ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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始まる part2

目を開けたとき、鼻先を掠めたのは埃っぽいコンクリートの匂いだった。頭の奥底が鈍く痛む。視界がゆっくりと焦点を結び、目の前に聳え立つのは──

 

「……希望ヶ峰学園?」

 

見上げれば確かに巨大な校舎がそびえている。しかし何か違う。壁面にひび割れが走り、窓ガラスの多くが砕けて散乱している。遠くで響くのは鳥の鳴き声ではなく、断続的に続く金属音。工事現場か?

 

足元を見ると制服の裾が汚れていた。いつものことだ。転倒しない日の方が珍しいほどだから。だが今回は違和感があった。泥じゃない。血糊のようなものがこびりついている。手のひらを見る。乾いた赤黒い液体がこびりついているのに痛みを感じない。

 

「これは……」

 

振り返るとそこは見慣れた通学路のはずだった。しかし路面には亀裂が蜘蛛の巣のように走り、アスファルトの下から枯れた木々が突き出ている。空は不自然に歪んだ鉛色で、太陽は墨汁に浸されたような黒い円盤だった。

 

辺りを見回しても誰もいない。ただ風が朽ちた木々を揺らし、ギシギシと不気味な音を立てるだけだ。

 

「誰だ!?」

 

叫んでみるが応答はない。

 

喉が渇く。唾を飲み込む音が頭蓋骨の中で反響する。ふと腕時計を見た。針が狂ったように高速で逆回転している。

 

「おかしい……絶対におかしい……」

 

胸ポケットを探る。学生証がない。慌てて全身を叩き確認するが財布すら消えていた。落とした? いや違う。あの白衣の女の人──そこで唐突に記憶がフラッシュバックする。

 

彼女のスマホの画面に映ったもの。あの時聞いた声。

 

「見ちゃ駄目ッス!」

 

そして次の瞬間、激しい衝撃と暗闇。まるで何かに突き飛ばされる感覚。冷たいアスファルトの感触──

 

「まさか……」

 

背筋に冷たい汗が流れる。そうだ、これは現実じゃない。現実であってたまるものか。こんな異常な世界があるはずがない。

 

脳裏に浮かぶのは幼稚園時代のことだ。初めての登園日。バス停で友達になりそうな子を見つけた時、突然暴走したトラックが目前に迫ってきた。必死で庇いながら押し倒した俺は──額から大量の血を流しながらもなぜか五体満足で救急車に乗せられた。母親が泣きながら叫んだ言葉を今も覚えている。

 

「あんたまた運が良かったねぇ!」

 

違う。あれは"不運"のはずだ。誰かを守ろうとして負傷することこそ不運というものだろう。なのに周囲はそれを「運が良い」と言う。皮肉なものだと思っていた。

 

だが今は違う。この異様な状況こそ真の"不運"に違いない。しかし同時に奇妙な確信もあった。これは"夢"だ。リアルすぎる夢なのだ。かつて読んだ心理学の本に書いてあった。明晰夢というやつか。自分の意志で夢の中を操作できるという──

 

試しに強く念じてみる。

 

「壁が動け」と。

 

すると眼前の校門の鉄柵がゆっくりと持ち上がり始めた。隙間から覗く内部はさらに荒廃していた。建物全体が傾きかけ、瓦礫が庭園を埋め尽くしている。噴水は干上がり、水盤には無数の動物の死骸が沈んでいた。

 

「なんだよここ……」

 

呟いた瞬間だった。

 

「死ぬのは怖いよなぁ」

 

背筋が凍るような低く歪んだ声だった。振り向く間もなく、肩を掴まれる強い力。振り払おうとしても鋼鉄の枷のように動かない。

 

「お前……また他人を庇ったな? 馬鹿か?」

 

耳元で囁かれる嘲笑混じりの言葉。それだけで全身の血液が逆流するような悪寒が走る。

 

「だ、誰だ……!」

 

ようやく顔を上げると――そこにいたのは人間の形をした"何か"だった。

 

ダークグリーンの光沢を放つメカニカルな装甲が全身を覆っている。左腕は明らかに有機的な組織ではなく、巨大な砲塔のような機構へと変貌していた。銃口と思しき穴から微かな熱気が漏れ出し、内部で何かが蠢いているように見える。

 

最も悍ましいのは頭部だった。リボルバーマグナムの弾倉部分をそのまま顔面に移植したような歪な造形。六つの空洞が規則正しく並び、そのうち三つに異様に輝く黄色の弾丸が装填されていた。

 

「なんだ……コイツ……!」

 

生物なのか機械なのか判断もつかない異形。だが目の奥にあるのは明確な殺意だった。夢の中とはいえ、この"敵意"は本物だ。

 

怪物の右腕がゆっくりと上がる。

 

「次に庇う奴は本当に死ぬぞ? 絶望の礎になれ」

 

「ぐっ……!」

 

駄目か。

 

そう考えた時、誰かが俺の手を引っ張った。

 

「えっ」

 

誰?

そう考えて見つめた先にいたのは、半透明な銀髪の少女がいた。

 

「どっどういう状況!?」

 

「良いからさっさと走れ!」

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