ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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夜 Part4

 ノヴァブレイズの青白い衝撃波がホープナイトメアの中心を撃ち抜いた後、映写室には焼けたフィルムの匂いに似た焦げた空気が漂っていた。

 

 壁一面を覆っていた希望の映像は、もう正しい物語のようには流れていなかった。苗木誠達の選択を都合よく切り貼りしていた白いフィルムは、ところどころが裂け、絶望が希望を作るという字幕も、ひび割れた文字となって床へ落ちていく。白い羽根は灰のように舞い、役割のタグを失ったマネキン達は、糸を切られた人形のように動かなくなっていた。

 

 最原終一は、仮面ライダーノクス、ミッドナイトシャドウの姿で静かに立っていた。右脚のミッドナイトシャドウレッグには、まだ青白い火花が残っていて、必殺技の余波が黒い装甲の上を細く走っている。だが、その視線は倒したナイトメアではなく、映写室の奥に立ち尽くす白銀つむぎへ向けられていた。

 

「わたし……本当に、こんな希望を作りたかったのかな。最原くん、わたしは何を再現しようとしていたのかな」

 

 白銀の声は、今までのように滑らかではなかった。希望を語る時の不自然な明るさは薄れ、眼鏡の奥の瞳には、白いノイズではなく戸惑いが揺れている。彼女は胸元を押さえ、破れたフィルムを見下ろしながら、まるで自分の手で縫っていた衣装が別人のものだったと気づいた人のように、言葉を探していた。

 

「その答えは、白銀さん自身が選ぶものです。誰かに与えられた希望でも、誰かのために演じる役でもなく、君自身が何を残したいのかを確かめればいいんです」

 

 最原がそう言った直後、崩れた映写機の奥から、鉄を擦るような音が響いた。白い光は消えかけているはずなのに、焼けたフィルムの影だけが不自然に濃くなり、そこからゆっくりと一つの人影が浮かび上がる。最原は白銀を庇うように一歩前へ出て、青い複眼でその影を見据えた。

 

『警告。映写室内に新たな反応を検出しました。ナイトメア反応とは異なり、外部から投影された疑似人格データの可能性があります』

 

『まだ何かいるのかよ。探偵くん、勝った後が一番危ないってのは捜査でも戦場でも同じだぞ』

 

 伊達さんの声が通信越しに響く頃には、影の中から鉄仮面を被った男が姿を現していた。仮面は冷たい金属の質感を持ち、表情を完全に隠しているのに、こちらを観測する目だけが奥で光っているように見える。男は拍手にも似た緩やかな動作で手を鳴らし、焼け落ちた希望の映像を踏み越えるように歩いてきた。

 

「見事だよ、最原終一。君は希望という編集を、ここまで剥がしてみせた」

 

「お前は誰だ。白銀さんの夢に入り込み、この映像を仕組んだ者なのか」

 

「私はテアラァ。裂く者であり、綻びを示す者だ。直接に手を下したとは言わないけれど、この希望の構造には私達の思想が混ざっている」

 

 白銀はその名を聞いて、身体を小さく強張らせた。彼女はまだ完全に状況を理解できていないが、自分の夢が誰かの思想によって縫い替えられていたことだけは、残骸となった映写室の空気から察しているようだった。

 

「あなたが、わたしにあの映像を見せたの。わたしを、希望を作る役にしようとしたの」

 

「役という言葉は、君にとって親しいものだったはずだよ、白銀つむぎ。君は再現という概念を理解していたからこそ、希望の舞台を組み上げる器として相応しかった」

 

 最原の指が、無意識にノクスドライバーへ近づいた。白銀を器と呼んだその言葉には、彼女を一人の人間として見ていない冷たさがあった。だが、テアラァは怒りを誘うように笑うわけでもなく、ただ実験結果を読み上げる観測者のように淡々としている。

 

「白銀さんを、希望を再現するための道具にしたのか」

 

「道具ではない。器だよ。苗木誠という希望が絶望の中で立ち上がった事実を、別の条件で再演できるのかを知るには、再現を愛する彼女ほど適した存在はいなかった」

 

「希望は、誰かに作らせるものじゃない。まして、絶望や犠牲を材料として用意していいものでもない」

 

 最原の声に、映写室の影がわずかに震えた。テアラァは鉄仮面の奥で何かを観察するように首を傾け、ひび割れたフィルムに刻まれた署名コードへ視線を向ける。

 

「それでも、希望は終わらない。一度舞台が壊れても、別の舞台が組まれる。別の器が選ばれる。君が白日の下に晒したものは、終わりではなく、次の綻びを示すための光にすぎない」

 

「別の器って……まだ誰かを、わたしみたいにするつもりなの」

 

 白銀の問いに、テアラァは答えを急がなかった。鉄仮面は無言のまま光を反射し、その沈黙そのものが肯定のように映写室へ落ちた。

 

「時雨様は、あなた達の選択を観測している。天使は完成を望み、NAIXは綻びを望む。全人類がカムクライズルへ至る時、この偽りの世界は、自らの嘘に耐えられるのかな」

 

『時雨だと。NAIXの名前まで出てくるなら、これはもう夢の事件だけじゃ済まねぇぞ』

 

『テアラァの反応は安定していません。本体ではなく、映像干渉による投影体と推定します』

 

 最原はすぐに影のポータルを開き、テアラァの背後を塞ぐように展開した。だが、鉄仮面の男の輪郭はフィルムノイズのように崩れ始め、影の拘束が触れる前に、投影そのものが薄くなっていく。

 

「逃げるのか。こちらが掴んだ証拠を見せられて、都合が悪くなったのか」

 

「逃げるのではないよ、探偵。君が真実を暴くなら、その先にもっと深い綻びが見えるようにしているだけだ」

 

 テアラァの声は遠ざかりながらも、妙にはっきりと残った。白銀は震える手で自分の袖を掴み、最原はその声の奥にあるNAIXの思想と、天使達の計画が絡み合っていることを理解する。

 

「また会おう、最原終一。君が白日の下に晒した真実の先で、希望がどれほど簡単に編集されるものか、もう一度確かめよう」

 

 最後の言葉を残し、鉄仮面の男は焼けたフィルムの影へ溶けていった。映写室には再び静寂が戻るが、その静けさは勝利の余韻ではなかった。ホープナイトメアは倒された。白銀の夢を縛っていた希望の罠にも亀裂が入った。けれど、その罠を仕組んだ手はまだ外側にあり、次の舞台を探している。

 

「最原くん、わたしは本当に、希望を作りたかったのかな。それとも、誰かの言葉を自分の希望だと思い込んでいただけなのかな」

 

「今すぐ答えを出さなくてもいいです。けれど、今度は白銀さん自身が、自分の言葉で確かめる番です」

 

 最原はミッドナイトシャドウの姿のまま、崩れた映写機の奥に残った署名コードを見つめた。そこには天使由来の白い羽根の識別子と、NAIXの教典式暗号が重なるように刻まれている。

 

 希望は終わらない。テアラァのその言葉は、救いではなく警告として残っていた。誰かが希望を語るたび、その裏に編集された絶望が隠されていないかを確かめなければならない。最原は白銀を支えるように立ちながら、次に暴くべき真実が、もう映写室の外で動き始めていることを静かに受け止めていた。

 

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