ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
前回出力に不要な文字が混ざっていたため、本文のみ修正版を出します。
文字数はコードで確認し、改行と空白込みで**3261文字**、改行と空白を除いて**3164文字**です。
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ソムニウム接続装置の警告灯が青へ戻った瞬間、最原終一は現実の空気を取り戻すように浅く息を吐いた。
身体の感覚が戻ってくるにつれて、映写室に満ちていた白い光の残像が瞼の裏から薄れていく。けれど、鉄仮面の男が残した言葉だけは、夢から引き上げられても耳の奥に貼りついたままだった。希望は終わらない。あの言葉は救いではなく、次の犠牲者を探す宣言として響いていた。
「おい、探偵くん。戻ってきたなら、まず息を整えろ。顔色を見る限り、勝った直後の人間には見えねぇぞ」
伊達さんの声に促され、最原はゆっくりと上体を起こした。隣ではアイボゥが端末上に複数の波形を表示し、最原のバイタルとソムニウムログを照合している。万津くんは少し離れた場所で拳を握り、安堵と警戒の入り混じった目でこちらを見ていた。
「大丈夫です、伊達さん。ただ、向こうで持ち帰った情報があります。白銀さんのナイトメアは倒しましたが、あれで終わりではありません」
「白銀は……助かったのか。あの希望のビデオから、ちゃんと戻ってこられたのか」
万津くんの問いに、最原は隣のベッドへ視線を向けた。白銀つむぎはまだ目を閉じているが、先ほどまでの不自然に高揚した脳波は落ち着き始めている。完全に回復したわけではない。それでも、希望という言葉に縫い付けられていた状態からは、確かに一歩だけ離れたように見えた。
「ナイトメアは消えました。でも、白銀さんの中には認知汚染の残滓が残っています。これから本人が、自分の言葉で確かめ直す時間が必要です」
「それで、終わりじゃない理由は何だ。探偵くんの顔を見る限り、そっちのほうが本題らしいな」
伊達さんが椅子に座り直すと、アイボゥの端末に焼けたフィルムのような映像ログが投影された。そこには、ホープナイトメアの残骸と、崩れた映写機の奥に刻まれていた署名コードが映っている。白い羽根の識別子に混じり、見慣れない幾何学的な記号が絡み合っていた。
「映像原版の残滓を解析しました。天使由来の識別子に加え、NAIX系の暗号構造が混在しています」
「NAIXってのは、伊達さん達の世界で出てきた思想団体ですよね。世界は偽物で、綻びを見つければ破綻させられるっていう、かなり危険な思想の」
「そうだ。まともな奴なら聞き流す話だが、実行力のある連中が信じ込むと洒落にならねぇ。しかも、今の話だと天使共と手を組んでいる可能性がある」
万津くんの声が低くなる。彼は天使達から直接、カムクライズル化計画の存在を聞いている。人類を夢や映像を通じて万能の天才へ書き換える計画。その先にあるのは、人間の感情や記憶や趣味まで削ぎ落とされる、完成という名の別物だった。
「テアラァという鉄仮面の男が現れました。彼は自分を裂く者、綻びを示す者だと言い、時雨という名前も出しました」
最原が告げると、伊達さんの表情から軽さが消えた。アイボゥも解析画面を切り替え、テアラァの投影反応とNAIX式暗号を重ねる。複数の線が接続され、白銀の希望ビデオが天使だけの仕掛けではないことを示していた。
「時雨兎紀子。NAIX日本支部の主宰とされる人物です。対象の思想は、偽りの世界に綻びを作り、破綻を通じて解脱へ至るというものです」
「天使達は人類の完成を望んでいて、NAIXは世界の破綻を望んでいる。目的は違っても、全人類をカムクライズルにするという手段では協力できるわけか」
万津くんの言葉に、部屋の空気がさらに重くなった。完成と破綻。救済と解脱。言葉だけは違っていても、その中心にいる人間が材料として扱われるなら、結果は同じように残酷だった。
