ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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極限 Part6

 ドォーンがゆっくりと構えを落とした瞬間、教室の空気そのものが、ひとつ下の温度へ沈んだ気がした。

 

 さっきまでの二刀流のぶつかり合いは、ただ激しいだけじゃなかった。

 押して、押し返して、火花を散らして、互いの技量を確かめ合うみたいな時間だった。

 でも、もう違う。

 ドォーンも、俺も、分かっている。

 次で決める。

 そういう沈黙だった。

 

 俺はゼッツエクスドリームの装甲の内側で、小さく息を吐く。

 肩も腕も、まださっきの衝撃を覚えている。

 ドォーンの二刀流は、ロードたちとは別の意味で厄介だった。

 片方を防げば、もう片方が来る。

 片方をいなせば、次にはその“いなし”ごと読まれている。

 答えがない。

 だからこそ、最後はもう単純な話になる。

 どちらの一撃が、相手の答えを塗り潰せるか。

 

「来る……!」

 

 最原の声が、背後で低く響いた。

 

 ドォーンの両手から、二振りのブレイカムドォーンがゆっくりと下がっていく。

 捨てるわけじゃない。

 ただ、武器で終わる段階は終わったとでも言うように、刃の主張が静かに消えていく。

 代わりに、赤黒い光が奴の全身の装甲を這い始めた。

 肩から胸、胸から腰、腰から脚。

 まるで悪意そのものが血管みたいに巡って、最後に両脚へ集まっていく。

 

「脚部出力、急上昇っす!」

 日菜の声が張る。

 

「敵必殺反応確認!」

 キーボの声が装甲の奥で重なる。

「パニッシュ系エネルギー、脚部へ集中しています!」

 

 分かる。

 見れば十分だ。

 あの溜め方は、斬るためのものじゃない。

 終わらせるためのものだ。

 

 俺も、両腕をゆっくりと下ろした。

 ブレイカムゼッツァー。

 プラズマブラスター。

 どちらもまだ熱を持っている。

 けれど、今この瞬間に必要なのは、それらを振るうための腕じゃない。

 全部を賭けて、前へ届く脚だ。

 

 背中のユニットが、かすかに駆動音を立てる。

 七色の翼が、今度は派手に広がるんじゃなく、静かに、深く開いていった。

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。

 重なり合う光の羽根が、一枚一枚、呼吸するみたいに脈打って、全身へ流れる緑と金のラインを脚部へ導いていく。

 

「万津君……!」

 赤松の声が、祈るみたいに震えた。

 

「ここで決めてください!」

 茶柱が叫ぶ。

 

「負けんなよ、万津!」

 百田の声は、いつも通り無茶苦茶に真っ直ぐだ。

 

「行けるっす!」

 日菜が続ける。

「出力、まだ上がる!」

 

 その全部が、装甲の内側で熱になる。

 俺一人の鼓動じゃない。

 皆が稼いだ時間。

 皆が守った設計。

 皆が信じた夢。

 その全部が、今この一撃のために脚へ集まっていく。

 

 ドォーンが、わずかに沈み込む。

 低く。

 鋭く。

 それだけで分かった。

 あいつのキックは、ただ強いだけじゃない。

 処刑みたいな軌道をしている。

 逃がさない。

 許さない。

 終わらせる。

 そういう意思が、その構えに全部乗っていた。

 

『パニッシュ・シュートジ・エンド』

 

 低く、重く、断罪の宣告みたいな音が鳴る。

 同時に、ドォーンの脚部装甲が赤黒く爆ぜた。

 床を蹴る。

 一瞬で距離が潰れる。

 真っ直ぐ。

 けれど、ただ真っ直ぐなだけじゃない。

 斬撃の延長みたいに鋭い軌道で、俺を貫くためだけのライダーキック。

 

 俺も跳ぶ。

 

『ライズグレートバニッシュ!』

 

 音声と同時に、ゼッツエクスドリームの両脚へ集まっていた力が、一斉に解放された。

 七色の翼が大きく羽ばたく。

 背中から押し出されるんじゃない。

 夢そのものに背中を押されるみたいに、身体が理想的な角度と速度で空中へ持ち上がる。

 無駄がない。

 迷いもない。

 ただ、届くために最適化された軌道だけがそこにあった。

 

 空中で、ドォーンの赤黒い圧と、俺の金と緑と七色の光が真正面からぶつかる。

 

 激突。

 

 音が、遅れて来た。

 いや、違う。

 最初の衝突で、教室全体が一瞬だけ音を失ったんだ。

 次の瞬間に、まとめて全部が軋んだ。

 窓が震える。

 床が割れる。

 散らばっていた工具が跳ねる。

 ロードたちが思わず身構えるほどの衝撃波が、四方へ叩きつけられる。

 

「っ、はは……!」

 犬神の笑い声が聞こえる。

 

