短く、鋭く、連続で打ち抜く。

 まんじは必死に腕を上げ、脚を引き、黒い装甲でそれをいなしていく。

 だが、その防御自体ももう見えている。

 守りたい場所。

 流したい方向。

 そこへ合わせて打撃を差し込めば、次の動きごと壊せる。

 

「舐めるなぁっ!」

 

 まんじが逆に踏み込んでくる。

 近すぎる距離から、頭突きみたいに肩を叩き込み、その反動でロードインヴォーカーを横薙ぎに振り抜く。

 その刃に今度は黒い粒子がまとわりついていた。

 さっきより直接的だ。

 悪夢の汚染を、武器そのものへ纏わせて切り裂くつもりだ。

 

 俺は正面からその手首を掴んだ。

 黒い粒子が装甲へ触れる。

 だが、広がらない。

 オルデルムの緑のラインが、その汚染だけを切り分けるように走り、悪夢の侵食を発生前にほどいていく。

 

「お前のそれ、通らないぞ」

 

「……っ!」

 

 まんじの腕が震える。

 力で押し返そうとしている。

 けれど、オルデルムに必要なのは腕力勝負じゃない。

 汚染の構造を見切ってしまえば、あとはそこへ正しい位置を命じるだけだ。

 

 俺は掴んだ手首を外へ捻り、そのまま懐へ踏み込んだ。

 腹部へ掌底。

 のけ反った瞬間に、さらに顎下へ拳を突き上げる。

 まんじの身体が床を離れ、そのまま数歩分後方へ弾かれた。

 着地はする。

 だが、今の一連で完全に流れはこっちへ寄った。

 

 黒いゼッツは低く息を吐く。

 黒い複眼が、前よりもずっと鋭く俺を睨んでいた。

 もう遊びじゃない。

 最初から遊んでいたわけじゃないだろうが、今は明確に“倒しにくる敵”の目になっている。

 

「なるほどな……」

 まんじが刃を構え直しながら、低く言う。

「その姿、ただの変化じゃない。こっちの力を見てから殺しに来るタイプか」

 

「都合よく解釈するな」

 俺も構えを低く落とす。

「お前の悪夢ごと、ここで止めるだけだ」

 

「言うじゃねえか」

 

 その瞬間、互いに同時に踏み込んでいた。

 床板が軋む。

 間合いが消える。

 まんじの刃が閃き、俺の拳が走る。

 交差。

 激突。

 音が遅れてホールへ広がる。

 今度は一撃ごとの質が違った。

 探り合いは終わった。

 必殺へ入る前の、最後の打ち合いだ。

 

 俺は右拳を囮にし、左の膝を差し込む。

 まんじはそれを脚で受け、逆に回転を利用して蹴りを返してくる。

 その蹴りを肘で受け流しながら、俺は肩で突き飛ばす。

 まんじは吹き飛ばされる寸前、ロードインヴォーカーを床へ突き立て、その反動で体勢を立て直した。

 そのまま低く滑り込み、俺の足元へ黒い光を走らせる。

 動線を断つための一撃。

 だが、オルデルムの視界では、それもまた見えていた。

 俺は半歩だけ軸をずらし、光の通り道だけを外す。

 すると黒い線は空を切り、そのまま背後の柱を浅く削るだけで終わった。

 

「ちっ!」

 

「終わりにする気だろ、お前」

 

 俺は静かに言う。

 まんじは答えない。

 その代わり、ロードインヴォーカーを胸元へ引き寄せた。

 刃の周囲へ、黒い粒子が渦を巻く。

 空気がざらつく。

 悪夢の気配が、今までよりずっと濃い。

 

 やはりそうだ。

 必殺技。

 ここで決めるつもりだ。

 

 俺もまた、呼吸を整える。

 オルデルムの全身を走る緑のラインが、静かに収束を始める。

 視界の中で、まんじの構えが一枚の設計図みたいに鮮明になる。

 なら、こっちも答えるだけだ。

 

「来いよ」

 

「上等だ」

 

 互いに一歩、後ろへ引く。

 間合いが開く。

 だが、それは退いたんじゃない。

 次の一撃で全てを奪うための、わずかな助走だ。

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