ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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先へ Part7

 教室の空気が、一瞬だけ止まった。

 

 キーボの「完了しました」という声は、決して大きくはなかった。

 なのに、その一言だけで、今まで押し潰されそうだった戦場の重さが、別の意味を持って立ち上がる。

 百田がロード・スリーを押し返しながら歯を食いしばる。

 茶柱がロードシックスの爪のような一撃を受け流し、床を蹴って距離を開く。

 ゴン太はロードファイブへ身体ごとぶつかり、どうにか進路を塞ぐ。

 その誰もが、今の一言を聞いていた。

 皆が時間を稼いだ意味が、ようやくここへ届いたんだと、言葉にしなくても分かっていた。

 

「万津君!」

 

 日菜の声が飛ぶ。

 俺は振り返る。

 作業机の中心に、さっきまで未完成だった新たなドライバーが置かれている。

 壊れたゼッツドライバーの面影は、もうほとんど残っていなかった。

 土台は確かにあれと同じ系統のはずなのに、輪郭そのものが違う。

 従来のゼッツドライバーより広く、深く、幾重にも重なる接続層がむき出しのまま輝いている。

 まだ名前を呼ぶ前から、それが“次の段階の器”だと分かる姿だった。

 

「受け取ってください!」

 キーボが言う。

「現実世界での安定稼働を最優先に再構成しました! ただし――」

 

「ただし、今ここで使わなきゃ意味ないっす!」

 日菜が言葉を継いだ。

「説明はあと! まずは起動!」

 

 言われるより先に、俺はもう駆け出していた。

 ロードシックスの視線がこちらへ鋭く向く。

 仄が、心底面白そうに笑う。

 

「へぇ……本当に間に合わせたんだ」

「いいねぇ、それ。すごく見たい。君たちの夢が、どんな形で現実へ降りるのか」

 

「見せてやるよ!」

 

 机へ手を伸ばし、新たなドライバーを掴む。

 重い。

 けれど、その重さは壊れたゼッツドライバーの冷たい絶望とは違っていた。

 掌へ返ってくるのは、熱だ。

 皆が積み上げた時間と、焦りと、意志と、諦めなかった手の感触が、そのまま金属の中で脈打っているみたいだった。

 

「万津君、前へ!」

 赤松が叫ぶ。

「ここは私たちで押さえるから!」

 

「おうよ!」

 百田がロード・スリーの拳を受けながら吠える。

「今さら遠慮すんな! とっとと行け、主人公!」

 

「誰が主人公だよ!」

 

「今の流れでそこ突っ込むんですか!」

 茶柱がロードシックスの斬撃をいなしながら叫ぶ。

「いいから変身してください!」

 

 その声に背中を押される。

 俺は新しいドライバーを腰へ当てた。

 装着の感触が、今までと違う。

 単に嵌まるんじゃない。

 俺の身体の方へ、器の側から吸い付くみたいに固定される。

 接続音が短く鳴り、内部で何重ものロックが噛み合う。

 その瞬間、教室の赤い非常灯すら押し返すように、ドライバーの中心で緑の光が脈打った。

 

「キーボ!」

 

 俺が叫ぶ。

 するとキーボは、静かに俺の正面へ立つ。

 その表情に恐れはない。

 むしろ、ずっと待っていた役割へようやく手が届いたみたいな、澄んだ覚悟だけがあった。

 

「万津君」

 キーボは真っ直ぐに俺を見る。

「あなた一人の夢では、もう届かない場所がある」

 それから、少しだけ笑った。

「だから今回は、僕も一緒に行きます」

 

 次の瞬間だった。

 キーボの胸部装甲が、内部から白く発光した。

 

 がしゃり、と硬質な駆動音。

 肩。

 腕。

 腰。

 脚。

 キーボの身体の各部が、継ぎ目に沿って一斉に分離していく。

 破壊じゃない。

 自壊でもない。

 最初からそうなることが決まっていたみたいに、無駄なく、精密に、各パーツが別の機構へ組み替わる。

 腕部は細長い補助ユニットへ変形し、脚部は推進機構を持った装甲ブロックへ、背部は羽のないドローンみたいな複数の浮遊パーツへ変わった。

 胸部の中心ユニットだけが、まるで心臓みたいに強い光を残して空中へ浮かび上がる。

 

