ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
新しい装甲の重みを、俺はまだ完全には掴み切れていなかった。
身体の外側へ、金色の殻が何枚も重なっているような感覚は確かにある。
けれど、重いはずなのに鈍くない。
むしろ、今までのどのフォームよりも静かで、整っていて、余計な力みがいらない。
キーボの身体が分かれて装甲になり、皆の夢と技術と意志が、この器の中へ本当に組み上がっている。
その事実だけが、何よりもはっきりしていた。
ロード・スリー、ロードファイブ、ロードシックス。
三体の視線が、真正面から俺へ突き刺さる。
それぞれの感情は違う。
犬神は面白がっている。
丑寅は露骨に嫌そうな顔をしている。
仄は気味が悪いくらい嬉しそうだ。
それでも、三人とも分かっている。
ここから先は、さっきまでの「変身できない万津」を追い詰める戦いじゃない。
現実で立った新しいゼッツを、正面から叩き潰す戦いになる。
「来いよ、万津」
犬神が獰猛に笑う。
「現実でも作ったってんなら、どこまでやれるか見せてみろ」
「その力は危険だ」
丑寅の声は冷たい。
「ここで折る」
「いっぱい見せてね、新しい君」
仄はうっとりしたまま言う。
「どう壊れるのかも含めて、すごく楽しみ」
「誰が壊れるかよ」
言い返した瞬間、ロード・スリーが床を砕く勢いで踏み込んできた。
正面突破。
考えるまでもない、犬神らしい攻め方だった。
その巨体と勢いに任せて、まずは全部を押し潰す。
そういう圧力が、一撃目からはっきり分かる。
「上等だぁっ!」
拳が来る。
速い。
重い。
だが、見えないほどじゃない。
俺は半歩だけ前へ出て、真正面からその拳へ左腕を合わせた。
激突。
鈍い衝撃が装甲全体へ響く。
それでも、止まらない。
今の俺はこの一撃を受けても崩れない。
むしろ、その衝撃の奥で、装甲が静かに力を流している感覚すらあった。
だが、その瞬間にはもう次が来ていた。
「真正面だけ見ていろ」
丑寅。
ロードファイブが横から滑り込む。
狙いは足元。
俺が犬神を受けたその一瞬で、体勢の軸だけを刈り取るつもりだ。
正確で、いやらしくて、最短の崩し方だった。
さらにその上。
視界の死角へ、黒い影が落ちる。
「ほら、こっちも見て」
仄。
ロードシックスが上から斬りかかってきていた。
犬神が前。
丑寅が横。
仄が上。
三方向。
タイミングはほとんど同時。
連携としては、かなり完成されている。
「万津君!」
赤松の声が後ろから飛ぶ。
「っ――」
その瞬間だった。
視界が、揺れた。
何が起きたのか、最初は分からなかった。
目の前の三体のロードが、急に遠くなったような、逆に近づいたような、嫌な感覚。
音が一瞬だけ濁る。
心臓が、不自然に強く脈打つ。
そして、来た。
既視感。
いや、それだけじゃない。
もっと鋭くて、もっと生々しい。
砕ける床。
肩を裂く黒い斬撃。
体勢を失う俺。
その向こうで、悲鳴を上げる誰か。
落ちる工具。
散る火花。
赤い光に濡れた教室。
ほんの一瞬。
けれど、嫌になるくらい鮮明な断片だった。
「……知ってる」
思わず、声が漏れた。
見た、じゃない。
でも、知っている。
このまま行けば、そうなる。
まだ起きていないはずなのに、俺の中ではもう“経験済み”みたいに胸へ刺さっていた。
これが、デジャ・ドリーム。
次の瞬間、腰のドライバーが緑の光を強く脈打たせた。
カプセムの絵柄が、ノイズ混じりに揺れる。
今までの意匠がぶれ、上書きされるみたいに別の絵柄へ変わっていく。
翼。
風を切る軌道。
空を裂くような線。
見た瞬間、分かった。
今必要なのは、防ぐ力じゃない。
正面から叩き落とす力でもない。
ずらす力だ。
この最悪の未来から、ほんのわずかに外れるための力。
『ウィング!』
発動音が鳴る。
同時に、背中の装甲が熱を持った。
「っ――!」
次の瞬間、俺の背中から七色の翼が広がった。
光だった。
けれど、ただの発光じゃない。
七色に分かれた羽根が、半透明の結晶みたいに幾重にも重なって、背部ユニットの両側から一気に展開する。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
それぞれの色が混ざり合いながらも濁らず、教室の赤い非常灯を押し返して、夢みたいな色彩で夜の戦場を塗り替えた。
その翼は美しいだけじゃない。
開いた瞬間、空気そのものを掴んで流れを変えるような、圧倒的な運動の感覚を背中から全身へ流し込んでくる。
「なっ……!」
犬神が目を見開く。
俺は考えるより先に動いていた。
いや、違う。
動いたというより、ずれた。
犬神の拳が胸の中心を砕くはずだった位置から、俺の身体が半身ぶんだけ外れる。
ただ速いんじゃない。
七色の翼が、一瞬だけ俺の位置そのものを未来の直撃点から外した。
そのズレで、丑寅の足払いの狙いも狂う。
本来なら、崩れた体勢の足首を刈るはずだった軌道が、空を切る。
