ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ゼッツエクスドリームの装甲が、静かに熱を帯びていた。
三体のロードを前にしても、もうさっきまでみたいな圧迫感はない。
犬神の荒々しい突破も、丑寅の嫌になるほど正確な崩しも、仄の気味が悪いほど柔らかな殺意も、今の俺には全部見えている。
デジャ・ドリームで掠め取った最悪の未来を外し、必要なカプセムを引き当てる。
皆の夢で作られたこの器は、たしかに今までのゼッツとは別の次元に立っていた。
「終わりだ」
俺は低く言って、踏み込んだ。
まず狙うのはロード・ファイブ。
三人の中で、一番厄介なのは丑寅だ。
犬神みたいに真正面から来る相手は押し返せる。
仄みたいに遊びを混ぜる相手も、まだ崩しようはある。
でも丑寅は違う。
あいつは、こっちの隙を最短で刺し、流れそのものを奪いに来る。
だから先に潰す。
「はっ、いい目だな!」
犬神が笑う。
「……そう来るか」
丑寅が構えを深くする。
俺は犬神の拳を半身で外し、そのままロード・ファイブの懐へ滑り込んだ。
肘。
膝。
装甲の内側でキーボの制御が静かに応答し、理想的な体重移動だけを身体へ返してくる。
これなら届く。
このまま丑寅を弾き飛ばし、続けて犬神と仄までまとめて崩せる。
そう確信した瞬間だった。
――重い。
空気が、いきなり変わった。
比喩じゃない。
教室全体へ、目に見えない鉄塊みたいな圧が落ちてきて、俺の踏み込みの先へ割り込む。
次の瞬間、振り抜いたはずの腕へ、真正面から別の衝撃が叩きつけられた。
激突。
「っ――!」
凄まじい音と一緒に、俺の身体が横へ弾かれる。
床を滑る。
けれど転ばない。
背部ユニットが咄嗟に姿勢を制御し、俺は片膝をついただけで止まった。
「万津君!」
赤松の声が飛ぶ。
「何だ……!?」
顔を上げた俺の視界の先。
さっきまでいたはずの三体のロードの前へ、ひとつの影が割り込んでいた。
黒い。
だが、ただ黒いだけじゃない。
闇そのものが装甲を得たような、重く、鈍く、不気味な存在感。
それは三体のロードを庇うように、いや、守るように、完全に俺の攻撃線上へ立っていた。
ドォーン。
そう理解した瞬間、背筋を嫌な汗が伝った。
「おい……今のを、正面から止めたのかよ」
百田の声が低くなる。
その口調からも分かる。
ただの増援じゃない。
今までとは段違いの何かが、ここへ来た。
俺はゆっくり立ち上がる。
新しい装甲の中で、キーボの声がかすかに響いた。
「万津君。高密度の敵性反応を確認」
「危険度、三体のロードを大きく上回ります」
「見れば分かる……!」
ドォーンは何も言わない。
ただそこに立っているだけなのに、教室の温度が変わる。
犬神の荒さも、丑寅の冷たさも、仄の湿った熱も、その背後へ押し込まれる。
まるで、戦場の主導権そのものが一瞬で入れ替わったみたいだった。
「来たか」
犬神が低く笑う。
さっきまでの面白がる熱とは少し違う。
むしろ、ようやく本命が出たと言いたげな声音だった。
「予定通りだ」
丑寅は短く言う。
「ふふ、やっぱりここで出るんだ」
仄だけは心底楽しそうだった。
その笑い方が、余計に気味が悪い。
ドォーンの肩越しに、教室の入り口が見える。
その暗がりの向こうで、もう一つ、人の気配が動いた。
分かっていた。
これで終わるはずがない。
ドォーンが出るなら、その後ろには必ず、あいつがいる。
ゆっくりと姿を現したのは、下辺零。
教祖。
終天教団の中心にいる男。
「やあ、万津君」
相変わらず穏やかな声だった。
この場に似つかわしくないほど静かで、落ち着いていて、それが逆に腹立たしい。
「思っていた以上だよ」
「壊れたゼッツドライバーの先で、そこまで辿り着くとはね」
俺はドォーンから視線を外さないまま、息を整えた。
今の一撃。
ロードたちへ叩き込むはずだった攻撃を、ドォーンはブレイカムドォーンで正面から止めた。
威力を相殺しただけじゃない。
こっちの流れそのものを断ち切るみたいに、完璧なタイミングで割り込んできた。
厄介どころじゃない。
こいつは明らかに、今までとは別の段階の敵だ。
「……何しに来た」
俺が言うと、零は少しだけ目を細めた。
怒りも嘲りもない。
ただ、ようやく話せるとでも思ったような顔だった。
「確認だよ」
「君が、どちらを選ぶのか」
その言葉に、俺は小さく息を吐いた。
やっぱりそこへ来る。
今ここで、ドォーンを前へ立たせたまま、俺へ答えを迫るつもりなんだ。
ロードたちはその背後で、もう一度体勢を立て直している。
犬神も、丑寅も、仄も、さっきまでみたいに前へ出る気配はない。
ドォーンがいる。
だからこそ、あいつらは余裕を取り戻している。
俺は新しい装甲の上から、拳を握った。
皆の夢で作ったこの器。
現実でようやく立ったゼッツエクスドリーム。
その初陣の流れを、ドォーンは一撃で止めた。
だからこそ分かる。
ここから先は、本当に別の戦いになる。
ロード三体を押し切るだけじゃ終わらない。
ドォーンと、そして零が、ここで改めて俺を試しに来ている。
教室の中は、また別の静けさに包まれていた。
誰も軽口を叩かない。
百田も、茶柱も、赤松も、最原も、皆が目の前の状況を飲み込もうとしている。
日菜と入間とキーボだけが、まだ作業の名残みたいな熱を残しているけど、それすら今は、この重さの中へ沈みかけていた。
俺はドォーンを見据えたまま、ゆっくりと構え直す。
流れを断ち切られたなら、もう一度取り返すしかない。
この戦場は、まだ終わっていない。