「テアラァは、全人類がカムクライズルへ至る時、この世界は自らの嘘に耐えられるのかと言っていました。天使にとっては完成で、NAIXにとっては綻びになる。白銀さんの事件は、その実験だったんだと思います」
「人の夢を使って、希望がどれだけ編集できるか試したってわけか。胸糞悪い実験だな」
伊達さんは吐き捨てるように言ったが、すぐに視線をアイボゥへ向けた。感情だけで動いても、相手の場所が分からなければ手は届かない。今回掴んだ情報を、どこまで追跡できるのかが問題だった。
「NAIXの所在地は現在不明です。通信経路は複数の中継点を経由しており、現時点で追跡は困難です。テアラァも本体ではなく、ソムニウム内へ投影された疑似人格データと推定されます」
「つまり、居場所は分からないが、関わっている証拠だけは残したってことか。挑発にしては丁寧すぎるな」
「彼らは見せたかったのかもしれません。僕達が白日の下に晒した真実の先に、もっと大きな綻びがあると」
最原がそう言った時、白銀の指がわずかに動いた。彼女は薄く目を開け、何度か瞬きをした後、ゆっくりと最原達の方へ視線を向ける。眼鏡の奥の瞳には混乱が残っているが、少なくとも希望を演じようとする固定された笑みは消えていた。
「わたし……みんなを舞台にしようとしていたんだよね。希望を作るためなら、犠牲も必要だって、本気で思っていたのかな」
「白銀さんが本当にそう望んだわけじゃありません。けれど、誰かにそう思わされていたことと、何もなかったことにすることは違います。だから、これから一緒に確かめましょう」
白銀はすぐには答えられなかったが、最原の言葉から逃げることもなかった。彼女は破れたフィルムの残像を見るように目を伏せ、自分の胸元を掴んだ。自責の言葉を吐き出しそうな唇が震えたが、最原はそれを急がせなかった。
「NAIXの場所が分からないなら、まずは残されたログを洗うしかない。天使達の方も、白銀だけで終わらせるとは思えない」
万津くんがそう言うと、アイボゥの端末に新しい警告表示が浮かんだ。解析中の映像コードの奥に、テアラァのものとは異なる識別断片が見つかったらしい。天使の白い羽根とも、NAIXの教典式暗号とも完全には一致しない、第三の署名だった。
「解析中のデータに、テアラァとは異なる識別断片を確認しました。時雨兎紀子本人のものか、天使側の上位存在に関わるものかは、現段階では判定できません」
「まだ奥に誰かいるってことか。次から次へと、夢の奥に隠れるのが好きな連中だな」
伊達さんの言葉に誰も笑わなかった。笑える状況ではなかったからではなく、その軽口の奥にある警戒を全員が理解していた。天使達、NAIX、テアラァ、時雨。そして、まだ名前のない第三の署名。白銀を縛っていた希望のビデオは、より大きな計画の端末に過ぎないのかもしれない。
「それでも、今回は白銀さんを連れ戻せました。だから次は、彼らがどこから手を伸ばしているのかを見つけます」
最原は、まだ重い身体を支えながら立ち上がった。ソムニウムから戻ったばかりで、無理をすれば膝が崩れそうになる状態だったが、その目は映写室で見せたものと同じく、真実を追う探偵の目だった。
白銀はその横顔を見つめ、か細い声で言った。
「最原くん、わたしも知りたい。わたしが何を見せられて、何を希望だと思い込んだのか、逃げずに知りたい」
「なら、一緒に確かめましょう。白銀さんの希望は、誰かに編集された映像では終わらせません」
部屋のモニターには、NAIXの所在地不明という表示が残っている。手掛かりは少なく、相手の本拠地も見えない。だが、映像原版に残された署名コードと、テアラァが残した言葉は、確かに次の真実へ繋がっていた。
希望は終わらない。テアラァの言葉は、今も不気味な余韻を残している。けれど最原は、その言葉を恐れるだけでは終わらせないと決めた。希望が何度でも編集されるというなら、そのたびに編集の跡を暴き、誰かが自分の言葉で選び直せる場所まで連れ戻す。