ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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極限 Part5

 ドォーンの出現で、一度断ち切られたはずの流れが、またゆっくりと張り詰め直していくのが分かった。

 さっきまで三体のロードをまとめて押し返していた教室の空気が、今はたった一体の存在によって塗り替えられている。

 犬神も、丑寅も、仄も、もう前へ出る気配を見せない。

 あいつらですら一歩引く。

 それだけで十分だった。

 目の前のドォーンが、今までの相手と別格だということを理解するには。

 

 俺はゼッツエクスドリームの装甲の内側で、静かに息を整えた。

 皆の夢で作られた器は、まだ熱を持っている。

 キーボの声も、背中の機構も、カプセムの脈動も、全部が「まだ行ける」と言っていた。

 だったら、答えるだけだ。

 

 ドォーンが一歩、前へ出る。

 その動きに合わせて、両腕の装甲が低く開き、内側から二振りの刃が現れた。

 黒く重い刀身。

 それでいて鈍重さを感じさせない、妙に洗練された殺意。

 二刀流。

 しかも片方が本命で、片方が牽制というレベルじゃない。

 どちらも決定打になり得る重さを持っている。

 

「……そう来るか」

 

 俺は小さく吐いて、右手を伸ばした。

 呼応するように、ブレイカムゼッツァーが掌へ収まる。

 刃の重みは見慣れたはずなのに、エクスドリームの装甲越しだとまるで別物みたいだった。

 軽いわけじゃない。

 ただ、振るうべき角度と踏み込むべき位置が、最初から手の内に入っている。

 

 続けて左手へ、プラズマブラスターを構える。

 電流のような淡い光が銃身の内側で走り、緑のラインと混ざり合って鋭く脈を打つ。

 斬るための武器と、撃ち抜くための武器。

 正面から押し込むなら、これしかない。

 

「二刀流で来るってんなら」

 俺はドォーンを睨みながら言う。

「こっちも合わせるだけだ」

 

 百田が横で短く笑った。

 

「そうこなくっちゃな」

 

「ですが、無茶だけはしないでください!」

 茶柱の声が飛ぶ。

 

「今の状況でそれ言うのかよ……!」

 

「言います!」

 茶柱は真顔だった。

「言うべき時に言わない方が問題です!」

 

 赤松が苦笑しつつ、それでも視線は外さない。

 

「でも、すごく似合ってるよ」

「新しいゼッツに、その二つ」

 

「感想はあとで聞く」

 俺は少しだけ口元を緩めて返す。

「今はあいつを止める」

 

 ドォーンは何も言わない。

 ただ両刃を静かに持ち上げる。

 その構えだけで分かる。

 こいつは会話する相手じゃない。

 答えを聞く気もない。

 俺がどちらを選んだかなんて、とっくに理解した上で、力でねじ伏せに来る。

 

 次の瞬間、ドォーンが動いた。

 

 速い。

 重い。

 その両方が同時に来る。

 右の刃が上段から振り下ろされ、ほとんど同時に左の刃が横薙ぎに走る。

 一撃目を受ければ、二撃目が入る。

 二撃目を避ければ、一撃目が叩き割る。

 まるで最初から答えのない問いを押しつけてくるみたいな斬撃だった。

 

「っ!」

 

 俺はブレイカムゼッツァーで上段を受ける。

 火花が散る。

 重い。

 腕が痺れるほどの衝撃。

 だが、そのまま崩れる前に左手のプラズマブラスターを横へ滑らせ、もう一方の刃を銃身で弾いた。

 鈍い金属音。

 ドォーンの刃がわずかに逸れる。

 その一瞬だけで十分だった。

 

 俺はそのまま踏み込む。

 プラズマブラスターを至近距離で撃つ。

 光弾が一直線に走り、ドォーンの肩口を掠める。

 直撃ではない。

 だが、狙い通りだ。

 視線が一瞬だけそちらへ流れる。

 その隙へ、今度はブレイカムゼッツァーを下から振り上げる。

 

 ドォーンが受ける。

 しかも片方の刃で受けたまま、もう片方で即座に突いてくる。

 早い。

 連撃じゃない。

 二本とも独立して殺しに来る。

 受けても終わらないし、弾いても止まらない。

 犬神たちの攻撃が三人で一つの圧力なら、こいつは一人で二つの死角を作るタイプだ。

 

「なるほどな……!」

 

 半歩下がりながら、俺は小さく笑った。

 厄介だ。

 だが、嫌いじゃない。

 こういう“分かりやすく強い”相手の方が、零よりよっぽどやりやすい。

 

 ドォーンがさらに詰めてくる。

 右刃の振り下ろし。

 左刃の刺突。

 そこへ間髪入れず、身体ごとの体当たりみたいな圧が乗る。

 俺はブレイカムゼッツァーで斬撃をいなし、プラズマブラスターを逆手気味に持ち替えて刺突を逸らし、その勢いのままドォーンの懐へ肩を入れた。

 

 ぶつかる。

 押し込む。

 だが、向こうはほとんど揺れない。

 重心が低すぎる。

 装甲の塊そのものみたいな安定感だった。

 

「おいおい……!」

 百田が思わず唸る。

「今の押し込んで止まんねぇのかよ!」

 

「単純な重量ではありません」

 キーボの声が装甲越しに響く。

「二刀流に加えて、本体の重心制御まで極めて高精度です!」

 

「そりゃ笑えないっすね……!」

 日菜が答える。

「万津君、真正面の押し合いは分が悪いっす!」

 

「分かってる!」

 

 言い返しながら、俺は一度距離を開いた。

 息を吐く。

 背部ユニットがわずかに展開し、全身へ走る緑のラインが静かに明滅する。

 デジャ・ドリームの既視感は、今はまだ来ない。

 つまり、今のところ“最悪の破滅”へ直結する流れではない。

 だったら、この瞬間は純粋に腕で崩すしかない。

 