「なっ……!」

 百田が一瞬だけ目を見張る。

「キーボ、お前それ……!」

 

「現実戦闘用の装着システムです!」

 キーボの声は、分離した各ユニットから立体的に響いた。

「夢の力を現実へ固定するための、外部装甲化。これが僕の結論です!」

 

「すごい……!」

 赤松が息を呑む。

「本当に、アーマーになるんだ……!」

 

「神ってるー!」

 夜長がぱっと顔を輝かせた。

「やっぱり新しい器には、新しい神さまの降り方があるんだねー!」

 

「説明はさっぱりじゃが、今はたしかにすごいのう……」

 夢野が珍しく目を見開いていた。

 

 空中へ展開したキーボの各パーツが、俺の周囲を高速で旋回し始める。

 赤い非常灯の中に、メタリックグリーンの光の軌跡が幾重にも走る。

 それはドローンの飛行というより、儀式だった。

 俺を中心に、夢と機械と意志が、ひとつの秩序を組み上げていく。

 

 俺は新ドライバーへ手を添えた。

 

『フルライズ!』

 

 低く、それでいてどこまでも澄んだ音声が、教室中へ響き渡る。

 その瞬間、浮遊していたキーボの胸部ユニットが真っ先に俺の胸元へ突き刺さるように接続された。

 衝撃はない。

 代わりに、心臓の鼓動と同期するみたいな熱が全身へ走る。

 

『メツァメロ!メツァメロ!』

 

 続けて、両肩の装甲が左右から飛来する。

 金色のフレームへ、メタリックグリーンの光が神経みたいに走り、肩から上腕へ一気に固定される。

 今までのゼッツより明らかに厚い。

 なのに鈍重さはない。

 守るための重さと、動くための整然さが両立している。

 

『メツァメロ!メツァメロォ!!』

 

 腕部、腰部、脚部。

 キーボの身体から変形した各装甲が、今度は一斉に飛び込んでくる。

 前腕を覆う黄金の装甲。

 膝から脛へかけて固定される強靭な脚部ユニット。

 腰へ回り込む多層構造のバックルアーマー。

 そのすべてが、単なる外殻じゃない。

 夢の力を現実へ定着させるための骨組みとして、俺の身体の動きそのものへ食い込んでくる。

 

『アブソリュート! ライダー!』

 

 背後で、最後まで浮遊していた複数のドローンユニットが一斉に展開した。

 それらは背中へ集まり、脊椎ラインを中心に噛み合いながら大型の背部機構を形成していく。

 羽ではない。

 だが、夢を現実へ押し出すための推進器官みたいな存在感があった。

 緑の発光ラインが背から肩、肩から胸、胸から脚へと流れ、全身の回路がひとつへ繋がる。

 

『ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ!ゼーッツ!』

 

 最後に頭部装甲が閉じる。

 視界が一瞬だけ暗転し、次の瞬間には全てが以前よりずっと鮮明になっていた。

 複眼が開く。

 メタリックグリーンの光が、夜の戦場を切り裂くように灯る。

 マスクの輪郭は今までのゼッツを確かに継いでいる。

 けれど、その上を走る金の装飾線と、深く刻まれた立体構造が、もはや別の段階の存在だと示していた。

 全身の大部分が新しく造り変えられたかのような完成度。

 金を基調に、広い面積で走るメタリックグリーン。

 そして、胸部や各部の要所へ差し込まれた赤が、静かな威圧感を加えている。

 それはまさしく、極限まで高められた夢の器だった。

 

『エクスドリーム!』

 

 変身音が最後に爆ぜる。

 同時に、教室の空気が変わった。

 今まで押し込まれていた悪意と圧力が、真正面から押し返される。

 ロードたちが、初めて明確に動きを止める。

 百田も、茶柱も、赤松も、最原も、皆が目の前に立った新しい俺を見ていた。

 

