ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
白い法廷に響いた裁判槌の音は、耳ではなく足元から身体へ伝わってきた。
犬神軋が万津と教祖の罪状を読み上げた直後、床に刻まれた裁定線はさらに光を強めていた。被告、万津。罪状、秩序破壊。被告、教祖。罪状、教団反逆。その文字はただ床に浮かんでいるだけではなく、立っている者の影へ食い込み、動きと言葉の意味を勝手に分類しようとしていた。
「困りましたね。皆さんが静かに従ってくだされば、ここまで強い処置は不要だったのですが」
犬神は裁判長席から穏やかに万津達を見下ろしていた。声に怒りはない。むしろ、本当に面倒事を避けたいだけのように聞こえる。だが、その穏やかさこそが、この白い法廷では何よりも息苦しかった。
「最初から俺達を有罪にするつもりだった裁判に、静かに従う理由なんてない」
万津が言い返すと、足元の裁定線がわずかに跳ねた。反論、被告弁明、秩序攪乱の可能性。白い文字が床へ次々と浮かび、万津の言葉をその場で小さく切り分けていく。
最原終一は、床の文字列と法廷の壁面に流れる記録を見比べていた。彼の表情は険しく、犬神の裁判が事実を確認するものではなく、最初から結論へ向かって構成された装置なのだと見抜いている。
「この法廷は、公平に判断する場所ではありません。犬神さん、あなたは最初から結論へ向けて事実を並べている」
「事実を並べることも、秩序を守るための務めです」
「違います。あなたは事実を並べているように見せながら、解釈を一つに固定している」
犬神は困ったように微笑んだまま、最原の言葉を受け流した。反論を恐れているのではない。そもそも、異議を唱える声も裁定の材料として処理すればいいと考えているようだった。
教祖は万津の隣に立ち、白い鎖が自分の足元へ伸びているのを静かに見下ろしていた。彼女はその拘束を恐れていないが、犬神の言葉が終天教団の幹部達の祈りを背負っていることも理解している。
「犬神君、その力を使うのですね」
「ええ、教祖様。あなたを裁くことになるとは、私としても残念です」
「あなたの残念という言葉は、いつもとても静かですね」
「波風を立てたくないだけですよ。ですが、秩序を守るためなら、処分は避けられません」
犬神は裁判長席からゆっくりと立ち上がった。その動作は、戦闘を始める者のものではなく、書類に判を押す者のように整っている。彼の手には、白銀の発動器――ロードインヴォーカーが握られていた。
王馬小吉が、傍聴席の縁に肘をつきながら楽しげに目を細める。
「お、ついに裁判長が実力行使? 法廷って、意外と暴力的なんだね」
「王馬、今は茶化してる場合じゃねぇだろ」
百田解斗が低く言うと、王馬は肩をすくめた。けれど、その視線は犬神の手元に固定されている。彼はふざけているようで、誰よりもこの法廷の歪みを楽しみながら観察していた。
犬神は小さなカプセムを取り出した。ロードブースターカプセム。その表面に走る光は、白い法廷の裁定線と同じ色をしていた。彼がそれをロードインヴォーカーへ装填すると、法廷全体に低い機械音が響く。
『ロードブースター!』
犬神がロードインヴォーカー上部のポンプを押した瞬間、床の裁定線が一斉に彼の足元へ収束した。まるで法廷そのものが、裁判長の判決を装甲へ変えようとしているようだった。
『オンユアマーク!オンユアマーク!』
白い判決文が犬神の背後へ巨大に展開された。秩序、処分、保留、反逆、強制裁定。無数の文字列が重なり、紙ではなく硬質な装甲片へ変わっていく。
犬神はカプセムを回転させた。法廷の空気が圧縮され、裁判槌の音に似た重い衝撃が広がる。
『インヴォークロードシステム!ロードブースター!』
判決文の装甲が犬神の身体へ貼り付き、白と銀を基調にした強化外装が形成される。腕部にはロードアームブーストが展開し、白い裁定鎖を射出するための機構が浮かび上がった。脚部にはロードレッグブーストが装着され、床の裁定線を踏み込むたびに加速させるような鋭いラインが走る。
肩から背中にかけて、スプレッドケープブーストが白いエネルギーフィールドのように広がった。そのケープは布ではなく、法廷全体へ指向性を持った裁定領域を流し込むための翼に近い。最後に頭部が形成され、ブーストロードヘッドの複眼へ法廷記録の文字列が流れ込む。
『ロードスリー!ブースター!』
白い光が晴れた時、そこに立っていたのはロードスリーブースターだった。
犬神の穏やかさは消えていない。むしろ、強化形態へ変わった後の方が、余計に静かだった。戦士というより、判決そのものが人の形を取ったような姿で、彼は万津達を見渡した。
「これより、強制裁定へ移行します」