ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
映写室の白い光が、まだ壁一面を埋め尽くしていた。
苗木誠たちが絶望の中で希望を選んだ瞬間。
その映像だけが都合よく切り貼りされ、まるで絶望の舞台こそが希望を作ったのだと語り続けている。
けれど、最原終一はもう、その白い結論に目を奪われてはいなかった。
黒い装甲に刻まれた青と白のラインが、映写室の光を静かに押し返している。
真夜中の影は、希望の形をした罠の中で、隠された編集の跡を確かに見つけていた。
「映像原版に、天使由来の署名コードを検出しました」
アイボゥの声が通信越しに響く。
「やっぱりな。白銀が自分で辿り着いた答えじゃねぇって証拠だ」
伊達さんの声には、抑えた怒りが混ざっていた。
最原は、巨大な映写機の奥で脈打つホープナイトメアを見据えた。
白い羽根を広げ、フィルム状の糸を全身から垂らしたその姿は、天使のようでいて、人間を役に縫い付けるための怪物だった。
「希望は再現される」
ホープナイトメアが告げる。
「絶望は条件となる。犠牲は礎となる。舞台は完成される」
「違います」
最原の声は静かだった。
だが、その一言だけで、映写室の白い映像に細かなノイズが走る。
「この映像には、切り貼りされた跡がある。苗木さん達の選択を、絶望が希望を作ったという結論にねじ曲げている」
「否定は不要。希望は完成される」
「お前等の所業は……この僕が白日の下に晒す」
その言葉に、ホープナイトメアの羽根が一斉に逆立った。
まるで、暗闇に隠していた証拠を掴まれた犯人のように、白い身体が震える。
「削除対象。否定する探偵を削除する」
床から再現マネキン達が湧き上がった。
胸元には、希望役、絶望役、犠牲者役、生存者役、探偵役と書かれたタグがある。
白いフィルムの糸が彼らを操り、最原へ殺到させる。
最原は一歩も退かなかった。
胸元のノクスドライバーへ手を伸ばす。
スピナトリガムを押すと、ドライバーが低く唸った。
続いて、最原はノクスドライバーを再度回転させる。
『ミッドナイト!』
音声が響いた瞬間、ドライバーから青、白、黒の光が溢れ出した。
三色のエネルギーは影のように流れ、最原の右足へ集中していく。
最原レッグが青白い光を帯び、足元に黒い霞が広がった。
「エネルギー反応、右脚部へ集中しています」
「必殺技ってわけか。探偵くん、決めてこい」
最原は、ホープナイトメアへ向かって歩き出した。
走らない。
焦らない。
一歩ずつ、白い映像の中を進む。
「っ!?」
ナイトメアは、その危険性を理解した。
白い羽根の針が一斉に放たれる。
続いて、フィルムの糸が槍のように伸び、マネキン達も同時に最原へ襲い掛かる。
だが、その全ては空を切った。
攻撃が届く直前、最原の姿が闇にほどけるように消えた。
針は床を貫き、糸は空虚な影だけを縫い止める。
マネキン達は、目標を失って動きを止めた。
「どこにっ」
ホープナイトメアが周囲を見渡す。
その瞬間、青い光が映写室の八方向で同時に灯った。
八体の最原が現れる。
それぞれが影から浮かび上がり、ホープナイトメアを中心に円を描くように立っていた。
「嘘っ……最原くんが、何人も……?」
白銀の声が震える。
八体の最原が、一斉に動いた。
それぞれが後ろ回し蹴りを放ち、青白い軌跡が白い映写光を切り裂く。
ホープナイトメアは羽根を盾にして構え、フィルムの糸を全方向へ放った。
「絶望的な状況だ!」
ナイトメアの声が狂ったように響く。
「だからこそっ、希望へと変わるぅ!!」
白い羽根の針が八体の分身を貫こうとする。
だが、蹴りは当たらなかった。
分身もまた、直撃の寸前で影のように消えた。
「どこにっ」
ホープナイトメアが、焦りを隠せず叫ぶ。
周囲を見渡すその背後に、すでに本体の最原が現れていた。
『ミッドナイト!』
再び音声が鳴り、キィンという鋭い音が映写室に走る。
ホープナイトメアは振り向き、白い羽根を盾のように畳もうとした。
だが、もう遅い。
『ノヴァブレイズ!』
最原は、闇から現れた勢いのまま身体を回転させた。
本命の後ろ回し蹴りが、ホープナイトメアの胴体へ真っ直ぐに叩き込まれる。
命中の瞬間、青白く燃え盛る光衝波が一点に集まった。
蹴りの衝撃は羽根もフィルムも貫き、ナイトメアの中心へ深く突き刺さる。
白い装甲のような羽根が砕け、旧希望ヶ峰学園の研究コードが火花のように散った。
「がぁぁぁぁっ!」
ホープナイトメアが叫ぶ。
青白い衝撃波は、その身体の奥に隠されていた映像原版まで貫き、白いフィルムを焼き切っていく。
希望は絶望から生まれる、犠牲は条件である、舞台は完成される。
壁に並んでいた字幕が、次々にひび割れて消えた。
ナイトメアの身体が吹き飛ばされる。
白い羽根が散り、フィルムの糸が千切れ、映写室の天井へ青白い火花が舞い上がった。
その余波で、影のような空間は元の映写室へ戻っていく。
「ホープナイトメアの構造崩壊を確認しました」
アイボゥが告げる。
「ただし、白銀つむぎの認知汚染には残滓があります。完全解除には、本人の認識回復が必要です」
「つまり、ここからが探偵くんの本番ってことだな」
最原はゆっくりと足を下ろした。
最原の右脚から、最後の青白い火花が散る。
崩壊するホープナイトメアの奥で、白銀は立ち尽くしていた。
彼女の瞳に流れていた白いノイズは薄れ、代わりに戸惑いが浮かんでいる。
「わたし……本当に、こんな希望を作りたかったのかな」
小さな声だった。
けれど、それは今までのようにビデオへ縫い付けられた言葉ではなかった。
最原は白銀へ向き直った。
青い複眼が、彼女を責めることなく見つめる。
「その答えは、白銀さん自身が選ぶものです」
映写室の白い光は、もう支配的ではなかった。
壁に残ったフィルムは破れ、天使由来の署名コードは最原の前に晒されている。
希望の罠は、白日の下へ引きずり出された。
だが、白銀つむぎ自身がそこから歩き出すには、まだもう少しだけ時間が必要だった。