 ドォーンが再び踏み込む。

 今度は左右の刃を交差させてから、一気に開く。

 防御ごと弾き飛ばすつもりだ。

 

 俺は正面から迎えた。

 ブレイカムゼッツァーとプラズマブラスターを同時に構え、両方で受ける。

 激突。

 刃と刃、銃身と刃、金属と金属が噛み合い、教室の中へ凄まじい火花が散る。

 押し込まれる。

 床が軋む。

 それでも、エクスドリームの装甲は折れない。

 むしろ、ここで分かった。

 ドォーンの二刀流は強い。

 だが、絶対じゃない。

 どちらの刃にも意思が乗りすぎている分だけ、連携の“間”は確かに存在する。

 

「そこだ!」

 

 俺は受け止めたまま手首を返し、ブレイカムゼッツァーの角度をわずかにずらした。

 右刃が滑る。

 ほんの一拍だけ、ドォーンの力が流れる。

 その隙へ、左手のプラズマブラスターを零距離で叩き込む。

 撃つというより、殴る。

 銃身の先端がドォーンの胸部へめり込み、そこへプラズマの火花が爆ぜた。

 

 さすがに、ドォーンが一歩だけ下がる。

 

「よしっ!」

 赤松の声が弾む。

 

「入ったっす!」

 日菜も叫ぶ。

 

 俺は追う。

 ここで止まる気はない。

 ブレイカムゼッツァーを振り下ろし、受けられた瞬間に逆手へ持ち替え、今度は横薙ぎ。

 その軌道へドォーンがもう片方の刃を合わせてくるのを、今度はプラズマブラスターの射撃で牽制する。

 光弾。

 斬撃。

 突き。

 受け。

 撃ち。

 斬る。

 撃つ。

 押す。

 返す。

 

 完全な二刀流同士の応酬だった。

 

 犬神たちとの戦いが、敵の人数に対処する読み合いなら、ドォーンとの戦いは純粋な技量のぶつかり合いに近い。

 どちらが先に崩れるか。

 どちらが先に相手の“答えのない問い”へ答えを叩きつけられるか。

 そういう戦いだ。

 

「……見事だね」

 

 零の声が、奥から静かに届く。

 相変わらず腹立たしいほど穏やかだった。

 

「けれど、それでもドォーンは止まらない」

 

「だったら止めるだけだ!」

 

 俺が吐き捨てるのと同時に、ドォーンがさらに一段ギアを上げた。

 刃の軌道が変わる。

 今までより重いのに、今までより鋭い。

 右刃で上から押し潰し、左刃で下から切り上げる。

 受ければ崩れ、避ければ刈られる。

 厄介な問いだ。

 だが、今の俺にはもう一つ答えがある。

 

 背中の機構を一瞬だけ開き、体を捻る。

 右刃はブレイカムゼッツァーで受け、左刃はプラズマブラスターの銃身と肘装甲で逸らす。

 ぎりぎりだ。

 だが、通さない。

 

「万津君!」

 茶柱の声が緊張に震える。

 

「大丈夫だ!」

 

 そう返したところで、ようやく気づく。

 空気が変わっていた。

 

 打ち合いの密度が、限界へ近づいている。

 このまま続けても、どこかでどちらかが大きく崩れる。

 だったら、その前に決めに行くしかない。

 俺にも、向こうにも、その意思が生まれたのが分かった。

 

 ドォーンが距離を取る。

 俺も自然に下がる。

 互いに五歩ほどの間合い。

 広くない。

 だが、踏み込むには十分だ。

 

「……まずい」

 最原の低い声が聞こえた。

「次で決めるつもりだ」

 

「っすね……!」

 日菜が息を呑む。

「出力の収束が始まってる!」

 

 見れば、ドォーンの二振りの刃が禍々しい光を帯び始めていた。

 黒と赤が混ざったような、鈍い発光。

 あれをまともに武器で受け続けるのは危険だ。

 そして、こっちも同じことを考えている。

 

 俺はブレイカムゼッツァーとプラズマブラスターを構え直した。

 両方とも、このままでは決め手に足りない。

 だが、ここで必要なのは二刀流の細かな読み合いじゃない。

 真正面から、全部を越える一撃だ。

 

「キーボ」

 

「万津君、脚部への全出力集中、可能です」

 キーボの声は静かだった。

「行けます」

 

「そうこなくっちゃな」

 百田が笑う。

 

「負けないでください!」

 茶柱が叫ぶ。

 

「万津君……!」

 赤松の声が続く。

 

 俺は一度だけ頷いて、それから両腕を下ろした。

 ブレイカムゼッツァーとプラズマブラスターを後方へ流す。

 握ったままではない。

 だが、今は武器の間合いじゃない。

 ドォーンもまた、二振りの刃を静かに低く落とし、全身の装甲へ別の力を集め始めていた。

 

 分かる。

 こいつも、次で終わらせるつもりだ。

 

 背部ユニットが大きく開く。

 緑と金の光が両脚へ走り、エクスドリームの脚部装甲が静かに熱を持ち始める。

 ドォーンの方では、赤黒い光が全身を這い、両脚のラインへ集中していく。

 これ以上は武器じゃない。

 ライダーとライダーの、最後の答え合わせだ。

 

「……決める」

 

 俺は低く呟いた。

 

 ドォーンがわずかに沈み込む。

 俺も同じように重心を落とす。

 教室の空気が張り詰める。

 誰も息をしていないみたいな静けさの中で、互いの脚部へ収束する光だけが、はっきりと見えていた。

 

 次の瞬間には、どちらも飛ぶ。

 そう確信できる距離で、俺たちは真正面から向き合っていた。

 

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