ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

237 / 250
その先 Part5

 ホールの中央で、緑と黒の光が真正面からぶつかり合っていた。

 オルデルムへ変じた俺と、ゼッツダークネスへ変じた伏蝶まんじ。

 互いに一歩も引かず、互いに相手だけを撃ち抜くための構えを深く落とし込んでいる。

 その圧だけで、さっきまで腐臭に沈んでいた空気が、今は鋭い金属音を孕んだ戦場の気配へ塗り変わっていた。

 

 視界の端では、東条がトラッシュナイトメアを追い込みながら、こちらの決着を見据えている。

 だが、今この瞬間に意識を割ける相手は一人しかいない。

 黒い複眼の奥で、まんじもまた同じことを考えているのが分かった。

 もう小細工はない。

 ここからは、互いの必殺を真正面からぶつけて、どちらが立つかを決めるだけだ。

 

「来るか」

 

 俺が低く言うと、黒いゼッツは刃を引いた。

 ロードインヴォーカーの中心へ、夜みたいに濃い光が収束していく。

 刃の輪郭が揺らぎ、そこから立ち上る黒い粒子が、まるで処刑台の幕みたいに空気をざらつかせた。

 あれをまともに食らえば終わる。

 理屈じゃなく、そう分かるだけの殺意が凝縮されていた。

 

「終わらせるぞ、万津」

 

 まんじの声は、仮面越しでもはっきり冷えていた。

 怒りでもない。

 興奮でもない。

 ここで俺を倒すと決めた人間だけが出せる、妙に静かな熱だった。

 

「こっちもだ」

 

 俺は息を深く吸う。

 オルデルムの全身を走る緑のラインが、脚へ、腰へ、背骨へ集束していく。

 アナトマイズストラクチャーが細く震え、視界の中でまんじの構えとロードインヴォーカーの軌道が、一本の鮮明な線になって浮かび上がった。

 見える。

 あいつがどこを通ってくるのか。

 どこへ力を集中させ、どの瞬間に蹴りへ移るのか。

 それでも、見えたからといって楽になるわけじゃない。

 速さも威力も、本気で俺を殺しに来る一撃だ。

 

『ダークネスエクスキューション』

 

 低く、重く、処刑宣告みたいな音声がホール全体へ響いた。

 それと同時に、黒いゼッツが床を蹴る。

 速い。

 一直線。

 黒い残光を引きながら、まんじは回り込むことも捻ることもなく、真正面からこちらの中心線へ飛び込んできた。

 蹴りだ。

 ロードインヴォーカーの黒い光を脚へ流し込み、そのまま貫通させるためだけの一撃。

 

「来い!」

 

 俺も踏み込む。

 緑の光が脚部へ集まり、アナトマイズストラクチャーが展開する。

 世界が一瞬だけ細くなる。

 ホールの輪郭も、東条の気配も、トラッシュナイトメアの悪臭も、その全部が遠くへ退いて、目の前の黒いゼッツだけが鮮明になる。

 

『オルデルム・エンダー……!』

『ゼェッツ……ゼェッツ………ゼェーーッツ……!!』

 

 音声と同時に、俺は跳んだ。

 緑と黒。

 互いの必殺を乗せた蹴りが、空中で真正面からぶつかる。

 

 激突。

 

 衝撃が遅れて来るんじゃない。

 ぶつかった瞬間に、ホール全体が軋んだ。

 蹴りと蹴り。

 秩序と悪夢。

 ゼッツとゼッツダークネス。

 互いの必殺技が完全に噛み合い、どちらも相手を貫き切れないまま、空中で火花と光を散らし続ける。

 

「っ、ぐ……!」

 

 まんじが奥歯を噛みしめる。

 俺も同じだ。

 押しているのか、押されているのか、一瞬では分からない。

 ただ一つ言えるのは、どちらも一歩たりとも引いていないということだけだった。

 

「まだだろ!」

 

「当たり前だ!」

 

 次の瞬間、衝撃が弾ける。

 黒と緑の光が同時に爆ぜ、俺たちは互いに後方へ吹き飛ばされた。

 着地。

 床板が悲鳴みたいな音を立てて沈む。

 だが、倒れない。

 俺も、まんじも、まだ立っている。

 