「……おいおい」

 百田が思わず笑う。

「何だよそれ、めちゃくちゃカッコいいじゃねぇか」

 

「本当に、間に合ったんだ……」

 赤松がほっと息をつき、それから目を輝かせる。

「すごい。ちゃんと、みんなの夢が形になってる」

 

「ええ」

 東条が静かに頷く。

「これはもう、壊れたドライバーの代わりではないわね」

 

「当然です!」

 茶柱が言う。

「ここまでやって代用品だったら困ります!」

 

「ゴン太、よく分かんないけど、すごく強そうだよ!」

 ゴン太が嬉しそうに声を上げる。

 

「んあー……これは反則級じゃろ」

 夢野が半ば呆れたように言った。

 

「神さまも拍手してるよー」

 夜長は満面の笑みだった。

 

「どうっすか」

 日菜が、額へ浮いた汗を拭いながら笑う。

「私たちの全力、悪くないでしょう」

 

「悪くないどころじゃねぇだろ」

 入間が鼻を鳴らす。

「最高傑作だ、最高傑作!」

 

 最原はその少し後ろで、新しいゼッツの姿を見つめたまま、静かに言った。

 

「これが……僕たちが守った時間の答えなんだ」

 

 その言葉が、胸の奥へ深く落ちた。

 

 重い。

 装甲の重量じゃない。

 キーボの身体を借りているからでもない。

 皆の夢が、本当にこの姿の中へ入っている。

 百田の勢いも、赤松の前向きさも、最原の静かな意志も、東条の整える心も、茶柱の真っ直ぐさも、ゴン太の優しさも、夢野と夜長の不思議な感性も、日菜と入間とキーボの技術と覚悟も、全部がこの器の中へ組み込まれている。

 それが、装甲の一枚一枚から伝わってきた。

 

 ロードシックス――仄が、ゆっくりと拍手した。

 不気味なくらい楽しそうに。

 

「……いいねぇ」

 彼女はうっとりした声で言う。

「本当にいい。未完成な夢を守り抜いた先で、そんな姿になるなんて。綺麗すぎるよ」

 

「気持ち悪い褒め方すんな」

 

「褒めてるんだから素直に受け取ればいいのに」

 仄は笑う。

 けれど、その瞳の奥にはもう、遊び半分の色だけでは済まない警戒があった。

 

 犬神――ロード・スリーが低く構え直す。

 丑寅――ロードファイブもまた、明らかに警戒レベルを引き上げている。

 敵にとっても分かったんだ。

 今ここに現れたのは、さっきまでの“変身できない万津”じゃない。

 皆が守り切った時間の先で完成した、新たなゼッツそのものだと。

 

 俺はゆっくりと一歩前へ出る。

 背中の装甲が静かに展開し、各部へ走るメタリックグリーンのラインが夜の教室を鮮やかに切り分けた。

 掌を握る。

 力が暴れない。

 むしろ、今までよりずっと静かで、ずっと深いところで整っている。

 カタストロムのような破壊衝動でもない。

 オルデルムのような秩序だけでもない。

 もっとその先。

 夢を極限まで高め、それを現実へ成立させるための、完成された器の感覚だった。

 

「みんな」

 

 俺は背後へ短く呼びかける。

 振り向かなくても、気配で分かる。

 皆がそこにいる。

 

「ここからは、俺が行く」

 

 その言葉に、百田がにやりと笑った。

 

「待ってたぜ」

 

「ええ、任せるわ」

 東条の声も静かに続く。

 

「ちゃんと全部ぶちかましてきてくださいっす」

 日菜が言う。

 

「ですが無茶は禁物です!」

 茶柱がすぐさま付け足した。

 

「そこは変わらないんだな……」

 

 小さく笑って、それから俺は真正面のロードたちを見据えた。

 

 新たなゼッツ。

 ゼッツエクスドリーム。

 皆の夢が現実へ降りた、その姿のままで。

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