ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
白い裁定線は蜘蛛の巣のように広がり、万津、教祖、最原、百田、王馬の足元へそれぞれ伸びる。線はただの拘束ではなく、次に何をすれば違反になるのかを先に決めるための境界線だった。
百田が一歩踏み出した瞬間、裁定線が彼の足首を掠めた。介入者、警告。白い文字が浮かび、百田の動きを止めようとする。
「こいつ、さっきより動きが速ぇ。法廷そのものを武器にしてやがる」
「腕部と脚部の出力が上がっています。裁定線の展開速度も、さっきとは比べものにならない」
最原が分析した直後、ロードスリーブースターは片手を上げた。ロードアームブーストから白い鎖が射出され、万津と教祖へ同時に伸びる。万津は身を捻って避けようとしたが、床の裁定線が先回りし、避ける方向を「逃亡」として分類した。
「万津君、君の言葉が教祖様を変えました。教祖様、あなたが変わったことで教団の秩序は揺らぎました」
鎖は万津と教祖を別々に縛るのではなく、二人を一本の線で繋ぐように絡みついた。まるで、万津の言葉が教祖を変質させた証拠だと示すための拘束だった。
「変わったことが、全部罪になるのか」
「秩序が保てなくなる変化は、処分対象です」
犬神の答えは、あまりにも静かだった。だからこそ、そこに迷いがないように見えた。彼にとって変化は、可能性ではなく、まず危険として処理されるものなのだろう。
教祖は白い鎖を見つめながら、丁寧な声で告げた。
「犬神君、変化をすべて罪とするなら、あなた自身もいつか裁かれることになりますよ」
「その時は、私も裁定を受け入れます。法とは、誰か一人だけを例外にするためのものではありませんから」
「その言葉は立派です。けれど、君の法は本当に人を守るためにあるのでしょうか」
犬神は答えなかった。代わりに、白いケープが広がり、法廷全体へさらに強い裁定領域を流し込む。壁面の文字が更新され、分類が変わっていく。
万津は「秩序破壊者」。
教祖は「反逆者」。
最原は「証言妨害の可能性」。
百田は「介入者」。
王馬は、しばらく表示が揺れた後、再び「分類不能」となった。
その文字を見た王馬が、堪えきれないように笑う。
「にしし、オレだけ扱い雑じゃない? 分類不能ってさ、法廷に失礼じゃなくて、法廷がオレに負けてるだけじゃん」
「王馬小吉君。君は虚偽発言、撹乱、意図的な秩序妨害の可能性が高い。ですが、現時点では裁定に必要な分類が確定しません」
「へぇ、じゃあ犬神ちゃんの裁判って、嘘つき一人で困っちゃうんだ」
最原が王馬を見る。王馬はまだ動いていない。だが、目は笑っていても、法廷のどこを壊せば犬神の裁定が揺らぐのかを探しているようだった。
「王馬くん、何をするつもりなんだ」
「まだ内緒。嘘つきは、タイミングが大事だからね」
ロードスリーブースターは一瞬だけ王馬へ視線を止めた。分類不能という表示は、犬神にとって最も扱いにくい異物なのだろう。万津と教祖を裁く裁判であるはずなのに、王馬の存在が法廷の端から小さく前提を削り始めている。
万津は白い鎖を握りしめ、教祖の方を見た。教祖は苦しそうではない。だが、犬神が自分を反逆者として裁くことを、ただの敵意として受け止めているわけでもなかった。彼女にとって犬神は、終天教団の仲間の一人なのだ。
「教祖、あいつを止めるぞ。裁定なんて言葉で、全部終わらせられてたまるか」
「ええ、万津君。ですが、犬神君の祈りもまた、ただの処分ではありません。彼は波風を立てたくないからこそ、すべてを白く整えようとしているのでしょう」
「だったら、その白が誰かの道を塗り潰してるって教えるだけだ」
万津が鎖を引くと、裁定線が強く光った。違反、抵抗、秩序破壊継続。白い文字が次々と浮かぶが、万津はそれを睨み返した。
百田が隣で拳を握る。
「いいぞ、万津。こんな白いだけの裁判に、勝手にお前の答えを決めさせるな」
「百田君、介入は警告対象です」
「警告でも何でも勝手にしろ。仲間の背中を押すのが罪なら、俺は何度でも有罪でいい」
百田の声に、裁定線が一瞬だけ乱れた。法廷は言葉を分類しようとしたが、百田の言葉は理屈ではなく、万津へ向かう真っ直ぐな力だった。犬神の法は、その感情を完全には切り分けられない。
最原もまた、床に流れる裁定ログを追いながら静かに言う。
「犬神さん、あなたの裁定は強制力を増したことで、逆に前提の歪みを隠せなくなっています。分類が増えるほど、分類できないものも明らかになる」
「分類できないものは、秩序の外にある危険です」
「いいえ。分類できないからこそ、そこにまだ決めつけられていない可能性がある」
その言葉に、ロードスリーブースターの複眼へ流れる文字列がわずかに乱れた。犬神は表情を変えないが、法廷の白い光が一瞬だけ揺れる。
王馬はそれを見逃さなかった。
「ねぇ犬神ちゃん、この裁判って被告が増えたらどうなるの?」
「増える必要はありません。被告は万津君と教祖様です」
「ふーん。じゃあ、その前提を壊したら面白そうだね」
王馬の笑みは、いよいよ悪戯を思いついた子供のように深くなった。まだプロジェクションカプセムは使っていない。けれど、その指先はポケットの中で何かを確かめるように動いていた。
「分類不能。なるほど、君はこの法廷にとって最も厄介な存在かもしれませんね」
「にしし、褒め言葉として受け取っておくよ」
「王馬、変なことを考えてるだろ」
万津が声をかけると、王馬は肩をすくめながら被告席の方へ視線を向けた。
「変なことじゃないよ。裁判をちゃんと面白くしてあげるだけ」
ロードスリーブースターは、白いケープを大きく広げた。法廷の傍聴席が沈み、証人席が壁へ取り込まれ、被告席だけが中央へせり上がっていく。公平な裁判の形をしていた空間は、いつの間にか白い処刑場のように変わり始めていた。
「では、強制裁定を続行します。次に乱す者は、被告として扱います」
その言葉が響いた瞬間、王馬は小さく笑った。
「じゃあ、次はオレの番かもね」
白い法廷に、再び裁判槌の音が鳴り響いた。ロードスリーブースターの複眼に判決文の光が走り、万津達の足元の裁定線は、次の反逆者を待つように白く輝いていた。