 息が荒い。

 けれど、目は逸らさない。

 一度目は相殺。

 なら、次で決める。

 その意志だけが、互いの複眼の奥で鋭く燃えていた。

 

 まんじが先に動く。

 だが今度は一直線じゃない。

 低く踏み込み、右へ流れ、そこから急激に軸を回す。

 回し蹴り。

 しかもただの回転じゃない。

 ロードインヴォーカーの黒い光が脚の外周へ沿って膨れ上がり、その軌道そのものが刃の弧になっている。

 

「これで終わりだ!」

 

 蹴りが空を裂く。

 直撃する距離じゃない。

 それでも危険だと分かった。

 回し蹴りの軌道から、黒い衝撃波が撃ち出される。

 悪夢の残滓を押し固めたみたいな、鋭くて重たい飛翔斬撃。

 正面から受ければ、このホールごと断ち切られる。

 

 だが、こっちも同じ答えへ辿り着いていた。

 

 俺は左脚を軸にして、深く腰を落とす。

 緑のラインが全身を巡り、アナトマイズストラクチャーが回転のための軸を補強する。

 見えている。

 黒い衝撃波の核。

 まんじの蹴りから切り離された後もなお、飛び続けるために必要な“悪夢の接続”が、一本だけ、鮮やかなノイズとして浮いている。

 

「終わらせるのは、こっちだ!」

 

 俺はそのまま身体を回した。

 回し蹴り。

 オルデルムの脚が円を描く。

 緑の光が回転に沿って収束し、次の瞬間、こちらもまた衝撃波となって放たれる。

 秩序の光を帯びたそれは、ただの破壊力じゃない。

 飛翔するための構造を持ち、狙った相手だけを断つための輪郭を備えている。

 

 黒と緑の衝撃波が、ホールの中央で再び激突した。

 

 今度は蹴りそのものではない。

 互いの必殺を延長した、意志のぶつかり合いだった。

 拮抗。

 黒い衝撃波が押し込む。

 緑の衝撃波が受け止める。

 いや、違う。

 受け止めているんじゃない。

 見抜いている。

 黒い必殺の内部で、どこが成立を支えているのか。

 その一点だけを、オルデルムの視界はもう捉えていた。

 

「そこだ……!」

 

 俺は踏み込み直し、回し蹴りの軌道をさらに押し込む。

 緑の衝撃波が一瞬だけ細く鋭くなり、黒い衝撃波の中心へ食い込んだ。

 次の瞬間、まんじの必殺は、外側から砕けるんじゃなく、内部の接続を断たれたみたいに崩壊した。

 

「なっ……!」

 

 黒い光がばらける。

 押し切った。

 緑の衝撃波はそのまま減衰せず、一直線にゼッツダークネスへ突き進む。

 

 まんじは即座にロードインヴォーカーを前へ構える。

 防御。

 だが、完全には間に合わない。

 緑の衝撃波が黒い装甲へ突き刺さり、そのまま爆ぜるように全身を貫いた。

 

「が、ぁっ……!」

 

 黒いゼッツの身体が大きく吹き飛ぶ。

 床を何度も跳ね、最後はホールの柱へ叩きつけられて止まった。

 ロードインヴォーカーが重い音を立て、床へ半ば突き刺さる。

 それでも、完全には倒れない。

 膝をつきながらも、まんじはまだ立ち上がろうとしていた。

 

 俺も着地し、息を整える。

 全身が熱い。

 オルデルムの出力で無理やり押し切った反動が、骨の奥へじんじん残っている。

 それでも倒れない。

 視界の中心には、なお黒いゼッツだけが鮮明に浮かんでいた。

 

 ホールは静まり返っていた。

 さっきまで響いていた腐敗の音も、激突の轟音も、一瞬だけ遠くへ退いている。

 東条も、追い込まれたトラッシュナイトメアも、今はこの決着の先を見ていた。

 

 俺はゆっくりと姿勢を正す。

 まんじもまた、柱へ手をついたまま、顔を上げる。

 緑と黒。

 勝敗はついた。

 だが、それで全部が終わったわけじゃない。

 俺たちは互いに、まだ相手の奥にあるものを測るように、真正面から対面していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。