さらに、上から落ちてきた仄の斬撃も、俺の肩ではなく、翼が残した残光の方を裂いただけで終わる。
三人の連携が、噛み合わない。
「そうか……!」
最原の声が後ろで響く。
「防いだんじゃない、未来を外したんだ!」
「今のは……!」
日菜が叫ぶ。
「ウィングの応用っすか!?」
「デジャ・ドリームで見えた最悪を、ウィングで回避した……!」
キーボの声も装甲の奥で震えていた。
「危機と最適能力が連動している!」
「はっ、面白ぇ!」
犬神が笑う。
「未来でも見たのか、それとももっと別の何かか!」
「軌道をずらした……」
丑寅の声には、はっきりとした嫌悪が混じっていた。
「厄介だな」
「うわぁ……いいな、それ」
仄が本当に嬉しそうに笑う。
「壊れる未来を見て、それを上書きするんだ」
「っ、うるさい!」
俺はそのまま反撃へ移る。
犬神の懐へ踏み込み、腹へ膝を叩き込む。
装甲越しに手応えが返る。
次の瞬間には、体をひねって丑寅の脇腹へ肘を打ち込んだ。
さらに振り向きざま、仄の顎先を狙って蹴りを振り抜く。
三体まとめて吹き飛ばせるほどじゃない。
だが、十分だった。
連携を崩した一瞬へ、きっちりと反撃を差し込めた。
「決めた!」
百田が叫ぶ。
「すごい……!」
赤松の声が弾む。
俺は着地して、すぐに呼吸を整えた。
背中の七色の翼は、まだ淡く揺れている。
光の羽根というより、夢そのものが背中から生えているみたいだった。
それが少しずつ収束していくのを感じながら、俺は自分の鼓動を確かめる。
今の何だ。
見えたんじゃない。
でも、知っていた。
このまま行けばどうなるか、その最悪だけが先に胸へ突き刺さった。
そして、その瞬間にカプセムが変わった。
必要な力へ。
そして、その未来を外すためのウィング。
「……なるほどな」
小さく呟く。
理屈はまだ全部分からない。
でも、使える。
少なくとも今は、それだけで十分だった。
「万津君!」
日菜がすぐに声を飛ばしてくる。
「今の反応、記録してるっす! かなり重要っすよ!」
「あとで聞く!」
俺は短く返した。
「今はまだ終わってない!」
「そうこなくっちゃね」
仄がうっとりしたまま言う。
「やっぱり、今の君ますます好き」
「知るかよ」
「感情表現としては、さっきよりずっと正解だ」
丑寅が冷たく構え直す。
「だが、厄介さが増した分、ここで止める価値も増した」
「上等だ」
犬神が拳を鳴らした。
「だったら、もっと見せろよ。現実で立った新しいゼッツが、どこまで飛べるかをな!」
俺は三人を真正面から見据えた。
背中の翼はもう完全には消えていない。
七色の残光が、次の瞬間にもまた広がれるように、静かに脈打っている。
最悪の未来が見えるなら、そのたびに外してやればいい。
不運の先を見せるのなら、俺はその先を変える。
そう思えた。
新しいゼッツエクスドリームの中で、皆の気配がまだ確かに熱を持っている。
だったら、ここから先も俺は一人じゃない。
「来いよ」
俺は静かに構えた。
「その最悪ごと、全部ぶっ壊してやる」
今作のゼッツエクスドリームは原作とは異なり、現実では全力は出せません。
代わり、今作の超高校級の不運だからこそ発言した能力の説明をこちらで書かせて貰います
今作のオリジナル能力:デジャ・ドリーム
ゼッツエクスドリームが備える特殊夢感応能力。
変身者である万津莫の「超高校級の不運」と、ゼッツエクスドリームの夢干渉機能が高次元で共鳴することで発現する。
未来そのものを明確に視認する能力ではなく、
これから起こり得る危機的な出来事や破滅的な展開を、
夢の断片や既視感として先取りする性質を持つ。
そのため変身者は、実際に危機が訪れる直前に
「この光景を知っている」
という感覚を抱き、最悪の未来へ至る流れを直感的に把握することが可能となる。
特に、変身者の不運によって引き寄せられる
悪い未来や破滅に近い可能性ほど強く感知される傾向があり、
幸福な未来や穏やかな結果を先読みすることには向かない。
このためデジャ・ドリームは、
未来を都合よく見通す万能の予知能力ではなく、
破滅を回避するための危機感知能力として機能する。
さらに本能力の発動時には、
ゼッツエクスドリームドライバーに装填されたカプセムが変化し、
その場の危機へ最も有効な能力の絵柄へ自動的に切り替わる。
これによりゼッツエクスドリームは、
既視感によって把握した最悪の未来に対し、
最適なカプセム能力を即座に選択・発動することができる。
この現象は、
単なる能力切替ではなく、
ゼッツエクスドリームが持つ
「夢を叶える力」
と、変身者の想い、不運、そして危機回避本能が一体化した結果である。
そのため発動した能力は、防御、回避、拘束、修復など、
その時々の戦況に応じて柔軟に変化する。
発動時には視界の揺らぎや短時間の意識混濁を伴うことがあり、
連続使用によって精神的な疲労が蓄積する場合もある。
しかし、それでもなおゼッツエクスドリームにとってデジャ・ドリームは、
悪夢の先にある破滅を見抜き、夢の力でその結末を書き換えるための象徴的能力である。