ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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夜 Part3

 映写室の白い光が、まだ壁一面を埋め尽くしていた。

 

 苗木誠たちが絶望の中で希望を選んだ瞬間。

 その映像だけが都合よく切り貼りされ、まるで絶望の舞台こそが希望を作ったのだと語り続けている。

 けれど、最原終一はもう、その白い結論に目を奪われてはいなかった。

 

 黒い装甲に刻まれた青と白のラインが、映写室の光を静かに押し返している。

 真夜中の影は、希望の形をした罠の中で、隠された編集の跡を確かに見つけていた。

 

「映像原版に、天使由来の署名コードを検出しました」

 

 アイボゥの声が通信越しに響く。

 

「やっぱりな。白銀が自分で辿り着いた答えじゃねぇって証拠だ」

 

 伊達さんの声には、抑えた怒りが混ざっていた。

 

 最原は、巨大な映写機の奥で脈打つホープナイトメアを見据えた。

 白い羽根を広げ、フィルム状の糸を全身から垂らしたその姿は、天使のようでいて、人間を役に縫い付けるための怪物だった。

 

「希望は再現される」

 

 ホープナイトメアが告げる。

 

「絶望は条件となる。犠牲は礎となる。舞台は完成される」

 

「違います」

 

 最原の声は静かだった。

 だが、その一言だけで、映写室の白い映像に細かなノイズが走る。

 

「この映像には、切り貼りされた跡がある。苗木さん達の選択を、絶望が希望を作ったという結論にねじ曲げている」

 

「否定は不要。希望は完成される」

 

「お前等の所業は……この僕が白日の下に晒す」

 

 その言葉に、ホープナイトメアの羽根が一斉に逆立った。

 まるで、暗闇に隠していた証拠を掴まれた犯人のように、白い身体が震える。

 

「削除対象。否定する探偵を削除する」

 

 床から再現マネキン達が湧き上がった。

 胸元には、希望役、絶望役、犠牲者役、生存者役、探偵役と書かれたタグがある。

 白いフィルムの糸が彼らを操り、最原へ殺到させる。

 

 最原は一歩も退かなかった。

 

 胸元のノクスドライバーへ手を伸ばす。

 スピナトリガムを押すと、ドライバーが低く唸った。

 続いて、最原はノクスドライバーを再度回転させる。

 

『ミッドナイト!』

 

 音声が響いた瞬間、ドライバーから青、白、黒の光が溢れ出した。

 三色のエネルギーは影のように流れ、最原の右足へ集中していく。

 最原レッグが青白い光を帯び、足元に黒い霞が広がった。

 

「エネルギー反応、右脚部へ集中しています」

 

「必殺技ってわけか。探偵くん、決めてこい」

 

 最原は、ホープナイトメアへ向かって歩き出した。

 走らない。

 焦らない。

 一歩ずつ、白い映像の中を進む。

 

「っ!?」

 

 ナイトメアは、その危険性を理解した。

 白い羽根の針が一斉に放たれる。

 続いて、フィルムの糸が槍のように伸び、マネキン達も同時に最原へ襲い掛かる。

 

 だが、その全ては空を切った。

 

 攻撃が届く直前、最原の姿が闇にほどけるように消えた。

 針は床を貫き、糸は空虚な影だけを縫い止める。

 マネキン達は、目標を失って動きを止めた。

 

「どこにっ」

 

 ホープナイトメアが周囲を見渡す。

 その瞬間、青い光が映写室の八方向で同時に灯った。

 

 八体の最原が現れる。

 それぞれが影から浮かび上がり、ホープナイトメアを中心に円を描くように立っていた。

 

「嘘っ……最原くんが、何人も……?」

 

 白銀の声が震える。

 

 八体の最原が、一斉に動いた。

 それぞれが後ろ回し蹴りを放ち、青白い軌跡が白い映写光を切り裂く。

 ホープナイトメアは羽根を盾にして構え、フィルムの糸を全方向へ放った。

 

「絶望的な状況だ!」

 

 ナイトメアの声が狂ったように響く。

 

「だからこそっ、希望へと変わるぅ!!」

 

 白い羽根の針が八体の分身を貫こうとする。

 だが、蹴りは当たらなかった。

 分身もまた、直撃の寸前で影のように消えた。

 

「どこにっ」

 

 ホープナイトメアが、焦りを隠せず叫ぶ。

 周囲を見渡すその背後に、すでに本体の最原が現れていた。

 

『ミッドナイト!』

 

 再び音声が鳴り、キィンという鋭い音が映写室に走る。

 ホープナイトメアは振り向き、白い羽根を盾のように畳もうとした。

 

 だが、もう遅い。

 

『ノヴァブレイズ!』

 

 最原は、闇から現れた勢いのまま身体を回転させた。

 本命の後ろ回し蹴りが、ホープナイトメアの胴体へ真っ直ぐに叩き込まれる。

 

 命中の瞬間、青白く燃え盛る光衝波が一点に集まった。

 蹴りの衝撃は羽根もフィルムも貫き、ナイトメアの中心へ深く突き刺さる。

 白い装甲のような羽根が砕け、旧希望ヶ峰学園の研究コードが火花のように散った。

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

 ホープナイトメアが叫ぶ。

 青白い衝撃波は、その身体の奥に隠されていた映像原版まで貫き、白いフィルムを焼き切っていく。

 希望は絶望から生まれる、犠牲は条件である、舞台は完成される。

 壁に並んでいた字幕が、次々にひび割れて消えた。

 

 ナイトメアの身体が吹き飛ばされる。

 白い羽根が散り、フィルムの糸が千切れ、映写室の天井へ青白い火花が舞い上がった。

 その余波で、影のような空間は元の映写室へ戻っていく。

 

「ホープナイトメアの構造崩壊を確認しました」

 

 アイボゥが告げる。

 

「ただし、白銀つむぎの認知汚染には残滓があります。完全解除には、本人の認識回復が必要です」

 

「つまり、ここからが探偵くんの本番ってことだな」

 

 最原はゆっくりと足を下ろした。

 最原の右脚から、最後の青白い火花が散る。

 

 崩壊するホープナイトメアの奥で、白銀は立ち尽くしていた。

 彼女の瞳に流れていた白いノイズは薄れ、代わりに戸惑いが浮かんでいる。

 

「わたし……本当に、こんな希望を作りたかったのかな」

 

 小さな声だった。

 けれど、それは今までのようにビデオへ縫い付けられた言葉ではなかった。

 

 最原は白銀へ向き直った。

 青い複眼が、彼女を責めることなく見つめる。

 

「その答えは、白銀さん自身が選ぶものです」

 

 映写室の白い光は、もう支配的ではなかった。

 壁に残ったフィルムは破れ、天使由来の署名コードは最原の前に晒されている。

 

 希望の罠は、白日の下へ引きずり出された。

 だが、白銀つむぎ自身がそこから歩き出すには、まだもう少しだけ時間が必要だった。

 

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