「まだ押し切れないか……!」

 丑寅の低い声。

 

「綺麗……!」

 仄のうっとりした囁き。

 

 でも、そんなものを聞いている余裕はない。

 

 重い。

 

 ドォーンのキックは、本当に重かった。

 ただ威力が高いんじゃない。

 終わらせるための意思が、そのまま衝撃へ変わっているみたいな重さだ。

 足が、軋む。

 押される。

 光の均衡がじりじりと崩れそうになる。

 

「……っ!」

 

 歯を食いしばる。

 ここで押し負けるのか。

 皆の夢を纏って、現実へ立ったこのゼッツが、ここで止まるのか。

 そんな考えが、一瞬だけ脳裏を掠めた。

 

 その瞬間だった。

 

 背中の翼が、さらに強く輝く。

 

「負けんな、万津!」

 百田の声。

 

「みんなの夢、そこにあるんだよ!」

 赤松の声。

 

「押し返してください!」

 茶柱の声。

 

「出力まだ上がるっす!」

 日菜の声。

 

「全同期良好!」

 キーボの声が、装甲の奥からはっきり響く。

「万津君、あなたの意思を!」

 

 その言葉が、胸の中心へ真っ直ぐ刺さった。

 

 一人じゃない。

 

 この器は、俺一人の意地で立ってるわけじゃない。

 皆が作った。

 皆が守った。

 皆が信じた。

 だったら、この一撃は俺だけのものじゃない。

 

「うおおおおおっ!」

 

 叫ぶ。

 それに応えるみたいに、ゼッツエクスドリームの全身を走るラインが一斉に明るさを増した。

 金と緑の光が、赤黒い圧へ食い込む。

 七色の翼が大きく開き、今度はただ支えるだけじゃなく、前へ押し出すために羽ばたく。

 

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 でも確かに、均衡が動く。

 

 ドォーンのキックを、俺のキックが押し返し始める。

 

「……なるほど」

 

 零の声が、どこか遠くで聞こえた。

 穏やかな声だった。

 でも今は、もうそっちを見ない。

 

 ただ前だけを見る。

 ドォーンだけを見る。

 赤黒い圧の中心を、真正面から貫く。

 

「押し返すだと……!」

 丑寅が息を呑む。

 

「はっ、やりやがる!」

 犬神が笑う。

 

 ついに均衡が崩れた。

 

 ゼッツエクスドリームのキックが、ドォーンの脚部装甲へ深く食い込む。

 赤黒い光がひび割れる。

 そこへ、七色の残光をまとった金と緑の一撃が、さらに一段深く突き抜ける。

 

 砕ける音。

 装甲が裂ける。

 そして次の瞬間、ドォーンの身体が大きく弾き飛ばされた。

 

 空中で一度、二度と跳ねるみたいに姿勢を崩し、そのまま教室の奥の壁際まで叩きつけられる。

 赤黒いエネルギーが散る。

 装甲の各部に亀裂が走り、さっきまでの圧倒的な重さが、一気に崩れていくのが分かった。

 

 俺はそのまま着地した。

 床が軋む。

 けれど、姿勢は崩れない。

 脚部へ集まっていた光が静かに収束し、背中の七色の翼がゆっくりと閉じていく。

 

「……はぁ、っ……」

 

 息が熱い。

 でも、まだ立てる。

 ちゃんと立てている。

 

「やった……!」

 赤松の声が震えた。

 

「っしゃあああっ!」

 百田が叫ぶ。

 

「勝ちました!」

 茶柱が拳を握る。

 

「ゴン太、今のすごかった!」

 ゴン太の声は本気で嬉しそうだった。

 

 俺はまっすぐ前を見る。

 倒れたドォーン。

 その向こうで、ロードたちがこちらを見ている。

 犬神は笑っている。

 丑寅は露骨に嫌そうな顔をしている。

 仄は相変わらず気味が悪いくらい嬉しそうだ。

 そして、そのさらに奥に立つ零だけが、静かにこっちを見ていた。

 

 この勝利は、俺一人のものじゃない。

 それだけは、もう疑いようがない。

 

「……言っただろ」

 

 俺は零を見据えて、はっきり言う。

 

「俺は、こっちを選ぶ」

 

 未完成でもいい。

 揺れていてもいい。

 壊れそうでも、それでも一緒に進む夢の方を選ぶ。

 その答えは、もうさっき言葉にした。

 でも今の一撃で、それをもう一度、ちゃんと示せた気がした。

 

 ゼッツエクスドリームの装甲が、静かに脈打つ。

 皆の夢で作られたこの器は、たしかにドォーンを越えた。

 だから、ここから先も俺は前へ出られる。

 

 戦いはまだ終わっていない。

 終天教団も、零も、ロードたちも、まだそこにいる。

 それでも今は、ひとつだけはっきりしていた。

 

 未完成でも、俺たちの夢は、完成された力に勝てる。

 

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