ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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極限 Part3

 ゼッツエクスドリームの装甲が、静かに熱を帯びていた。

 

 三体のロードを前にしても、もうさっきまでみたいな圧迫感はない。

 犬神の荒々しい突破も、丑寅の嫌になるほど正確な崩しも、仄の気味が悪いほど柔らかな殺意も、今の俺には全部見えている。

 デジャ・ドリームで掠め取った最悪の未来を外し、必要なカプセムを引き当てる。

 皆の夢で作られたこの器は、たしかに今までのゼッツとは別の次元に立っていた。

 

「終わりだ」

 

 俺は低く言って、踏み込んだ。

 

 まず狙うのはロード・ファイブ。

 三人の中で、一番厄介なのは丑寅だ。

 犬神みたいに真正面から来る相手は押し返せる。

 仄みたいに遊びを混ぜる相手も、まだ崩しようはある。

 でも丑寅は違う。

 あいつは、こっちの隙を最短で刺し、流れそのものを奪いに来る。

 だから先に潰す。

 

「はっ、いい目だな!」

 犬神が笑う。

 

「……そう来るか」

 丑寅が構えを深くする。

 

 俺は犬神の拳を半身で外し、そのままロード・ファイブの懐へ滑り込んだ。

 肘。

 膝。

 装甲の内側でキーボの制御が静かに応答し、理想的な体重移動だけを身体へ返してくる。

 これなら届く。

 このまま丑寅を弾き飛ばし、続けて犬神と仄までまとめて崩せる。

 

 そう確信した瞬間だった。

 

 ――重い。

 

 空気が、いきなり変わった。

 比喩じゃない。

 教室全体へ、目に見えない鉄塊みたいな圧が落ちてきて、俺の踏み込みの先へ割り込む。

 次の瞬間、振り抜いたはずの腕へ、真正面から別の衝撃が叩きつけられた。

 

 激突。

 

「っ――!」

 

 凄まじい音と一緒に、俺の身体が横へ弾かれる。

 床を滑る。

 けれど転ばない。

 背部ユニットが咄嗟に姿勢を制御し、俺は片膝をついただけで止まった。

 

「万津君!」

 赤松の声が飛ぶ。

 

「何だ……!?」

 

 顔を上げた俺の視界の先。

 さっきまでいたはずの三体のロードの前へ、ひとつの影が割り込んでいた。

 

 黒い。

 だが、ただ黒いだけじゃない。

 闇そのものが装甲を得たような、重く、鈍く、不気味な存在感。

 それは三体のロードを庇うように、いや、守るように、完全に俺の攻撃線上へ立っていた。

 

 ドォーン。

 

 そう理解した瞬間、背筋を嫌な汗が伝った。

 

「おい……今のを、正面から止めたのかよ」

 

 百田の声が低くなる。

 その口調からも分かる。

 ただの増援じゃない。

 今までとは段違いの何かが、ここへ来た。

 

 俺はゆっくり立ち上がる。

 新しい装甲の中で、キーボの声がかすかに響いた。

 

「万津君。高密度の敵性反応を確認」

「危険度、三体のロードを大きく上回ります」

 

「見れば分かる……!」

 

 ドォーンは何も言わない。

 ただそこに立っているだけなのに、教室の温度が変わる。

 犬神の荒さも、丑寅の冷たさも、仄の湿った熱も、その背後へ押し込まれる。

 まるで、戦場の主導権そのものが一瞬で入れ替わったみたいだった。

 

「来たか」

 

 犬神が低く笑う。

 さっきまでの面白がる熱とは少し違う。

 むしろ、ようやく本命が出たと言いたげな声音だった。

 

「予定通りだ」

 丑寅は短く言う。

 

「ふふ、やっぱりここで出るんだ」

 仄だけは心底楽しそうだった。

 その笑い方が、余計に気味が悪い。

 

 ドォーンの肩越しに、教室の入り口が見える。

 その暗がりの向こうで、もう一つ、人の気配が動いた。

 

 分かっていた。

 これで終わるはずがない。

 ドォーンが出るなら、その後ろには必ず、あいつがいる。

 

 ゆっくりと姿を現したのは、下辺零。

 教祖。

 終天教団の中心にいる男。

 

「やあ、万津君」

 

 相変わらず穏やかな声だった。

 この場に似つかわしくないほど静かで、落ち着いていて、それが逆に腹立たしい。

 

「思っていた以上だよ」

「壊れたゼッツドライバーの先で、そこまで辿り着くとはね」

 

 俺はドォーンから視線を外さないまま、息を整えた。

 今の一撃。

 ロードたちへ叩き込むはずだった攻撃を、ドォーンはブレイカムドォーンで正面から止めた。

 威力を相殺しただけじゃない。

 こっちの流れそのものを断ち切るみたいに、完璧なタイミングで割り込んできた。

 

 厄介どころじゃない。

 こいつは明らかに、今までとは別の段階の敵だ。

 

「……何しに来た」

 

 俺が言うと、零は少しだけ目を細めた。

 怒りも嘲りもない。

 ただ、ようやく話せるとでも思ったような顔だった。

 

「確認だよ」

「君が、どちらを選ぶのか」

 

 その言葉に、俺は小さく息を吐いた。

 やっぱりそこへ来る。

 今ここで、ドォーンを前へ立たせたまま、俺へ答えを迫るつもりなんだ。

 

 ロードたちはその背後で、もう一度体勢を立て直している。

 犬神も、丑寅も、仄も、さっきまでみたいに前へ出る気配はない。

 ドォーンがいる。

 だからこそ、あいつらは余裕を取り戻している。

 

 俺は新しい装甲の上から、拳を握った。

 皆の夢で作ったこの器。

 現実でようやく立ったゼッツエクスドリーム。

 その初陣の流れを、ドォーンは一撃で止めた。

 

 だからこそ分かる。

 ここから先は、本当に別の戦いになる。

 ロード三体を押し切るだけじゃ終わらない。

 ドォーンと、そして零が、ここで改めて俺を試しに来ている。

 

 教室の中は、また別の静けさに包まれていた。

 誰も軽口を叩かない。

 百田も、茶柱も、赤松も、最原も、皆が目の前の状況を飲み込もうとしている。

 日菜と入間とキーボだけが、まだ作業の名残みたいな熱を残しているけど、それすら今は、この重さの中へ沈みかけていた。

 

 俺はドォーンを見据えたまま、ゆっくりと構え直す。

 

 流れを断ち切られたなら、もう一度取り返すしかない。

 この戦場は、まだ終わっていない。

 

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